大気環境学会誌
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総説
オゾン等の大気汚染物質に対する植物の応答に関与する遺伝子とその機能
佐治 光
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キーワード: active oxygen, cell death, gene, ozone, plant, stress
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2018 年 53 巻 2 号 p. 36-44

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抄録

大気汚染物質は植物にとってストレス因子として作用し、様々な影響を及ぼす。特にオゾンは植物に対する毒性が高く、広い地域で農業や生態系に被害をもたらしている。オゾンは気孔から植物体内に吸収されると細胞内の物質を酸化し、その量があるレベルを超えると光合成や成長を阻害したり葉に斑点状の可視障害を生じさせたりする。しかし研究の進展により、オゾンによる最初の酸化反応と最終的に生じる障害との間には非常に多くの反応が複雑に関わることがわかってきた。

初期の生理学的研究から、植物のオゾン応答には、その吸収経路である気孔の開閉制御や吸収後の活性酸素・エチレン生成等が障害に関与することが示唆されていた。その後、モデル植物を対象とした遺伝子・ゲノム解析の進展に伴い、筆者の所属するグループや欧米のいくつかのグループによる分子遺伝学的研究により、オゾン応答に関わる遺伝子とその機能が次々と明らかになってきた。その結果、従来の知見が確認されるとともに、他のストレス因子に対する研究から得られた情報も加わって、それまで知られていなかった反応の発見や全体的な応答に対する新たな仮説(オゾンによるプログラム細胞死の誘導など)が生み出されてきた。

今後のさらなるゲノム情報の蓄積や遺伝子・ゲノム解析技術の進展により、植物のストレス応答に関する情報が急ピッチで蓄積されていくと予想される。その中から有益な情報をいかに抽出してオゾン応答研究に役立てていくかが重要な鍵になっていくであろう。

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© 2018 大気環境学会
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