谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
DILI
12.非臨床安全性評価における新規肝障害バイオマーカーを用いた薬剤誘発性肝障害の検出
黒岡 貴生坂本 栄有坂 宣彦
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2020 年 2020 巻 22 号 p. 88-93

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抄録

 薬物性肝障害(DILI)は医薬品の開発中止または市場撤退の主要因であり、医薬品開発の早期段階でDILIリスクを精度よく検出することが求められる1)。臨床試験におけるDILIの検出には、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及び総ビリルビン(T-BIL)が広く用いられている。さらにDILIの重篤度の予測として、これら3つの肝障害バイオマーカー(BM)を用いた基準(Hy's Law)が有用とされている。これら既存肝障害BMは非臨床安全性評価においても広く利用されているが、感度または特異度の点で課題を有しており、DILIリスクを精度よく検出できる新規肝障害BMが求められている。
 既存肝障害BMの課題として、肝臓特異的に発現していないことがあげられる。AST及びALTは肝臓以外にも骨格筋及び小腸などに発現しており、骨格筋などの肝臓以外の障害により血中の値が高くなることが報告されている2)。さらに、AST及びALTは肝臓または小腸における糖新生などのアミノ酸代謝において重要な役割を担っており(図1)、糖質コルチコイドなどの糖新生ホルモンや食事制限などによる糖代謝変化によって臓器中の活性が亢進し、肝障害を伴わずに血中で高値となることが知られている3)
 精度よくDILIリスクを検出できる可能性のある新規肝障害BMとして、グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)及びマイクロRNA-122(miR-122)が研究されている。GLDHはAST及びALTに比して肝臓での発現が高い酵素であり、肝臓でのアミノ酸代謝に重要な役割を担っている(図14)。一方、miR-122は肝臓特異的に発現しているマイクロRNAであり、脂質代謝に関与していることが知られている5)。GLDH及びmiR-122は肝特異度の点で既存肝障害BMよりも優れていることが示されている一方で、糖代謝変化による影響については十分に評価されていない。
 GLDH及びmiR-122は複数のラットDILIモデルにおいて、既存肝障害BMと比較して肝障害の検出力及び早期予測性に優れていることが報告されている6,7)。ただし、GLDH及びmiR-122の肝毒性BMとしての有用性評価はげっ歯類を用いた報告が多く、非臨床毒性試験で用いられる非げっ歯類における有用性評価の報告は少ない8)
 非臨床安全性評価においては、既存肝障害BMによる胆道系障害に対する検出力の低さも課題である。T-BILは胆道系障害BMとして特異度は高いものの、軽度な障害では変化せず、感度の低さが課題である。肝障害はその障害部位により小葉中心性または胆道を含む小葉辺縁性に分類され、肝障害BMは、その肝小葉内局在により、部位ごとの検出力が異なることが知られている。GLDH及びmiR-122はいずれも肝小葉中心部に局在しており4,9)、小葉辺縁部に局在するBMを見出すことは、既存肝障害BMの課題である胆道系障害に対する検出力向上につながると期待される。
 肝臓に多く発現するマイクロRNAのうち、miR-802は小葉辺縁部に局在することが分かっている(未発表データ)。miR-802は、α-Naphthylisothiocyanate(ANIT)投与により胆道を含む小葉辺縁性に障害を誘発させたラットにおいて、miR-122と同等以上の検出力を示すことが報告されており、胆道系障害の検出感度を高められる可能性がある10)
 本研究では、新規肝障害BMであるGLDH、miR-122及びmiR-802について、以下の3つの検討において既存肝障害BMと比較することにより、特徴付けすることを目的とした。
①糖代謝変化が新規肝障害BMに与える影響
②カニクイザルDILIモデルにおける新規肝障害BMの有用性評価
③ラットDILIモデルにおける新規肝障害BMの有用性評価

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© 2020 安全性評価研究会
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