大気環境学会誌
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原著
日本列島における降水の NO3-/nssSO42- 濃度比の経年変化
藤田 慎一
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2013 年 48 巻 1 号 p. 12-19

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抄録

非海塩起源の硫酸イオンに対する硝酸イオンの濃度比(NO3-/nssSO42- 濃度比)は、降水の酸性化に及ぼす硫酸と硝酸の寄与を評価するうえで便利な指標である。本報では1976 年から2011 年の期間にわが国で実施された湿性沈着の観測データを収集し、(1)綾里、狛江、五島におけるNO3-/nssSO42- 濃度比の経年変化と季節変化;(2)近年のNO3-/nssSO42- 濃度比の地理分布と時間変動の変化;(3)日本列島のNO3-/nssSO42- 濃度比に及ぼす東アジア地域のNOx/SO2排出量比の変化の影響について検討を行った。日本列島におけるNO3-/nssSO42- 濃度比の経年変化をみると、濃度比が大きく増加したのは、いずれの地点でも1980 年代から1990 年代であり、2000 年代になると変化は明瞭でなくなった。狛江と綾里における濃度比の変化には、2000 年夏季に始まった三宅島の噴火の影響が認められる。1980 年代から1990 年代に綾里と五島でみられた濃度比の増加率は、この間の東アジア地域におけるNOx/SO2 排出量比の増加率に近い。これに対して狛江における濃度比の増加率は、綾里や五島よりもかなり大きく、首都圏の大気中で生成された硝酸の影響を受けたことが示唆される。日本列島におけるNO3-/nssSO42- 濃度比の地理分布をみると、濃度比は太平洋側と日本海側を含めた本州の中央域で全般に大きく、北東域と南西域では小さい。2000 年代のなかごろまで横ばいで推移してきたNO3-/nssSO42- 濃度比は、2000 年代のおわりには増加に転じた形跡がある。その傾向は日本列島の広い地域で認められるが、とりわけ西日本地域の日本海側で顕著である。もしこうした濃度比の変化が、当該地域における排出量の変化と関係したものなら、その理由としては NOx 排出量の増加、あるいはSO2排出量の減少、さらにはその両方が関係しているのではないかと考えられる。既往のnssSO42- 沈着量とNO3- 沈着量に対する排出源寄与率の解析結果をふまえると、中国大陸における排出源の変化、とくにSO2 排出量の頭打ちが濃度比の増加に関係している可能性は大きい。

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© 2013 社団法人 大気環境学会
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