天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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海洋由来放線菌が産生するheronamide類の単離と生物活性
杉山 龍介西村 慎一松森 信明恒松 雄太服部 明村田 道雄掛谷 秀昭
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p. Oral20-

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抄録

生体膜は特定の環境の内外を仕切る構造体であると同時に、シグナル伝達や物質輸送などを制御する機能的なオルガネラとしても働いている。近年、その主要な構成成分である脂質分子が、生体膜において機能的な微小環境を構築・制御している可能性に注目が集まっている。例えば、スフィンゴ脂質とステロールが豊富な膜ドメインは脂質ラフトとよばれ、シグナル伝達を効果的に行うために必要であるとされている1。しかし、脂質分子による生体膜微小環境の形成・維持機構や生理機能の実態は、依然として掴めていないのが現状である。この原因の一つに、脂質が遺伝子に直接コードされる分子ではないことが挙げられる。すなわち、タンパク質の機能解析に有効な遺伝学の方法論を十分に活用できないのである。そこで、脂質に直接はたらきかける化合物を用いた化学遺伝学的なアプローチが期待される。特に、脂質との相互作用を起点に可逆的な機能変調を引き起こすような化合物は、その作用機序解析を通じて脂質分子の機能に直接迫れる可能性がある。ところが、脂質を認識することが知られている化合物は激しい膜傷害性を有する場合が多く、生体膜の解析ツールには適していない。このような背景のもと我々は、生体膜脂質の機能解明を目標に、脂質分子と相互作用する新しい天然化合物の取得と作用機序解析を行っている。本発表では、海洋由来放線菌より得られたポリエンマクロラクタムheronamide 類の単離・構造決定および生物活性について報告する。

1. 脂質認識物質の探索とheronamide類の単離

 Ergosterol 生合成経路に変異を持つ酵母細胞は、脂質と相互作用する化合物に対する感受性が野生株と比べて低下する。例えばergosterolを標的とするamphotericin B (AmB)の分裂酵母に対する生育阻害活性は、erg2遺伝子破壊株では野生株の1/4程度である。この野生株と変異株の感受性の差を指標に、約2,000 の微生物培養液抽出物をスクリーニングしたところ、海洋由来放線菌Streptomyces sp. NSU893 の培養液が目的とする選択性を示すことを見出した。そこで、本培養液 (5 L)から菌体を濾取しCHCl3/MeOH (1:1)で抽出後、各種クロマトグラフィーにより活性成分の精製を行い、新規化合物1 (14.5 mg)を得た。化合物1 は、同じく海洋由来放線菌から報告されたポリエンマクロラクタムheronamides A-C の類縁化合物であった (図1)2。実際、我々の放線菌培養液からもheronamide C (2, 16.1 mg) およびA (3, 11.6 mg) が得られた。

2. Heronamide類の構造解析

化合物1の平面構造は、各種スペクトル解析からheronamide C (2)の8 位デオキシ体8-deoxyheronamide C (8-dHC)と決定した (図1)。Heronamide類とよく似た構造を持つBE-14106 (図6)の生合成経路を参考にすると、8-dHC (1)はheronamide C (2)の生合成前駆体であり、シトクロムP450により酸化を受けることで化合物2へと変換されると考えられる3。また、heronamide C (2)は酸化と環化反応によりheronamide A (3)へと変換されると推測されている2。以上より、化合物1-3の8, 9, 19位の立体化学は保存されていると予想し、8-dHC (1)の立体化学を化合物2, 3との比較解析から決定することにした。しかしスペクトル解析の過程

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