天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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抗生物質BE-43472Bの全合成
山下 裕平野 陽一高田 晃臣瀧川 紘鈴木 啓介
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p. Oral26-

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抄録

 BE-43472B(1)は、1996年に萬有製薬の研究陣によってStreptomyces sp. A43472の培養液から単離された抗生物質であり、その後、Rowleyらによってカリブ海原産のホヤ(Ecteinascidia turbinata)に寄生する放線菌の二次代謝産物として再度単離された。この化合物はヒト腫瘍細胞に対する増殖阻害活性を示すほか、MRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)などの多剤耐性菌に対する強力な殺菌活性を示す。その複雑な構造は、二つのアントラキノン単位から構成されたビスアントラキノンに対し、テトラヒドロフラン環(D環)およびジヒドロフラン環(E環)が縮環した8環性骨格から成っている。

 今回、演者らは当研究室で開発された多環骨格構築法1)を活用し、1のラセミ体および光学活性体の全合成を達成したので報告する。

1. 合成計画

 合成における主な課題は、(1)立体障害の大きい核間位における炭素−炭素結合の形成、ならびに(2)C3位水酸基の立体選択的導入、である。特に、このC3位水酸基は極めて脱離し易いとの報告があり、この点には困難が予想された。すなわち、1をジメチルスルホキシド中、室温下で放置しておくと、しだいに脱水体2へと変化していく。このことを考慮し、なるべく合成の終盤でC3位水酸基を導入することを念頭に逆合成解析を行った。

 まず、C3位水酸基はC2–C3位二重結合を足掛かりに導入することとし、前駆体として脱水体2を想定した。次に、アントラキノン2のH環はナフトキノン3とBrassardジエン4との位置選択的なDiels–Alder反応により構築し、ナフトキノン3はラクトン5から誘導することとした。さらに、ラクトン5の2つの5員環(D、E環)の構築はナフトール6の連続環化反応によることを想定した。この6の核間位のナフチル基は、当研究室で見出されたイソオキサゾールのカチオン安定化効果に基づく位置選択的なピナコール転位反応1)を用いて導入できるものと期待し、出発物質としてケトン72)とナフチルブロミド8とを想定した。

 以下、この計画に基づく合成について述べる。

2. 脱水体の合成とC3位水酸基の導入に関する初期的検討

 上述の計画に基づき、ラクトン5の合成を行った。すなわち、ハロゲン–リチウム交換反応によって、ナフチルブロミド8から対応するリチウム種を発生させ、これをケトン7に付加させることにより、ジオール9を定量的に得た。このジオール9に酸を作用させると、ピナコール転位が速やかに進行し、核間位にナフチル基を有するケトン6が高収率で得られた。このケトン6を酸とともに加熱すると、ヘミアセタールを経て、分子内エステル交換反応が進行し、ラクトン5が得られた。

 このラクトン5をメチレン化してエノールエーテル10とした後、水素化により13-メチル基を導入するとともに、イソオキサゾール環の還元的開環によりエナミノン11を得た。ここから7段階の変換を経て、標的化合物1の脱水体に相当するアントラキノン2の合成に成功した。

 残るはC3位水酸基の立体選択的な導入である。しかし、モデル化合物12を

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