大気環境学会誌
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ディーゼル排気微粒子 (DEP) による喘息様病態の発症に関する実験的研究
嵯峨井 勝
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1995 年 30 巻 2 号 p. 81-93

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抄録

近年, 大都市の大気環境は悪化しており, 一向に改善のきざしが見られず, ヒトの健康に及ぼす影響が危惧されている。その主な汚染物質はNO2と浮遊粒子状物質 (SPM) である。各地のNO2汚染濃度と喘息発症率との間に高い相関性を示す疫学報告はあるが, それを実験的に証明した報告はまだなく, その因果関係に疑問が残されていた。そこで, 私達は大都市部のSPMの圧倒的な比重を占めているディーゼル排気微粒子 (diesel exhaust particles, DEP) が喘息の原因物質ではないかと考え, マウスを用いて検討した。
その結果, DEPは生体に有害なスーパーオキシド (O2-) やヒドロキシラジカル (・OH) を多量に発生し, それが肺を著しく傷害することを見いだした。これらの活性酸素はDEP中のキノン系化合物の自動酸化や異物代謝酵素系等の反応によって生じるものと推定される。また, 少量のDEPを毎週1回ずつ, 繰り返し気管内投与し続けると気管支の粘膜下組織への好酸球や好中球の浸潤を伴う慢性炎症の発症を認めた。更に, 痰の原因物質である粘液の過剰分泌やアセチルコリンに対する気道の過敏性の亢進も認めた。これらの喘息様病態は活性酸素を消去する酵素 (SOD) の前投与で非常に効果的に抑制された。
これらのことにより, DEPはヒトにおいても喘息を誘発する原因物質である可能性が示され, その誘発には活性酸素が重要な働きをしている可能性が示唆された。また, DEPによる喘息様病態の発症は, これまでにいわれてきたIgE産生を介するI型アレルギー反応とは明らかに異なる機序で起こっていることも示唆された。今後は, 生体に有害なDEPを主とする2μm以下のSPM濃度を各地で測定し, それと各地の既存の喘息発症率データとの間の相関が検討されるなどにより, 更に詳しい因果関係の解析が進むことを期待している。

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