天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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低酸素環境選択的がん細胞増殖阻害物質furospinosulin-1の標的分子の解明
荒井 雅吉河内 崇志中田 千晶古徳 直之小林 資正
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p. Oral13-

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抄録

 腫瘍内部は無秩序に血管網が存在するため、部分的な低酸素領域が存在する。このような低酸素環境に適応したがん細胞は、血管新生やがん転移に関わる因子を活発に産生し、化学療法や放射線療法に抵抗性を示すため、病態の悪化に大きく寄与している。その一方、生理条件下において低酸素環境は存在しないことから、低酸素環境のがん細胞選択的に細胞増殖阻害活性を示す化合物は、副作用の少ない新しい抗がん剤のリード化合物になることが期待される。また、がん細胞の低酸素適応に関わる転写因子として Hypoxia Inducible Factor-1a(HIF-1a) が知られており、HIF-1a を標的とする Target-based Screening は活発に行われているが、臨床応用されている化合物は未だ存在しておらず、HIF-1a に代わる新しい薬剤標的分子も見出されていない。

このような背景のもと我々は、がん細胞の低酸素適応に関わる新規責任分子を標的とする分子標的治療薬の創製を目的に、ヒト前立腺がん DU145 細胞を用いて低酸素培養条件選択的に細胞増殖阻害活性を示す活性天然物の探索を行い、インドネシア産海綿 Dactylospongia elegans の抽出エキスから、フラノセスタテルペン furospinosulin-1 (1)1) を見出した (Fig. 1)。1 は濃度依存的かつ低酸素環境選択的な細胞増殖阻害活性を示し、マウスでの in vivo 試験において、経口投与で良好な抗腫瘍活性を示した。また、1 はHIF-1a の阻害剤ではなく、低酸素環境特異的に発現誘導される増殖因子 insulin-like growth factor-2 (IGF-2) の発現を転写レベルで阻害するという、全く新しい作用メカニズムを持つ化合物であることを明らかにしている。2-4) 以上のことから、1 は抗がん剤シーズとして有望であるとともに、HIF-1a 以外の分子を標的としている可能性が高く、その標的分子にも興味がもたれる化合物である。

 今回我々は、furospinosulin-1 (1) の in vivo での詳細な作用について検討するとともに、分子生物学的手法と furospinosulin-1 プローブを利用するケミカルバイオロジーの手法を組み合わせ、これまで不明なままであった 1 の結合タンパク質を同定した。

In vivo における furospinosulin-1 (1) の作用

1. 腫瘍内低酸素領域への影響

マウス肉腫S180 細胞を移植したモデルマウスにおいて、 furospinosulin-1 (1) は経口投与で顕著に腫瘍重量を減少させる。しかし、この 1 の抗腫瘍活性が、腫瘍内部の低酸素領域に作用した結果であるのか否かは不明であった。そこで、低酸素領域に蓄積する pimonidazoleを用いた組織学的手法により、1 が腫瘍内の低酸素領域に与える影響について検討した (Fig. 2)。腫瘍摘出前に pimonidazole をマウスへ腹腔内投与し、腫瘍切片を FITC 標識抗 pimonidazole 抗体により免疫染色後、pimonidazole 陽性領域に存在する生細胞数を測定することで低酸素領域を定量した。その結果、1 投与群の腫瘍は、コントロール群と比較して顕著な低酸素領域の減少が観察された。一方、抗がん剤 cisplatin 投与群についても同様に検討した結果、腫瘍重量は 1 投与群と同程度であるにも関わらず、低酸素領域の顕著な減少は観察されなかった。

2. 腫瘍内 IGF-2 産生量への影響

また、in vitro での fur

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