Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Discovery and Mode of Action of Cyslabdan, a Restoring Agent of MRSA Susceptibility to β-Lactam Antibiotics
Nobuhiro KoyamaYuriko TokouraAtsushi FukumotoYong-Pil KimAtsuko MatsumotoYoko TakahashiHaruo IkedaTanja SchneiderHans-Georg SahlHiroshi Tomoda
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MRSA 耐性克服剤 cyslabdan の発見から 作用機序解析まで

1. 諸言

 近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)は、院内感染の原因菌として社会問題となっている。感染症の中でも、先進諸国では死亡率が非常に高い疾患であり有効な薬剤がほとんどないことから新たな抗 MRSA 剤の開発が強く求められている。このような背景のもと、我々の研究グループでは、臨床上重要な b-lactam 薬imipenem の抗MRSA 活性を回復させる物質を微生物資源より探索するという独自のアイデアに基づき研究を展開してきた。その過程において、放線菌 “Streptomyces cyslabdanicus” K04-0144 株の培養液中より、細胞壁をターゲットとする新しい作用機序を有する抗 MRSA 剤 cyslabdan を発見した。本討論会では、その発見に至る経緯から作用機序の解析について報告する。

2.Imipenem活性増強物質のスクリーニング1)

 2 種類の培地(Mueller-Hinton 寒天平板培地と MRSA の生育に影響しない濃度 10 μg/mL のimipenem を含有するMueller-Hinton 寒天平板培地)の表面に、MRSA 菌液(1.0 x 108 CFU/mL)を滅菌綿棒で塗抹し、37℃、20 時間培養後、ペーパーディスク法により、imipenem 含有培地でのみ阻止円を示す物質を検索した。放線菌や真菌を中心とする微生物培養抽出液(約 20,000 サンプル)について調べた結果、沖縄県石垣島の土壌より分離した放線菌 “S.cyslabdanicus” K04-0144 株の培養液中に強い活性を確認した。

3.放線菌 “S. cyslabdanicus” K04-0144 株の培養及び cyslabdan の単離精製及び構造解析1)

 放線菌 “S. cyslabdanicus”K04-0144 株(Fig. 1)を種培養後、50 L の生産培地(主成分:各 1.0 % の oatmeal と Pharmamedia)に 1.0 % 植菌し、90 L Jar タンク培養装置を用いて、27℃、6 日間通気攪拌培養を行った。その培養液を遠心分離し、上清を合成吸着剤 Diaion HP-20 カラムに吸着後、水洗に続いてメタノールで活性物質を回収し、褐色油状物質(32 g)を得た。次に、これを蒸留水に溶解後、酢酸エチルで分配することで夾雑物を除去した後、減圧乾固することで褐色物質(27 g)を得た。続いて、このサンプルを ODS カラムにアプライした後、40 %~100% MeOH 水溶液を用いて精製し、活性を示す 80 % MeOH 画分を減圧乾固することで褐色物質(268 mg)を得た。続いて、これを分取 HPLC(カラム:PEGASIL ODS 4.6 x 250 mm、溶媒:0.05 % H3PO4を含有する 60 % CH3CN 水溶液、流速:8 mL/min、検出:UV 210 nm)により最終精製した。保持時間 32 min の peak を繰り返し分取し、減圧濃縮後、Diaion HP-20 カラムで脱塩、さらに減圧乾固することで白色粉末の cyslabdan を収量 34 mgで得た。

 Cyslabdan は、UV 波長 232 nm に極大吸収を示し、IR スペクトル解析から、3427 cm-1の吸収から水酸基の存在が示唆された。また高分解能 FAB-MS 測定から、その分子式を C25H41NO5S と決定した。さらに、各種 NMR スペクトル解析の結果(Table 1)から、labdan 型 diterpene を基本骨格とし、thioether を介して N-acetylcysteine 残基が連結した構造を有する新規物質であると決定した(Fig. 2)。さらに、labdan 型 diterpene 部分の立体化学については、NOE スペクトル解析の結果(Fig. 3)、 その相

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1. 諸言

 近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA)は、院内感染の原因菌として社会問題となっている。感染症の中でも、先進諸国では死亡率が非常に高い疾患であり有効な薬剤がほとんどないことから新たな抗 MRSA 剤の開発が強く求められている。このような背景のもと、我々の研究グループでは、臨床上重要な b-lactam 薬imipenem の抗MRSA 活性を回復させる物質を微生物資源より探索するという独自のアイデアに基づき研究を展開してきた。その過程において、放線菌 “Streptomyces cyslabdanicus” K04-0144 株の培養液中より、細胞壁をターゲットとする新しい作用機序を有する抗 MRSA 剤 cyslabdan を発見した。本討論会では、その発見に至る経緯から作用機序の解析について報告する。

2.Imipenem活性増強物質のスクリーニング1)

 2 種類の培地(Mueller-Hinton 寒天平板培地と MRSA の生育に影響しない濃度 10 μg/mL のimipenem を含有するMueller-Hinton 寒天平板培地)の表面に、MRSA 菌液(1.0 x 108 CFU/mL)を滅菌綿棒で塗抹し、37℃、20 時間培養後、ペーパーディスク法により、imipenem 含有培地でのみ阻止円を示す物質を検索した。放線菌や真菌を中心とする微生物培養抽出液(約 20,000 サンプル)について調べた結果、沖縄県石垣島の土壌より分離した放線菌 “S.cyslabdanicus” K04-0144 株の培養液中に強い活性を確認した。

3.放線菌 “S. cyslabdanicus” K04-0144 株の培養及び cyslabdan の単離精製及び構造解析1)

 放線菌 “S. cyslabdanicus”K04-0144 株(Fig. 1)を種培養後、50 L の生産培地(主成分:各 1.0 % の oatmeal と Pharmamedia)に 1.0 % 植菌し、90 L Jar タンク培養装置を用いて、27℃、6 日間通気攪拌培養を行った。その培養液を遠心分離し、上清を合成吸着剤 Diaion HP-20 カラムに吸着後、水洗に続いてメタノールで活性物質を回収し、褐色油状物質(32 g)を得た。次に、これを蒸留水に溶解後、酢酸エチルで分配することで夾雑物を除去した後、減圧乾固することで褐色物質(27 g)を得た。続いて、このサンプルを ODS カラムにアプライした後、40 %~100% MeOH 水溶液を用いて精製し、活性を示す 80 % MeOH 画分を減圧乾固することで褐色物質(268 mg)を得た。続いて、これを分取 HPLC(カラム:PEGASIL ODS 4.6 x 250 mm、溶媒:0.05 % H3PO4を含有する 60 % CH3CN 水溶液、流速:8 mL/min、検出:UV 210 nm)により最終精製した。保持時間 32 min の peak を繰り返し分取し、減圧濃縮後、Diaion HP-20 カラムで脱塩、さらに減圧乾固することで白色粉末の cyslabdan を収量 34 mgで得た。

 Cyslabdan は、UV 波長 232 nm に極大吸収を示し、IR スペクトル解析から、3427 cm-1の吸収から水酸基の存在が示唆された。また高分解能 FAB-MS 測定から、その分子式を C25H41NO5S と決定した。さらに、各種 NMR スペクトル解析の結果(Table 1)から、labdan 型 diterpene を基本骨格とし、thioether を介して N-acetylcysteine 残基が連結した構造を有する新規物質であると決定した(Fig. 2)。さらに、labdan 型 diterpene 部分の立体化学については、NOE スペクトル解析の結果(Fig. 3)、 その相対立体配置を (12E)-labda-12,14-dien-7β,8α-diol と決定した。また、側鎖 N-acetylcysteine 部分の立体化学については、化合物を Raney nickel で処理後に生成したアミノ酸残基を chiral カラムを用いて HPLC 分析することで、D 体と L 体のアミノ酸標品との比較から L 体と決定した。本化合物のように labdan 型 diterpene 骨格を有する化合物は、植物成分として幾つかの例が報告されているが2)、原核生物からは初めての知見であった。

4.生物活性3)

 日本化学療法学会標準法の微量液体希釈法を一部改変し、MRSA に対するMIC 値を測定することにより、cyslabdanの imipenem 増強活性を解析した。まず、cyslabdan 自身のMRSA に対するMIC 値は 64 μg/mL と測定され、抗MRSA 活性を有していないことを確認した。そこで、cyslabdan を MRSA の生育に影響しない濃度(10 μg/mL)で共存させたところ、imipenem の MIC 値を 16 μg/mL から 0.015 μg/mL まで低下させた。この結果より、cyslabdan は最大1000 倍以上にまでimipenem の抗MRSA 活性を劇的に増強させることが明らかとなった。一方、cyslabdan による活性増強作用は、代表的な他の抗細菌薬(streptomycin、vancomycin、tetracycline や ciprofloxacin)については認められなかった。また、b-lactam 薬の中でもcyslabdan は、carbapenem 系の薬剤(imipenem、biapenem、panipenem や meropenem)の抗 MRSA 活性を強く増強する傾向があり、その活性を 512 倍から 1024 倍にまで増強させることが明らかとなった(Table 2)。さらに、臨床分離株である MRSA(22 株)と MSSA(methicillin-susceptible S. aureus、5 株)を用いて、cyslabdan(20 μg/mL)の存在下と非存在下において、ポピュレーション解析を行った結果、MRSA に対する imipenem の MIC50 値は、cyslabdan の存在下では 32 から 0.25 μg/mL まで低下し、ほとんどの MRSA 株の imipenem に対する感受性が 128 倍にまで上昇することが確認できた。一方、MSSA に対する imipenem の MIC50 値は、両条件下において 0.03 μg/mL と変化しなかった。従って、cyslabdanは MRSA に対してのみ影響することが明らかとなった。

5.作用機序の解析4)

 これまでに、imipenem の抗 MRSA 活性増強物質として報告されている数種の化合物(植物由来のポリフェノール類、植物成分 totarol や合成剤 MC-200,616 化合物)が、b-lactam 薬に低親和性のtranspeptidase PBP2’ の活性や発現に影響することが知られていた5-7)。しかしながら、cyslabdan は、蛍光penicillin による結合実験及び抗 PBP2’ 抗体を用いた発現実験において、PBP2’ に対してそのような作用や影響は確認されなかった。

 そこで、別のアプローチとして、MRSA の抽出タンパク質の中より cyslabdan と親和性を示すタンパク質の同定を試みた。まず、定法に従って、cyslabdan を EDC と HOBT の存在下でpolyethylene glycol 鎖をlinker として持つ amino-PEO2-biotin を縮合させ、側鎖 N-acetylcysteine 残基の carboxyl 基の biotin 化体を得た(Fig. 4)。この biotin 化体は cyslabdan と同等の活性を保持していたことから、続いて結合タンパク質の解析を進めた。すなわち、この biotin 化体(12 nmol)を avidin beads(4.2 nmol)に固定化させた後、MRSA から lysostaphin 処理により調製したタンパク質溶液(0.2 mg/300 μL)を加え、4℃で1 時間混和した後に、非特異的に吸着したタンパク質を PBS で洗浄した。最終的に、cyslabdan 結合タンパク質をLaemmli 緩衝液を用いて変性条件下で樹脂より回収した。続いて、SDS-PAGE によりタンパク質を分離後、銀染色で分析することで、約 50 kDa 付近のバンドを再現性良く検出した(Fig. 5)。このバンドをゲルから切り出し、定法に従って、trypsin によるゲル内消化を行った後、生じたペプチド断片を LC-MS/MS 解析し、本タンパク質をSAR1388 と同定した。

 さらに、実際にcyslabdan がSAR1388 と相互作用するか確認する目的で、黄色ブドウ球菌 FDA209P の染色体 DNA を鋳型に SAR1388 タンパク質の C 末端にhexahistidine が連結するように組み換えたタンパク質を大腸菌で発現させ調製した。IPTG 存在下で一晩発現させた可溶性のタンパク質を材料とし、cyslabdan の biotin 化体を固定化させた avidin beads を用いて解析した結果、期待していた様に SAR1388 と cyslabdan の結合性を確認できた。

 SAR1388 は、別名factor essential for expression of methicillin-resistance A(FemA)とも呼ばれ、黄色ブドウ球菌の細胞壁peptidoglycan の生合成において、pentaglycine ブリッジを形成するために必須な酵素であり、glycyl-tRNA の共存下で 2 番目と 3 番目の glycine 残基を monoglycyl lipid II に連結する働きを持つ8)。実際に、cyslabdan が MRSA 細胞壁 peptidoglycan の生合成に影響するか調べるため、cyslabdan処理した MRSA からの peptidoglycan 組成を解析した9)。まず、cyslabdan(4 μg/mL 濃度)を含有する LB 培地中で 37℃で対数増殖期前期まで培養した MRSA(湿菌体、約 2.0 g)からの細胞壁画分を回収した。次に、これを各種酵素(α-amylase、DNase、RNase、trypsin 及び alkaline phosphatase)処理することでpeptidoglycan を調製し、さらにこれを mutanolysin(MurNAc-GlcNAc 間分解酵素)で処理し、NaBH4によって糖部位を還元することで生じた muropeptide を HPLC 分析(カラム:YMC-Triat C18 4.6 x 250 mm、溶媒:100 mM リン酸ナトリウム緩衝液と MeOH の混合溶液、0-5 % (20 分) 及び 5-30 % (150 分)、流速:0.8 mL/min、検出:UV 206 nm)した。その結果、cyslabdan 処理したMRSA では、murein 単量体領域に2 つのpeak の蓄積が観察された(Fig. 6)。これらのピークを HPLC 分取し、減圧濃縮後、ODS カラムを用いて脱塩した。ESI-MS で解析した結果、それぞれのピークをnonglycyl murein monomer と monoglycyl murein monomer と決定した(Fig. 6)。一方、メインピークは、pentaglycyl murein monomer と決定したが、triglycyl murein monomerは、本条件下では検出されなかった。

 さらに、cyslabdan が FemA の酵素活性に対して影響するか解析を進めた。すなわち、組み換え FemA タンパク質(2.7 μg)を酵素源にし、tRNA(25 μg)及び glycyl-tRNA synthetase(10 μg)を主成分とする 100 mM Tris-HCl(pH 7.5)緩衝液中で、酵素基質 monoglycyl lipid II(2.5 nmol)と [14C]glycine(50 nmol)とを反応させた。これにより生成した [14C]triglycyl lipid II をTLC(展開溶媒:CHCl3/MeOH/H2O/NH3=88:48:10:1)で分離後、その放射活性をimaging analyzer により測定することで評価した10)。その結果、0.8 mM と高濃度の条件下において、cyslabdan は FemA の monoglycyl lipid II から triglycyl lipid II への変換反応のみを阻害し、一方、関連酵素である FemX や FemB の酵素活性に対してはほとんど影響しなかった。

 以上の結果にもとづき、cyslabdan のimipenem 活性増強の機構について考察する。まず、imipenem のみの存在下では、MRSA は生育ができることから、imipenem 低親和性の PBP2’ の働きにより pentaglycyl murein monomer を架橋できると考えられる。また、cyslabdan の存在下においても、MRSA は生育できることから、生じた monoglycyl murein monomer を PBP 又は PBP2’ が架橋できると推定される。しかしながら、cyslabdan とimipenem の共存下では、MRSA は生育できないことから、monoglycyl murein monomer を PBP2’ が架橋することができず、peptidoglycan 合成の進行が妨げられた結果、正常な細胞壁が作られなくなり、MRSA を死に至らしめると推察される。

6.結語

 近年、MRSA 臨床分離株の遺伝学的な解析結果に基づき、FemA が MRSA において PBP2’ による b-lactam 薬の耐性度を決定する重要な因子のひとつであることが報告されている11,12)。Cyslabdan はFemA を選択的に阻害する初めての低分子化合物であり、MRSA 細胞壁合成のみならず MRSA の耐性機構を解析するための研究ツールとして、さらには既存薬とは異なるタイプの抗 MRSA 剤の新規リードとしての発展が期待される。

参考文献

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