高岡法科大学紀要
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Print ISSN : 0915-9347
ミュッセにおける理想的夫婦群像とその崩壊
吉田 泉
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1998 年 9 巻 p. 41-21

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抄録

フランスロマン主義文学の寵児ミュッセ(Alfred de Musset (1810-1857))は,彼自身,人気劇作家になりたかったに違いない。それは実現しなかった。しかし恐らくは生活上の必要もあって,それを埋め合わせるために書いたと思われる幾つかのnouvelles (中編小説)やcontes(短編小説)においては,図らずも彼の後半生に顕在化した哲学形態を暗示しているふしがある。このころ(1838年以降),彼の作品には,戯曲にせよ小説にせよ,「理想化された夫婦像」が多く見られる。しかし両者ではそのモチーフが持つ意味合いはかなり異なる。それにっいては,かなりページを費やした。「理想化された夫婦像」は文学的技法としては一種の形骸化であり,もちろん彼における,恋愛や青春の終焉を象徴するものであるが,芝居においてはほとんどそれだけで終わっているのに,小説においては彼の実人生と奇妙にリンクしていることは,ミュッセが彼の晩年,自らの前に見た暗闇を生き抜くために,ますますダンディズム(それは多くの人々の誤解の中にある,服装上の気配りとかのニュアンスに余り関係がないのだが)という哲学形式に依拠せざるをえなかったことを示すだろう。本論はその軌跡を実証しようとしたものである。

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© 1998 高岡法科大学
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