Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
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Study on Mechanism of Creaming Down by (-)-Epigallocatechin-3-O-Gallate and Caffeine
Tsutsumi HiroyukiSato TakashiKinoshita YoshifumiMukaida HironoriIshizu Takashi
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(-)-Epigallocatechin-3-O-gallateを用いた茶クリーミングダウン現象

1.序論

ツバキ科(Theaceae)のチャ(Camellia sinensis)の葉を基原としているお茶は、古くから飲料や嗜好品として愛飲されてきた。近年では、抗酸化作用や血中コレステロール低下作用など多くの効能が明らかになり、様々な健康飲料が市販されるようになってきている。またこのようなお茶には主要成分としてカテキン類とカフェインが含まれているが、これらは様々な生理活性を示すほか、水溶液中で錯体を形成するという興味深い現象が知られている。一方、温かいお茶が冷えると生じる沈殿やにごりはクリーミングダウン現象として、お茶本来の外観や風味を損なうことで問題になっているが、これについてもカテキン類・カフェイン錯体の関与がいわれている。以前、伊奈らはこの沈殿の大部分がガレート型カテキン類の(-)-Epigallocatechin-3-O-gallate(EGCg)や(-)-Epicatechin-3-O-gallate(ECg)とカフェインであることを13C NMRを用いた研究により明らかにし、またEGCgの水溶液にカフェインの水溶液を加えると実際にクリーミングダウン現象が起きることを報告している。1 そこで、我々はEGCgとカフェインから生じるクリーミングダウン現象による沈殿の結晶化を試み、X線結晶構造解析によりその立体化学構造を解析した。また、EGCgとカフェインとの間に作用している分子間相互作用を詳細に調べることによりクリーミングダウン現象のメカニズムの解明を試みた。さらに、クリーミングダウン現象を模倣して、様々なヘテロ環化合物の捕捉についても検討した。

2.EGCg・カフェイン錯体およびEC・カフェイン錯体の結晶調製2

等モルのEGCgとカフェインを水に90℃で溶かし、室温で12時間放置するとクリーミングダウン現象による粘着状の沈殿と上澄み液に分離した。さらに、これらを10℃で約3ヶ月放置すると、その粘着状の沈殿はゆっくりと結晶化し、無色のブロック状結晶を与えた(Figure 2a)。

同様に、等モルのECとカフェインを水に90℃で溶かし、室温で12時間放置したがクリーミングダウン現象による沈殿は得られなかった。そこで、この水溶液を凍結乾燥し、得られた粉末をメタノールで再結晶することにより無色の針状結晶を与えた(Figure 2b)。

   

    

3.EGCg・カフェイン錯体の立体化学構造2

 EGCgとカフェインの水溶液からFigure 2aに示す操作により得られたブロック状結晶をX線結晶構造解析し、2:2 EGCg・カフェイン錯体であると決定した。そのORTEP図とone unit cellの図をFigure 3に示す。

ここで二面角から判断して、EGCg AとBのB環とB’環はそれぞれC環に対してequatorial配座とaxial配座をとっていることが分かった。また、カフェインは平面構造をとっていることが分かった。

2:2 EGCg

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1.序論

ツバキ科(Theaceae)のチャ(Camellia sinensis)の葉を基原としているお茶は、古くから飲料や嗜好品として愛飲されてきた。近年では、抗酸化作用や血中コレステロール低下作用など多くの効能が明らかになり、様々な健康飲料が市販されるようになってきている。またこのようなお茶には主要成分としてカテキン類とカフェインが含まれているが、これらは様々な生理活性を示すほか、水溶液中で錯体を形成するという興味深い現象が知られている。一方、温かいお茶が冷えると生じる沈殿やにごりはクリーミングダウン現象として、お茶本来の外観や風味を損なうことで問題になっているが、これについてもカテキン類・カフェイン錯体の関与がいわれている。以前、伊奈らはこの沈殿の大部分がガレート型カテキン類の(-)-Epigallocatechin-3-O-gallate(EGCg)や(-)-Epicatechin-3-O-gallate(ECg)とカフェインであることを13C NMRを用いた研究により明らかにし、またEGCgの水溶液にカフェインの水溶液を加えると実際にクリーミングダウン現象が起きることを報告している。1 そこで、我々はEGCgとカフェインから生じるクリーミングダウン現象による沈殿の結晶化を試み、X線結晶構造解析によりその立体化学構造を解析した。また、EGCgとカフェインとの間に作用している分子間相互作用を詳細に調べることによりクリーミングダウン現象のメカニズムの解明を試みた。さらに、クリーミングダウン現象を模倣して、様々なヘテロ環化合物の捕捉についても検討した。

2.EGCg・カフェイン錯体およびEC・カフェイン錯体の結晶調製2

等モルのEGCgとカフェインを水に90℃で溶かし、室温で12時間放置するとクリーミングダウン現象による粘着状の沈殿と上澄み液に分離した。さらに、これらを10℃で約3ヶ月放置すると、その粘着状の沈殿はゆっくりと結晶化し、無色のブロック状結晶を与えた(Figure 2a)。

同様に、等モルのECとカフェインを水に90℃で溶かし、室温で12時間放置したがクリーミングダウン現象による沈殿は得られなかった。そこで、この水溶液を凍結乾燥し、得られた粉末をメタノールで再結晶することにより無色の針状結晶を与えた(Figure 2b)。

   

    

3.EGCg・カフェイン錯体の立体化学構造2

 EGCgとカフェインの水溶液からFigure 2aに示す操作により得られたブロック状結晶をX線結晶構造解析し、2:2 EGCg・カフェイン錯体であると決定した。そのORTEP図とone unit cellの図をFigure 3に示す。

ここで二面角から判断して、EGCg AとBのB環とB’環はそれぞれC環に対してequatorial配座とaxial配座をとっていることが分かった。また、カフェインは平面構造をとっていることが分かった。

2:2 EGCg・カフェイン錯体の層状構造はFigure 4aに示すように、2層からなり、いずれの層においても2分子のEGCgのB’環とB’環の間に1分子のカフェインを挟み込む形をとっていた。その際、EGCgのB’環とカフェインの6員環の間および2分子のEGCgのA環にはπ-π相互作用が働いていた。また、カフェインのN1-CH3、N7-CH3 とそれぞれEGCg A環、 B環の間にはCH-π相互作用が働いていた。さらに、2ヶ所のO-H…N 分子間水素結合と2ヶ所の O-H…O分子間水素結合が形成されていた(Figure 4b)。

2:2 EGCg・カフェイン錯体と比較するために、ECとカフェインの水溶液からFigure 2bの操作により得られた針状結晶についてもX線結晶構造解析を行った(Figure 5)。その結果、この結晶は1:1 EC・カフェイン錯体であることが判明した。ECの二面角から考えて、ECのB環と水酸基はそれぞれequatorial配座とaxial配座をとっていることが分った。また、カフェイン部分は平面構造をとっていることが分かった。

その層状構造はECのA環とカフェインの6員環が相互に繰り返される形をとっていた。その際、ECのA環とカフェインの6員環の間にはπ-π相互作用が働いていた。また、ECのB環のC(14)-H(14)とECのB環の間でCH-π相互作用が働いていた。さらに2ヶ所の O-H…O分子間水素結合が形成されていた。

4.EGCgによるクリーミングダウン現象のメカニズムの解明

 2:2 EGCg・カフェイン錯体におけるカフェイン部分は上下をEGCg部分のB’環によって、また左右をA環とB環によって囲まれている(Figure 6a)。すなわち、カフェイン分子は2:2 EGCg・カフェイン錯体におけるEGCgの3つの芳香環A環、B環、B’環によって形成される疎水性空間に存在することになる。Figure 6bは2:2 EGCg・カフェイン錯体においてカフェイン部分を非表示とし、結晶水の水分子を表示した図である。この図から分かるように、水分子はEGCgの3つの芳香環A環、B環、B’環によって形成される疎水性空間にはほとんど存在せず、その周囲に多く存在している。このことはEGCgのA環、B環、B’環によって形成される空間が疎水性の高い空間になっていることを示唆していて、そのためこの空間にカフェイン分子を取り込んだものと考えられる。さらに、2:2 EGCg・カフェイン錯体はこのように疎水性の高い空間を多く形成することにより、水溶液からクリーミングダウン現象による沈殿として生じたものと考えられる。

一方、1:1 EC・カフェイン錯体では、ECがB’環(ガロイル基)をもたないため、Figure 6bに示すように2:2 EGCg・カフェイン錯体で見られたような疎水性の高い空間を形成することができず、クリーミングダウン現象による沈殿を生じることができなかったものと考えられる。

5.クリーミングダウン現象を模倣したヘテロ環化合物の捕捉

カフェインに代えて、やはりお茶の成分であるニコチンアミドについて、Figure 2aに示した操作を行ったところ、粘着状の沈殿を与えた。これを10℃で放置することにより得られる結晶を水とジクロロメタンで再結晶したところ無色のブロック状結晶を与えた。これについてX線結晶構造解析を行った結果、2:2 EGCg・ニコチンアミド錯体であると判明した。その層状構造をFigure 7に示す。2:2 EGCg・ニコチンアミド錯体は2:2 EGCg・カフェイン錯体と同様にニコチンアミド分子がEGCgの3つの芳香環A環、B環、B’環によって形成している疎水性空間に取り込まれた構造をとっている。

このようにEGCgの3つ芳香環A、B、B’環が形成する疎水性空間は、カフェインやニコチンアミドを取り込むことから、その他のいろいろな化合物も捕捉することが考えられる(Figure 8)。そこで、種々のヘテロ環化合物についてFigure 2aと同様の操作を行うことにより、EGCgによる捕捉能について検討した。Table 1のA(%)は水溶液からEGCgによる捕捉により沈殿として生じたものの割合を示していて、Bはピリジンに対するEGCgの捕捉能を1.000としたときの他のヘテロ環化合物の捕捉能を示している。この結果については今後、詳細に検討していくことにしている。

参考文献

1. Maruyama, N.; Suzuki, Y.; Sakata, K.; Yagi, A.; Ina, K. Proc. International Symposium Tea Science 1991, 145-149.

2. Tsutsumi, H.; Sato, T.; Ishizu, T. Chem. Lett. 2012, 41(12), 1669-1671.

 
© 2013 SYMPOSIUM ON THE CHEMISTRY OF NATURAL PRODUCT
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