大気環境学会誌
Online ISSN : 2185-4335
Print ISSN : 1341-4178
ISSN-L : 1341-4178
研究論文(原著論文)
温帯低気圧,停滞前線,台風の降水中イオン成分の解析:九州西岸域における1996–2003年の観測
豊永 悟史張 代洲
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 52 巻 2 号 p. 68-80

詳細
抄録

九州西岸域における1996–2003年の降水中イオン濃度の観測データを用いて,温帯低気圧(Cy),停滞前線(SF),台風(Ty)による降水タイプ別の特徴を解析した.Cyによる降水中のNa, Cl, nss-SO42−, NO3, NH4, nss-Ca2+の8年間の平均濃度はそれぞれ68.6±33.1, 80.9±40.9, 32.1±8.8, 14.4±3.7, 15.3±3.5, 8.3±3.4 μeq/Lであった.対照的に,SFによる降水中の濃度はそれぞれ24.9±6.2, 30.2±6.9, 18.2±7.5, 8.1±3.1, 9.9±4.2, 4.4±2.7 μeq/Lと低い値であった.Ty(全11事例)による降水中のNaとClの濃度はそれぞれ227.7±518.3と275.6±619.4 μeq/Lであった.後方流跡線と統計手法を用いた解析により,CyとSFによる降水中イオンの濃度差は,気塊の由来と化学プロセスの違いにより生じていることが示唆された.年間の全降水中の平均イオン濃度はCyとSFによる降水によって主に決定されていた.SFによる降水量の年変動データを用いた試算から,その変動が年間の全降水中の平均イオン濃度に強く影響しうることが示された.以上の結果は,降水化学の地域差の要因推定や正確な将来予測のためには,降水タイプを考慮する必要があることを示している.

著者関連情報
© 2017 大気環境学会
前の記事 次の記事
feedback
Top