大気環境学会誌
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総説
大気中微小粒子状物質の長期曝露が死亡に及ぼす影響―疫学研究における曝露と健康影響の評価に関する系統的レビューとメタ解析―
上田 佳代 Tasmin Saira高見 昭憲五藤 大輔大石 瑞樹Vera Ling Hui Phung安河内 秀輔Pratiti Home Chowdhury
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2016 年 51 巻 6 号 p. 245-256

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抄録

大気中PM2.5の長期曝露が死亡に及ぼす影響についての疫学知見について系統的文献レビューを行い、曝露評価方法についてまとめるとともに、メタ解析を行い、結果を統合した。1990年1月1日~2015年12月31日の間に公表されている英語の論文について、曝露を示す用語として“air pollutant(s)”、“air pollution”、“particulate matter”、“PM2.5”、“PM10”を、健康アウトカムを示す用語として“mortality”、“death”、長期曝露を示す用語として“long term”、“chronic”、“cohort”を組み合わせて行い、PM2.5と死亡との関連について検討した24件 (対象地域:アジア3件、ヨーロッパ6件、北米15件) の文献を抽出した。PM2.5の曝露評価で用いられた方法は、1990年代~2000年代前半までに公表された研究では、固定測定局による観測値を用いることが一般的であった。近年、空間補間、拡散モデル、Land use regressionモデル、化学輸送モデル、衛星観測で得られるエアロゾルの光学的厚さを用いた推定や、上記の組み合わせによるPM2.5濃度推定値を用いた研究が増えている。各研究の対象地域におけるPM2.5濃度 (平均値、あるいは中央値) は、8.1~35.3 μg/m3であった。PM2.5の死亡に対する影響推定値は、多くの研究で正の関連がみられるものの、一部では負の関連もみられ、研究間の異質性が認められた。メタ解析では、PM2.5の単位濃度(10 μg/m3)あたりのリスク比は1.07 (95%CI: 1.04, 1.09) であった。アジアなどPM2.5濃度の高い地域での研究はほとんどなく、高濃度におけるPM2.5の健康影響について不確実性が残る。今後、アジアを含むPM2.5濃度の高い地域における研究が望まれる。

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© 2016 大気環境学会
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