2006 年 41 巻 6 号 p. 355-363
標準物質は機器分析に必要不可欠であり, 近年では国家標準にトレーサブルで不確かさの記述されたものが望まれている。ガス分析における標準ガスについても同様の要求があり, これまでに揮発性有機化合物 (VOC) 混合標準ガスとしては, 大気汚染防止法で優先取組物質である9成分について1ppm~0.1ppmの範囲でJCSS特定標準ガス (国家標準) が整備されている。国内ではガスメーカーから既に大気環境モニタリングレベルである5ppbの低濃度VOC混合標準ガスが市販されているが, 表示された濃度に対する不確かさのデータは十分公表されていない。低濃度領域における標準ガスのもつ不確かさは, 調製に由来する不確かさ以上に経時的な濃度安定性の寄与が大きくなるため, その評価は重要である。筆者らは既存の調製技術および測定技術に加えて, 住友精化株式会社が開発した容器内面処理技術「エンファス処理」(特許取得) を採用して濃度の経時安定性を確保し, 不確かさの小さい標準ガスを開発した。その評価を各段階において不確かさの見積りで行った。その結果, 拡張不確かさ (包含係数: k=2) は0.05ppb (1.0%) から0.39ppb (7.8%) であった。