平成12年7月に噴火した三宅島雄山は大量の火山ガスを放出し続けており, これに起因するSO2濃度上昇が東北から関西までの広い範囲で報告されている。本論文では, 東海, 関東地区を対象とした定常的な大気拡散予測を行うとともに, 平成12年10月から12月までの環境測定値との比較によって信頼性を検証した。更に秋季の中部地方へのSO2の移流メカニズムの考察, 三宅島からのSO2放出量推定を行った。拡散予測は, 大気力学モデルによる気象場計算と粒子拡散モデルによる大気中濃度計算の組み合わせで行った。その結果, 全般的に精度の高い実時間予測ができ, 実時間予測システムとしての有用性が実証された。また, より精度の高い計算を行うためには, 降雨洗浄の効果を計算に含めることが重要であることがわかった。東海地方での濃度上昇は, 主に日本を覆っていた移動性高気圧が中心を日本の東海上に移し, 気圧の谷が近づきつつあるパターンで発生した。平成12年10月下旬から11月上旬までの期間において高濃度出現が相次いだのは, この時期としては異常に太平洋高気圧の勢力が強く, 日本付近が停滞前線や低気圧の影響を受けやすかったことに対応していると考えられる。予測計算の結果とモニタリングデータの比較から推定した放出量は, 2~5万t/dayであり, 三宅島のSO2放出量測定値と矛盾しない結果となった。