桜島を中心にして半径50kmの地域を距離間隔5kmの同心円によって10地域に区分し, それら区分地域の間で, 昭秘3年から57年までの15年間の総死因並びに各種呼吸器系疾病による死亡像を比較した。更にまた, 総死因および喘息, 気管支炎, 肺気腫を一緒にした呼吸器系疾病の訂正死亡率の年次変動と桜島の爆発回数との関係を検討した。結果は次下の如くである。
(1) 桜島から距離30km以内の区分地域においては, 気管支炎, 肺気腫およびインフルエンザにょる死亡実数は標準人口をあてはめた期待死亡数より有意に多かった。しかも, これらの区分地域の間には, 上記カテゴリーの疾病の標準化死亡比に桜島からの距離に関して一定の勾配傾向がみられ, 火山活動がこれらの疾病による死亡を高めることに関係している可能性を示唆する。
(2) 総死因並びに喘息, 急性気管支炎, 肺癌および結核の死亡実数は, 対象地域全体としてみた場合にそれぞれの期待死亡数を有意に上回った。しかし, 肺炎の死亡実数は, 対象地域全体としてのみならず, どの区分地域においても期待死亡数より少なかった。更にまた, これらのカテゴリーに属する疾病の標準化死亡比には, 区分地域間で一定の勾配傾向を見出せず, これらの疾病の死亡パターンに対しては桜島の火山活動の影響はないことが示唆される。
(3) 桜島に近い区分地域内では, 気管支炎, 喘息, 肺気腫をあわせた呼吸器系疾病の年次別訂正死亡率は, 火山の爆発回数がピークを示した年 (1974年) に一致して上昇しており, 桜島に近い地域においては, これらのカテゴリーの呼吸器系疾患の年間死亡に対する火山性大気汚染の因果関係が示唆された。