大気環境学会誌
Online ISSN : 2185-4335
Print ISSN : 1341-4178
ISSN-L : 1341-4178
有害大気汚染物質高排出地域のモデル解析
吉門 洋東野 晴行高井 淳米澤 義尭井上 和也石川 百合子三田 和哲篠崎 裕哉篠原 直秀東海 明宏吉田 喜久男
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 41 巻 3 号 p. 164-174

詳細
抄録

主要な有害大気汚染物質について, 2002 (平成14) 年度のPRTR届出大気排出量の大きかった地域, または同年度の全国モニタリングデータが高濃度であった地域を選択し, PRTRデータの大気排出量に基づいて周辺濃度解析を行った。発生源近傍解析モデルとしてMETI-LISを用い, また個別扱いの事業所を除く周辺地域からの排出によるバックグラウンド濃度は, 広域拡散モデルADMERによって見積もった。
工業地域などの特定の事業所からの排出が際立つテトラクロロエチレン, ベンゼン, 1, 3一ブタジエン, アクリロニトリル等に関しては, モニタリングによる年平均濃度とモデル計算濃度の間に良好な対応が見られた。ただし, ベンゼンではADMERから見積もられるバックグラウンド濃度に加えて更に全国一律的なベース濃度1μg/m3を仮定する必要があった。いずれにせよ, これらの物質ではPRTRの排出量推算, 拡散モデル, モニタリング年平均濃度の三者の合理的な関係が示された。
有害大気汚染物質のうちでも大気中での反応生成が無視できないホルムアルデヒド, アセトアルデヒド, 未把握発生量が大きいと推定されるクロロホルムでは, 直接排出の大きい事業所周辺でも拡散モデルにより良好なシミュレーション結果は得られなかった。
しかし, モデル解析の有効性が確認されたことを踏まえ, 大排出量事業所の直接影響を評価すると, ベンゼンの地域自主管理推進地区の例をはじめとして, ほぼどの物質についても, 有害性評価のための参照値を超える区域は現状では事業所敷地内, あるいは周辺のごく限られた範囲の居住地域と推定され, 今後は一律的な削減対策よりも, 個別の地域ごとに検討することが効果的であると考えられた。

著者関連情報
© 大気環境学会
前の記事 次の記事
feedback
Top