Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
55
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Structures of new bromopyrrole alkaloids from an Okinawan marine sponge Agelas sp.
Taishi KusamaNaonobu TanakaJun'ichi Kobayashi
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沖縄産Agelas属海綿より単離した新規ブロモピロールアルカロイドの構造

 Agelasida目やHalichondrida目の海綿に含まれるブロモピロールアルカロイドは、窒素含有率の高い特異な化学構造をもち、多様な生物活性を示す海洋天然物であり、これまでに150種以上の報告例がある1)。これらは代表的なブロモピロールアルカロイドであるoroidinを前駆体として、反応性の高いオレフィン部分やアミノイミダゾール部分が関与した分子内環化、あるいは二量化により生合成されると考えられている。

当研究室では、海洋生物に含まれる特異な化学構造を有する天然物の探索研究を行っており、今回その研究の一環として、沖縄産Agelas属 (Agelasida目) 海綿の成分探索を行った。その結果、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X-Z (1-3)、ならびに新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U-W (4-6) を単離し、構造を明らかにしたので、それらの生物活性と合わせて報告する。

1. 抽出・分離

 沖縄県慶良間諸島で採取されたAgelas属海綿 (SS-162, 3.9 kg, wet weight) を

MeOHで抽出した。この抽出物をEtOAc、n-BuOH、および水で順次分配した後、EtOAc可溶画分をn-hexaneと10% MeOH aq.で分配した。得られた10% MeOH aq.可溶画分をSiO2カラム、ODSカラム、およびLH-20カラムで分離後、ODS HPLCを用いて精製し、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X (1, 0.000057%, wet weight)、Y (2, 0.000074%)、およびZ (3, 0.00035%) を単離した(Chart 1)。同様に、n-BuOH可溶画分を分離し、得られたアルカロイド画分をHILIC HPLCを用いて精製した結果、新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U (4, 0.000032%)、V (5, 0.0000074%)、およびW (6, 0.000037%) が得られた(Chart 1)。

2. Nagelamide X (1) およびY (2) の構造2)

 Nagelamide X (1) は無色非結晶性固体として得られた。ESIMSにおいてm/z 914、916、918、920、および922に1:4:6:4:1の強度比でイオンピークが観測されたことから、分子内に4個の臭素原子の存在を推定した。HRESIMSより1の分子式はC24H28N11O6Br4Sと帰属した。1と既知ブロモピロールアルカロイドの1Hおよび13C NMRスペクトルを比較したところ、2個のジブロモピロールアミド部分、1個のアミノイミダゾール部分、1個のアミノイミダゾリジン部分、および1個のタウリン部分の存在が示唆された。これらの結果から、1をブロモピロールアルカロイド二量体と推定した。

 1の1H-1H COSYおよびHMBCスペクトルの解析から、シクロヘキセン環の存在が確認され、このシクロヘキセン環はアミノイミダゾリジン部分とスピロ縮合(C-11’) することが明らかになった。加えて、H2-10/12-NHおよび14-NH/H-10’間のROESY相関より、テトラヒドロベンズアミノイミダゾール部分の構造を確認し、1の三環性骨格部分の構造を帰属した (Fig. 1)。さらに、各種2D NMRスペクトルの解析から、三環性骨格部分と2個のジブロモピロールアミド部分および1個のタウリン部分のつながりを明らかにし、nagelamide X (1) の平面構造をFig. 1に示した構造と帰属した。

 Nagelamide X (1) の相対配置をROESYスペクトルの解析により帰属した。H-8a/12’-NH、H-9’/12’-NH、およびH-10’/1’’-NH間のROESY相関よ

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 Agelasida目やHalichondrida目の海綿に含まれるブロモピロールアルカロイドは、窒素含有率の高い特異な化学構造をもち、多様な生物活性を示す海洋天然物であり、これまでに150種以上の報告例がある1)。これらは代表的なブロモピロールアルカロイドであるoroidinを前駆体として、反応性の高いオレフィン部分やアミノイミダゾール部分が関与した分子内環化、あるいは二量化により生合成されると考えられている。

当研究室では、海洋生物に含まれる特異な化学構造を有する天然物の探索研究を行っており、今回その研究の一環として、沖縄産Agelas属 (Agelasida目) 海綿の成分探索を行った。その結果、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X-Z (1-3)、ならびに新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U-W (4-6) を単離し、構造を明らかにしたので、それらの生物活性と合わせて報告する。

1. 抽出・分離

 沖縄県慶良間諸島で採取されたAgelas属海綿 (SS-162, 3.9 kg, wet weight) を

MeOHで抽出した。この抽出物をEtOAc、n-BuOH、および水で順次分配した後、EtOAc可溶画分をn-hexaneと10% MeOH aq.で分配した。得られた10% MeOH aq.可溶画分をSiO2カラム、ODSカラム、およびLH-20カラムで分離後、ODS HPLCを用いて精製し、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X (1, 0.000057%, wet weight)、Y (2, 0.000074%)、およびZ (3, 0.00035%) を単離した(Chart 1)。同様に、n-BuOH可溶画分を分離し、得られたアルカロイド画分をHILIC HPLCを用いて精製した結果、新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U (4, 0.000032%)、V (5, 0.0000074%)、およびW (6, 0.000037%) が得られた(Chart 1)。

2. Nagelamide X (1) およびY (2) の構造2)

 Nagelamide X (1) は無色非結晶性固体として得られた。ESIMSにおいてm/z 914、916、918、920、および922に1:4:6:4:1の強度比でイオンピークが観測されたことから、分子内に4個の臭素原子の存在を推定した。HRESIMSより1の分子式はC24H28N11O6Br4Sと帰属した。1と既知ブロモピロールアルカロイドの1Hおよび13C NMRスペクトルを比較したところ、2個のジブロモピロールアミド部分、1個のアミノイミダゾール部分、1個のアミノイミダゾリジン部分、および1個のタウリン部分の存在が示唆された。これらの結果から、1をブロモピロールアルカロイド二量体と推定した。

 11H-1H COSYおよびHMBCスペクトルの解析から、シクロヘキセン環の存在が確認され、このシクロヘキセン環はアミノイミダゾリジン部分とスピロ縮合(C-11’) することが明らかになった。加えて、H2-10/12-NHおよび14-NH/H-10’間のROESY相関より、テトラヒドロベンズアミノイミダゾール部分の構造を確認し、1の三環性骨格部分の構造を帰属した (Fig. 1)。さらに、各種2D NMRスペクトルの解析から、三環性骨格部分と2個のジブロモピロールアミド部分および1個のタウリン部分のつながりを明らかにし、nagelamide X (1) の平面構造をFig. 1に示した構造と帰属した。

 Nagelamide X (1) の相対配置をROESYスペクトルの解析により帰属した。H-8a/12’-NH、H-9’/12’-NH、およびH-10’/1’’-NH間のROESY相関より、9位、10’位、および11’位の相対配置が、それぞれS*、R*、およびR*であることを明らかにした {Fig. 2 (A)}。また、Fig. 2 (B) に示したROESY相関が得られたことから、9’位の相対配置をR*と推定した。

Figure 2. (A) Selected ROESY correlations and the relative stereochemistry for the tricyclic core and (B) projection for the C-9’ to C-10’ bond and the relative configuration for C-9’ of nagelamide X (1).

 同様の解析から、nagelamide Y (2) の構造をnagelamide X (1) の9’-デヒドロキシ体と帰属した (Chart 1)。

 Nagelamide X (1) およびY (2) の旋光度がほぼ0であったため、キラルHPLCを用いた分析を行った。その結果、それぞれ約1:1の比でエナンチオマーの分割を確認できたことから、両者はラセミ体であることが明らかとなった。

3. Nagelamide Z (3) の構造解析2)

 Nagelamide Z (3) は光学活性な淡黄色非結晶性固体として単離された。分子式はC22H22N10O2Br4であり、1Dおよび2D NMRの解析から、2個のoroidinユニットの存在が示唆された。これらのユニットがC-8/C-15’間で結合することを、H-8/C-15’およびH-9/C-15’間のHMBC相関から推定した。H-8/H-10’間に観測されたROESY相関もこの結合を支持した (Fig. 3)。以上の結果から、nagelamide Z (3) の平面構造をFig. 3に示した構造と帰属した。3の8位の立体化学は未帰属である。

4. Nagelamide X-Z (1-3) の予想生合成経路

 Nagelamide X (1) およびY (2) は、oroidinとtaurodispacamide Aが [4+2] 環化付加することにより生成すると考えられる (Fig. 4)。一方、nagelamide Z (3) は、1分子のoroidinが酸化および異性化した後、その8位ともう1分子のoroidinの15位が結合し、生合成されると推定した (Fig. 4)。

Figure 4.Possible biogenetic path of nagelamides X-Z (1-3).

5. Nagelamide U-W (4-6) の構造解析3)

 Nagelamide U (4) とV (5) の分子式は同一のC13N18N6O5Br2Sであり、両者の1H および13C NMRスペクトルは類似していたため、45は立体異性体の関係にある化合物と推定した。各種2D NMRスペクトルの解析から、45の平面構造を、g-ラクタム環にジブロモピロールアミド部分、エタンスルホン酸部分、およびグアニジノ基が結合したブロモピロールアルカロイドと帰属した(Fig. 5)。45のH-9/H-11間の相対配置は、ROESYスペクトルの解析から、それぞれantiおよびsynであることを明らかにした (Chart 1)。

 一方、各種スペクトルデータの解析から、nagelamide W (6) を2個のアミノイミダゾール部分を有するブロモピロールアルカロイドと帰属した (Chart 1)。

6. Nagelamide U (4)W (6)、ならびにX-Z (1-3) の生物活性

 Nagelamide U (4)、W (6)、ならびにX-Z (1-3) を抗菌活性スクリーニングに付したところ、13が様々な菌株に対して抗菌活性を示すことが明らかとなった (Table 1)。Candida albicansに対しては、いずれの化合物も抗菌活性を示したが、特にnagelamide Z (3) が顕著な活性を示した (IC50, 0.25 mg/mL)。

 一方、マウス白血病細胞L1210ならびにヒト扁平上皮癌細胞KBに対する細胞毒性試験では、いずれの細胞株に対しても毒性を示さなかった (IC50, >10 mg/mL)。

まとめ

 沖縄産Agelas属海綿 (SS-162) の成分を詳細に探索した結果、新規ブロモピロールアルカロイド二量体nagelamide X-Z (1-3)、ならびに新規ブロモピロールアルカロイドnagelamide U-W (4-6) を単離し、構造を明らかにした。

 Nagelamide X (1) およびY (2) は、テトラヒドロベンズアミノイミダゾールとアミノイミダゾリジンがスピロ縮合した、新規な三環性骨格を有するブロモピロールアルカロイド二量体である。Nagelamide Z (3) は、oroidinの8位が二量化に関与した初めての化合物である。Nagelamide U (4) およびV (5) はg-ラクタム環を有する初めてのブロモピロールアルカロイドであり、nagelamide W (6) は分子内に2個のアミノイミダゾール部分をもつブロモピロールアルカロイドである。

参考文献

1) (a) Al-Mourabit, A.; Zancanella, M. A.; Tilvi, S.; Romo, D. Nat. Prod. Rep. 2011, 28, 1229-1260. (b) Forte, B.; Malgesini, B.; Piutti, C.; Quartieri, F.; Scolaro, A.; Papeo, G. Mar. Drugs 2009, 7, 705-753.

2) Tanaka, N.; Kusama, T.; Takahashi-Nakaguchi, A.; Gonoi, T.; Fromont, J.; Kobayashi, J. Org. Lett. 2013, 15, 3262-3265.

3) Tanaka, N.; Kusama, T.; Takahashi-Nakaguchi, A.; Gonoi, T.; Fromont, J.; Kobayashi, J. Tetrahedron Lett. 2013, 54, 3794-3796.

 
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