谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
マイクロサンプリング
2.マイクロサンプリングに代表される経時的な連続採血がラットの一般毒性評価指標及びトキシコキネティクス評価に与える影響
宅見 あすか服部 則道
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2021 年 2021 巻 23 号 p. 37-44

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抄録

 非臨床安全性試験におけるトキシコキネティクス(toxicokinetics: TK)評価は、開発候補化合物の全身曝露と毒性の関係性を解析するための重要な意義を有している1)。TK評価では被験物質投与後の実験動物から経時的に血液を採取して血中化合物濃度分析結果に基づく曝露解析が実施されるが、毒性試験で汎用されるげっ歯類では循環血液量が限られるために、毒性試験群からの採血ではなくサテライト群を設け、当該群における血中濃度の推移を確認することが従来的に行われている。かたや近年の理化学分析技術の発達に伴って少量の血液で精度高く濃度を定量することが可能となり、毒性試験群からの微量採血(通称、マイクロサンプリング)をTK評価に利用することが推奨されている2)。この利点として、個体あたりの総採血量を抑えることによる動物の苦痛軽減(Refinement)、TK評価用に別途使用する動物を減らす、あるいはなくすことによる使用動物数の削減(Reduction)といった動物実験の3Rsへの寄与に加え、安全性に関するデータと曝露との関連を同じ動物で評価できるという毒性評価上のメリットに期待がもたれている。また一方で、毒性試験群からの採血操作が毒性評価あるいはTK評価に与える影響について情報が限られることが、特に申請用資料として用いられるGLP試験でマイクロサンプリングの適用を躊躇する要因の1つになっており3)、我々は毒性試験で最も一般的に使用される動物種であるラットを用いて、毒性評価及びTK評価に与える採血の影響の明確化に取り組んでいる。

 本稿ではラットの標準的な反復投与毒性試験を想定した条件下で、経時的な連続採血が一般毒性評価指標に与える影響、またマイクロサンプリングを適用することで選択の幅が広がる採血部位がTK評価に与える影響について、既知の知見とともに実験的に検証した結果を紹介する。さらに、毒性試験への組み込み時に考慮すべき技術的な観点や、化合物開発の過程でのマイクロサンプリングの活用場面にも考察を展開して論じたい。

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