天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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インドールジテルペン生合成に関与するプレニル転移酵素は幅広い基質特異性と柔軟なregular/reverse選択性を併せ持つ
劉 成偉南 篤志野池 基義田上 紘一及川 英秋大利 徹
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p. Oral34-

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インドールジテルペン生合成に関与するプレニル転移酵素は幅広い基質特異性と柔軟なregular/reverse選択性を併せ持つ

【目的】インドールジテルペンは、糸状菌が生産する代表的なマイコトキシンであり古くから研究が行われてきた。その生合成研究は、Scottらによりpaxilline (3)生産菌である糸状菌Penicillium paxilliを用いて、主に遺伝学的手法により進められてきた1)。その結果、生合成遺伝子クラスター中のpaxG, paxC, paxM, paxB, paxP, paxQの6つの遺伝子が3の生成に必要であると示唆されていた2, 3)。つい最近我々は、Aspergillus oryzaeを用いて6つの遺伝子を異種発現させることにより個々の遺伝子の機能を明らかにした(図1)4)。しかし、初発反応を触媒しgeranylgeranyl indole (1)を生成するPaxCの真の基質や、クラスターに存在しプレニル転移酵素と相同性を有するpaxDの機能など不明な点も多い。またAspergillus flavusが生産し3の類縁体であるaflatrem (10)の推定生合成遺伝子クラスターも同定されているが、プレニル転移酵素と相同性を有するatmD遺伝子の機能解明は行われていない。そこで、組換えPaxC、PaxDおよびAtmDに関して詳細な解析を行った。その結果、これらインドールジテルペン生合成に関与するプレニル転移酵素は幅広い基質特異性と柔軟なregular/reverse選択性を併せ持つことが解ったので報告する。

図1 パキシリン生合成遺伝子クラスターと判明している遺伝子機能

【方法および結果】

(1)PaxCの機能解析:これまで2つのグループがトレーサー実験を行い、PaxCの基質として各々L-Trp とindole-3-glycerol phosphate (IGP)を示唆する報告をして                いるが真の基質は定かではない。そこで組換えPaxC酵素を用いて解析を行った結果、IGPが基質となった(図2)。さらにindoleも基質になることが解ったため、両基質を用いてkcat/Km値を求めた結果、IGPに対しては28.2 mM-1S-1、indoleに対しては3.6 mM-1S-1を示したことからIGPが真の基質であると推定された4)。さらに、PaxCはGGDPに加えfarnesyl diphosphateをIGPに付加しfarnesyl indole(FI, 12)を生成する活性も有していた。 

図2 PaxCの機能解析

(2)PaxDの機能解析:上記6つの遺伝子を含む生合成遺伝子クラスター近傍には、プレニル転移酵素と相同性を有するpaxDが存在する(図1)。6つの遺伝子で3が生成した事実に加え、これまでP. paxilliからは3以上に修飾された化合物が単離されていないことから、paxDが菌体内で発現していない可能性も考えられる。そこでcDNAの取得を試みた結果、paxC遺伝子と同様に容易に取得できたことから、paxDもin vivoで機能していると推定された。そこで組換え酵素を用いて機能解析を試みた。上述したように6つの遺伝子で3が生成したことから、PaxDは3をプレニル化すると予想し検討した。その結果、3の21,22位がdi-プレニル化された4が生成した(図3)。4はP. paxilliの培養液中にも微量存在したことから最終産物は3ではなく4であることも解った5)。既知のカビ由来プレニル転移酵素はmono-プレニル化する例しか報告が無く、PaxDはdi-プレニル化を触媒する初めての例である。

図3 Paxillineを基質に用いたPaxDの機能解析

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【目的】インドールジテルペンは、糸状菌が生産する代表的なマイコトキシンであり古くから研究が行われてきた。その生合成研究は、Scottらによりpaxilline (3)生産菌である糸状菌Penicillium paxilliを用いて、主に遺伝学的手法により進められてきた1)。その結果、生合成遺伝子クラスター中のpaxG, paxC, paxM, paxB, paxP, paxQの6つの遺伝子が3の生成に必要であると示唆されていた2, 3)。つい最近我々は、Aspergillus oryzaeを用いて6つの遺伝子を異種発現させることにより個々の遺伝子の機能を明らかにした(図1)4)。しかし、初発反応を触媒しgeranylgeranyl indole (1)を生成するPaxCの真の基質や、クラスターに存在しプレニル転移酵素と相同性を有するpaxDの機能など不明な点も多い。またAspergillus flavusが生産し3の類縁体であるaflatrem (10)の推定生合成遺伝子クラスターも同定されているが、プレニル転移酵素と相同性を有するatmD遺伝子の機能解明は行われていない。そこで、組換えPaxC、PaxDおよびAtmDに関して詳細な解析を行った。その結果、これらインドールジテルペン生合成に関与するプレニル転移酵素は幅広い基質特異性と柔軟なregular/reverse選択性を併せ持つことが解ったので報告する。

図1 パキシリン生合成遺伝子クラスターと判明している遺伝子機能

【方法および結果】

(1)PaxCの機能解析:これまで2つのグループがトレーサー実験を行い、PaxCの基質として各々L-Trp とindole-3-glycerol phosphate (IGP)を示唆する報告をして                いるが真の基質は定かではない。そこで組換えPaxC酵素を用いて解析を行った結果、IGPが基質となった(図2)。さらにindoleも基質になることが解ったため、両基質を用いてkcat/Km値を求めた結果、IGPに対しては28.2 mM-1S-1、indoleに対しては3.6 mM-1S-1を示したことからIGPが真の基質であると推定された4)。さらに、PaxCはGGDPに加えfarnesyl diphosphateをIGPに付加しfarnesyl indole(FI, 12)を生成する活性も有していた。 

図2 PaxCの機能解析

(2)PaxDの機能解析:上記6つの遺伝子を含む生合成遺伝子クラスター近傍には、プレニル転移酵素と相同性を有するpaxDが存在する(図1)。6つの遺伝子で3が生成した事実に加え、これまでP. paxilliからは3以上に修飾された化合物が単離されていないことから、paxDが菌体内で発現していない可能性も考えられる。そこでcDNAの取得を試みた結果、paxC遺伝子と同様に容易に取得できたことから、paxDもin vivoで機能していると推定された。そこで組換え酵素を用いて機能解析を試みた。上述したように6つの遺伝子で3が生成したことから、PaxDは3をプレニル化すると予想し検討した。その結果、3の21,22位がdi-プレニル化された4が生成した(図3)。4P. paxilliの培養液中にも微量存在したことから最終産物は3ではなく4であることも解った5)。既知のカビ由来プレニル転移酵素はmono-プレニル化する例しか報告が無く、PaxDはdi-プレニル化を触媒する初めての例である。

図3 Paxillineを基質に用いたPaxDの機能解析

基質特異性を検討した結果、3の生合成中間体であるpaspaline (2)も基質となったが、di-プレニル化は進行せず何れもmono-プレニル化体のみが得られた(78)。興味深いことに、GGI(1)は基質とならなかったが、FI(12)は基質になることが解った。kcat/Km値を測定した結果、2に対しては9 mM-1S-13に対しては0.6 mM-1S-1と、何れを用いた場合も他の糸状菌由来プレニル転移酵素が示す値よりも著しく小さく、4が微量しか培地中に存在しない事実とよく合致した。

(3)AtmDの機能解析:A. flavusは、3の類縁体である10とb-aflatrem (11)を生産し、Scottらにより生合成遺伝子クラスターも同定されている 6)。クラスター内には、プレニル転移酵素と相同性を有するatmD遺伝子が存在することから、AtmDはpaspalinine (9)の20,21位をreverse にプレニル化すると予想される(図4)。本来の基質と考えられる9が入手できなかったため、3とAtmD組換え酵素を用いて解析を行った。その結果、3つの生成物が認められ、その内2つは予想通り20位と21位がreverseにプレニル化された化合物であった(65)。さらに、PaxD 同様に、2も基質となったが、驚いたことに21位がnormalにプレニル化された7と、22位がnormalにプレニル化された8が生成した。23は極めて似た構造を持つにもかかわらず、プレニル化する位置とregular/reverseの選択性が変わる結果となった。さらに、PaxDが12を基質としたのに対し、AtmDは112の両方を基質とすることが解った。本酵素についても23を基質に用いた場合のkcat/Km値を測定した結果、3に対しては23 mM-1S-12に対しては0.7 mM-1S-1と、3がより良い基質と推定された。しかしAtmDの真の基質は9と考えられ、従って9に対してより高活性を示すと考えられる。本考察は、これまでA. flavusがnormalにプレニル化されたインドールジテルペン類を生産する報告が無い事実からも支持された。

以上、今回解析したPaxC、PaxD、AtmDが触媒する反応を図4にまとめた。これらインドールジテルペン生合成に関与するプレニル転移酵素、特にAtmDは幅広い基質特異性と柔軟なregular/reverse選択性を併せ持つことが解った。今後、X線結晶構造解析を行い、これらの反応機構の詳細な解析を進めていきたいと考えている。

参考文献

1) Young, C.; McMillan, L.; Telfer, E.; Scott, B. Mol. Microbiol. 2001, 39, 754-764.

2) Saikia, S.; Parker, E. J.; Koulman, A.; Scott, B. FEBS Lett. 2006, 580, 1625-1630.

3) Saikia, S.; Parker, E. J.; Koulman, A.; Scott, B. J. Biol. Chem. 2007, 282, 16829-16837. 4) Tagami, K.; Liu, C.; Minami, A.; Noike, M.; Isaka, T.; Fueki, S.; Shichijo, Y.; Toshima, H.; Gomi, K.; Dairi, T.; Oikawa, H. J. Am. Chem. Soc, 2013, 135, 1260-1263.

5) Liu, C.; Noike, M.; Minami, A.; Oikawa, H.; Dairi T. Appl. Microbiol. Biotechnol. 2013, doi; 10.1007/s00253-013-4834-9.

6) Nicholson, M. J.; Koulman, A.; Monahan, B. J.; Pritchard, B. L.; Payne, G. A.; Scott, B. Appl. Environ. Microbiol. 2009, 75, 7469-7481.

図4 PaxC、PaxD、AtmDが触媒する反応のまとめ

 
© 2013 天然有機化合物討論会電子化委員会
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