1997 年 32 巻 3 号 p. 231-236
阪神・淡路大震災とその後の復旧活動が大気環境に及ぼした影響を評価するために, 20数年前から継続モニタリングしてきた金属物質のデータを解析した。震災前後の濃度の単純な比較では震災の影響を評価できないので, 阪神地域の神戸市, 芦屋市及び宝塚市の3地点の濃度について月ごとに震災前5年間の平均値との比をもとめ, さらに震災の影響を受けていない対照地域 (7地点) の値で標準化した濃度比を算出して, 震災前後の濃度比の比較を行った。
解析の結果, Fe, Mn, Niに比べZn, Pb, Cdについては濃度比のより顕著な増加が認められ, その濃度比は平年値に比べ最高で60~100%増加した。粒径の小さい金属物質についてより顕著な濃度比の増大がみられたことから, それらは燃焼過程を経てヒュームとして発生したことが示唆された。倒壊家屋やビルなどの解体に伴い発生した膨大な廃棄物を処分するために震災後の一時期, 各地で野焼きが行われた。それが大気中の金属物質濃度を増加させる一因になったことが以上の結果から推測される。