大気環境学会誌
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中国重慶における森林の林内雨に対する酸性沈着の影響
高 世東坂本 和彦徐 渝趙 大為張 冬保周 諧
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1999 年 34 巻 2 号 p. 53-64

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抄録

1992年1月~1995年12月の4年間にわたって中国重慶の後背地にある四面山において森林地域の針葉樹林 (スギ) および広葉樹林 (シラキ) の樹冠の下で林内雨 (throughfall) と林外雨を, 1994年3月~1995年2月の1年間に都市地域にある沙橋溝において森林地域の針葉樹林 (馬尾松) の林内雨と林外雨を採取した。それらの化学成分を分析し, 大気酸性沈着物による樹葉の栄養成分の溶脱 (leaching) および林内雨の化学成分の変化を調べた。また, 林内雨について物質収支モデルを適用し, 四面山の林内雨中の化学成分の起源を検討した。
降水が森林の樹冠部 (canopy) に接触する際に樹葉表面沈着物の洗浄 (wash off) 並びに樹葉表面から栄養塩類の溶脱を引き起こし, 林内雨を酸性化させ, そのイオン成分濃度を増加させていた。そのイオン成分濃度は地域別では沙橋溝の方が四面山より, 樹種別では針葉樹林の方が広葉樹林より高かった。また, 四面山において段階的に採取した降水および林内雨の化学成分分析の結果より, SO42-は非溶脱成分であり, 針葉樹林における林内雨中のCa2+の26%とMg2+の34%, 広葉樹林ではCa2+の34%とMg2+の39%が植物体からの溶脱に由来していると推計された。
林内雨に物質収支モデルを適用して解析したところ, 四面山の林内雨中のK+, Mg2+, Ca2+の起源は平均として, 針葉樹林からそれぞれ61, 59, 11%を, 広葉樹林から70, 64, 28%を溶脱しており, 逆に, F-, Cl-, NO3-およびNH4+は植物体に吸収されていたと推計された。そのため, 大気中の酸性物質の沈着による多量な塩素化合物および窒素化合物の供給は森林生態系の栄養バランスに影響し, K+, Mg2+, Ca2+などの栄養塩類の溶脱は栄養不足を招き, 全体として森林衰退を引き起こすと懸念される。

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