p. Oral10-
キンカク菌Lambertella corni-maris (L. corni-maris)は、Monilinia fructigena(M. f.)罹病リンゴ果実上でマイコパラサイトする(図1)。本現象は寒天培地上でも菌の置き換わりとして観察され、顕微鏡下ではL. corni-maris(パラサイト)がM. f.(ホスト)菌糸へ侵入している様子が観察される。この時、競争阻害は観察されず、通常の抗生物質生産では説明できない。
我々は本現象に興味を持ちその機構解明研究を展開してきた。その結果、パラサイトL. corni-marisは、ホストM. f.存在条件下で活性前駆体のlambertellol類 (1, 2)を生産し、1, 2は逆マイケル型環開裂などを含む非酵素的変換によって活性型のlambertellin (3)へ誘導されてホストを駆逐すること、ホスト周辺の異常な酸性が1の生産を誘導することなどを明らかにしてきた1-3。しかし、「なぜこのような複雑なシステムが必要か」など、これまでの知見では本現象を完全に説明するには不十分であった。
我々はさらなる検討を行い、Lambertellinシステムと名付けた機構を明らかにした。Lambertellinシステムは、以下を包括したメカニズムでマイコパラサイト現象の全容を合理的に説明することができる。
① 1, 2はパラサイトL. spp.により恒常的に生産されている。
② 1, 2は通常直ちに分解し3に変化するが、ホストM. fructigena周辺の異常な酸性が1, 2を安定化し、ホスト周辺まで到達可能とする。
③ 3はホストのみでなく、生産者であるパラサイトにも毒性を示す。
④ ホスト菌糸近傍に到達した1, 2は徐々に3に変化し、ホストを駆逐する。
⑤ パラサイトL. spp.は、3を生分解することで、自身の中毒を防いでいる。
まず、1, 2は、弱酸性では比較的安定であるが、pH5を超えると分解速度が急激に増大、3への変換が加速することが判明した。恐らく2位水素のpKaが5付近で、中間体Aへの逆マイケル型反応が加速されるのであろう。これは先に報告した酸性条件でL.corni-marisを培養による1, 2の蓄積量が増大した結果とも矛盾しない2。3は寒天培地で、菌糸から数ミリ離れた地点で結晶として観察されることから1, 2の拡散性が説明できる。なお、図3で中性領域では途中から3の濃度が低下しているが、これは飽和によるものである。研究開始当初、ペーパーディスクアッセイにおいて3は小さな阻止円しか示さなかったことからホスト成長阻害物質候補から除外していたが、これは結晶することによって培地中濃度が低下したためであったと考えることができる。(機構②④の証明)
L. sp. 1346培養液に3を添加するとその成長は著しく低下したが、通常の培地に交換すると成長が再開された(図4)。尚、糸状菌の成長を分光学的手法により定量することは困難なため、コロニーの相対堆積で見積もった。また、本実験では機構②を考慮してL. sp. 1346を用いた。本菌の場合、培養液を酸性にするため、3への誘導、すなわちdenovo 3が最小化されると考えためである。また後述する機構⑤であるように、L. sp. 1346は3を生分解するため、12時間ごとに減少分を追加して実験を行った。(機構③の証明。)
(View PDFfor the rest of the abstract.)