2016 年 51 巻 6 号 p. 257-265
PM2.5の森林への乾性沈着メカニズムを解明することを目的として、東京郊外の森林においてPM2.5中のSO42-およびNO3-の乾性沈着フラックスを測定し、両成分の沈着速度を求めた。大気微量成分のフラックス直接測定手法の一つである緩和渦集積法を用い、2014年9月から2015年8月の期間の着葉時期に計4回、それぞれ約1週間の集中観測を実施し、昼夜間別の沈着速度を得た。緩和渦集積法によるサンプリングに同期して、林上2高度におけるSO42-およびNO3-の濃度勾配も測定した。NO3-の平均沈着速度はすべての観測期間でSO42-のそれよりも大きかった。全有効データの沈着速度の中央値は、0.19 cm/s (SO42-) および1.4 cm/s (NO3-) であった。また、林上の2高度間における下方向への濃度減衰率は、SO42-よりもNO3-の方が大きく、濃度勾配からも緩和渦集積法による沈着速度の成分間差と整合性のある結果が得られた。全観測期間の日中において、樹冠直上 (高度20 m) の気温が高度30 mの気温よりも高くなる傾向が見られ、さらに、その気温上昇率の増加に伴い、NO3-の沈着速度が大きくなる傾向が見られた。これらの結果より、半揮発性であるNH4NO3粒子が、樹冠直上における気温の上昇に伴い揮発することで樹冠直上のNO3-濃度が減少して濃度減衰率が大きくなることにより、NO3-の沈着速度が増大した可能性が示唆された。