待遇コミュニケーション研究
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Print ISSN : 1348-8481
2019年待遇コミュニケーション学会春季大会・秋季大会研究発表要旨
依頼における不快感の発生にかかわる要因
会話の結果と話者の心的状態変化のプロセスからの分析
滕 越
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2020 年 17 巻 p. 103

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抄録

依頼は、 Brown and Levinson (1987) のポライトネス理論において、本質的にネガティブ・フェイスを侵害する言語行為とされており、衝突や不快感を招きやすいとして多くの研究の対象となっている。しかし、会話の中での不快感の発生や心的状態の変化については、十分な根拠を以って論じられていない。そこで、本研究では、(1)依頼会話の結果と両話者の不快感の関連性、(2)両話者の心的状態の変化のプロセスおよび依頼における不快感の発生にかかわる心的要因の2点を明らかにすることを目的とした。

調査は、同性の友人同士である日本語母語話者10ペアを対象に、オープン・ロールプレイを用いて「依頼会話のデータ」を、5件法のアンケート及びフォローアップ・インタビューを通して「不快感に関するデータ」を、3場面、計30例分収集した。

分析結果は以下の通りである。

(1) 依頼会話の結果と両話者の不快感の関連性については、話者個人の不快感の度合いに関する5件法のアンケートの結果に対し、場面、会話の結果、割り当てられた役割の3つの要因を説明変数として順序ロジット分析を施した。その結果、場面要因のみが有意であり、結果と役割の2要因と不快感との間に、統計的に有意な関連性は得られなかった。

(2) 話者の心的状態の変化のプロセスについて、「依頼側:急で面倒な課題の協力をお願いする×受け手:指定された期間はかなり忙しい」という『課題協力』の場面に対し、質的分析法のGTAを参考にフォローアップ・インタビューの結果を分析した。その結果、両話者ともに、相手の発話を受けてから自分の発話をするまでに、「発話内容の理解→発話への評価→暫定的な心的状態→評価の調整」のプロセスを経ており、さらに自分の発話を通して「心的状態の調整」を行うことがあり、これらが1場面の会話の中が繰り返されることが分かった。また、「発話への評価」がマイナスであり、「評価の調整」でマイナス評価を打ち消さない限り、不快感が生じることが明らかになった。さらに、依頼の受け手は、「評価の調整」において、「相手のひっ迫した状況の想起」、「相手の性格・関係性の想起」、「相手からの共感的発話を受ける」ことによって、マイナス評価を打ち消し、不快感を回避することができることが示された。

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