Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
55
Conference information

Total Synthesis and Phage Display Screening to identify the target of MA026, a Novel Antiviral Lipocyclodepsipeptide
Satomi ShimuraMasahiro IshimaIkue OtaEtsuko TsutsuiShinji KamisukiHiroshi MurataTakayuki YamazakiTakahiro SuzukiKoji KuramochiToshifumi TakeuchiSusumu KobayashiFumio Sugawara
Author information
CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

Pages Oral37-

Details
抗ウイルス活性を有する新規環状デプシペプチドMA026の全合成と標的分子の探索

【 背景 】

水産養殖の現場では、魚類病原ウイルスによる感染症の発生が水産資源の安定供給に深刻な影響を及ぼす。サケ科魚類の伝染性造血器壊死症ウイルス(Infectious hematopoietic necrosis virus : IHNV) はニジマス養殖に甚大な被害をもたらすが、同じ養殖池の中でもIHNVに耐性を示す個体と耐性を示さない個体がいた。両者の違いを調べると、前者では特定の細菌が消化管に生息していた。この細菌が生産し、抗ウイルス活性を示す物質としてMA026 (1) が単離された1)。MA026は当研究室で単離、構造決定された新規環状デプシペプチドであり、アミノ酸14残基からなる鎖環デプシペプチドに脂肪酸が結合した複雑な構造を有する (Figure 1)。本化合物はIHNVだけでなく、エンベロープを有する複数種のウイルスの増殖を抑制するが、その作用機序は解明されていない。本研究は、MA026の効率的な化学合成法の確立と標的分子の同定を目的とした。

【 合成戦略 】

MA026はアミノ酸8残基からなるマクロラクトン構造に、アミノ酸6残基からなる鎖状ペプチド、N末端に (R)-3-ヒドロキシデカノイル基が結合した構造を有する。我々は、MA026を2つのセグメント2, 3に分割し、それぞれ合成した後縮合し、収束的に合成する計画を立案した (Scheme 1)。環状デプシペプチド3の合成では、アミド化に比べて反応性の低いエステル化を合成の早い段階で行うこととし、ペプチド主鎖の分岐構造を有する2つの環化基質4, 5を設定した。また、4と5は共通中間体ヘキサデプシペプチド6から導くこととした。6にテトラペプチドを縮合し、2行程で4 を合成したが、4の環化は進行しなかった2)。4の環化部位はD-Leu13-D-Val14であるが、2つの反応点の分岐からの距離が大きく異なるため、分子内マクロラクタム化が進行するにはより大きなコンフォメーション変化が必要になると予想された。一方、環化部位がD-Gln11-L-Leu12となる5では、2つの反応点の分岐からの距離はほぼ同じであり、4よりも環化しやすいと考えた。よって、3はデカデプシペプチド5の分子内マクロラクタム化により導くこととした。

【 デカデプシペプチド5の合成 】

 

Alloc-L-Gln-OH (7) を出発原料とし、5行程でジペプチド9を合成した (Scheme 2)。また、MA026を構成する保護アミノ酸を調製し、それらを縮合し、脱保護することでジペプチド10、11、12、13を得た。次に9と10を縮合し、テトラペプチド14を得た (Scheme 3)。14のD-Ser側鎖ヒドロキシ基と11をエステル縮合することでヘキサデプシペプチド6 を合成した。6の有機溶媒に対する溶解性は高いが、ペプチド鎖の伸長と伴に溶解性の減少が観察された。ペプチドの溶解性を維持するためBCBを用いて6のTr基は除去せずBoc基を選択的に除去し、アミンとした。得られたアミンと12を縮合し、オクタデプシペプチド15を得た。次に15のBn基の脱保護を検討した。ジペプチド9の合成では (Scheme 2) THF溶媒中、Pd/Cを触媒とした加水素分解反応によりBn基のみを除去し、目的のカルボン酸を98%の収率で得ることができた。一方、15はTHFのような非プロトン性溶媒に難溶であり、MeOHを溶媒として加水素分解を行ったとこ

(View PDFfor the rest of the abstract.)

【 背景 】

水産養殖の現場では、魚類病原ウイルスによる感染症の発生が水産資源の安定供給に深刻な影響を及ぼす。サケ科魚類の伝染性造血器壊死症ウイルス(Infectious hematopoietic necrosis virus : IHNV) はニジマス養殖に甚大な被害をもたらすが、同じ養殖池の中でもIHNVに耐性を示す個体と耐性を示さない個体がいた。両者の違いを調べると、前者では特定の細菌が消化管に生息していた。この細菌が生産し、抗ウイルス活性を示す物質としてMA026 (1) が単離された1)。MA026は当研究室で単離、構造決定された新規環状デプシペプチドであり、アミノ酸14残基からなる鎖環デプシペプチドに脂肪酸が結合した複雑な構造を有する (Figure 1)。本化合物はIHNVだけでなく、エンベロープを有する複数種のウイルスの増殖を抑制するが、その作用機序は解明されていない。本研究は、MA026の効率的な化学合成法の確立と標的分子の同定を目的とした。

【 合成戦略 】

MA026はアミノ酸8残基からなるマクロラクトン構造に、アミノ酸6残基からなる鎖状ペプチド、N末端に (R)-3-ヒドロキシデカノイル基が結合した構造を有する。我々は、MA026を2つのセグメント2, 3に分割し、それぞれ合成した後縮合し、収束的に合成する計画を立案した (Scheme 1)。環状デプシペプチド3の合成では、アミド化に比べて反応性の低いエステル化を合成の早い段階で行うこととし、ペプチド主鎖の分岐構造を有する2つの環化基質4, 5を設定した。また、45は共通中間体ヘキサデプシペプチド6から導くこととした。6にテトラペプチドを縮合し、2行程で4 を合成したが、4の環化は進行しなかった2)4の環化部位はD-Leu13-D-Val14であるが、2つの反応点の分岐からの距離が大きく異なるため、分子内マクロラクタム化が進行するにはより大きなコンフォメーション変化が必要になると予想された。一方、環化部位がD-Gln11-L-Leu12となる5では、2つの反応点の分岐からの距離はほぼ同じであり、4よりも環化しやすいと考えた。よって、3はデカデプシペプチド5の分子内マクロラクタム化により導くこととした。

【 デカデプシペプチド5の合成 】

 

Alloc-L-Gln-OH (7) を出発原料とし、5行程でジペプチド9を合成した (Scheme 2)。また、MA026を構成する保護アミノ酸を調製し、それらを縮合し、脱保護することでジペプチド10111213を得た。次に910を縮合し、テトラペプチド14を得た (Scheme 3)。14のD-Ser側鎖ヒドロキシ基と11をエステル縮合することでヘキサデプシペプチド6 を合成した。6の有機溶媒に対する溶解性は高いが、ペプチド鎖の伸長と伴に溶解性の減少が観察された。ペプチドの溶解性を維持するためBCBを用いて6のTr基は除去せずBoc基を選択的に除去し、アミンとした。得られたアミンと12を縮合し、オクタデプシペプチド15を得た。次に15のBn基の脱保護を検討した。ジペプチド9の合成では (Scheme 2) THF溶媒中、Pd/Cを触媒とした加水素分解反応によりBn基のみを除去し、目的のカルボン酸を98%の収率で得ることができた。一方、15はTHFのような非プロトン性溶媒に難溶であり、MeOHを溶媒として加水素分解を行ったところ、Bn基だけでなくN末端のFmoc基の脱保護も観察された。そこでTHF/MeOH (3:1) の混合溶媒を用いたところ、Bn基を選択的に除去することができた。得られたカルボン酸を13と縮合し、デカデプシペプチド5を合成した。

【 環状デプシペプチド3の合成 】

次にデカデプシペプチド5の脱保護と続く分子内マクロラクタム化を検討した(Scheme 4)。酸性条件下での5のBoc基、Tr基の除去は定量的に進行したが、得られたアミンはTHF/MeOHの混合溶媒に溶解しなかった。残るBn基の脱保護をMeOH

を溶媒として検討したが、Bn基のみを選択的に除去することは困難であり、Fmoc基も脱保護された副生成物を得る結果となった。そこで、先にBn基を脱保護することとした。Tr基を有する5はTHF/MeOH (1:1) の混合溶媒に可溶であり、反応時間を制御することによりBn基のみを選択的に除去することができた。その後、TFAを用いてBoc基とTr基を除去し、環化前駆体を得た。

分子内マクロラクタム化では、シリンジポンプを用いて環化前駆体を反応液中に滴下し、分子間反応を抑制するために高希釈条件下で反応を行った。DMF溶媒中、様々な縮合剤を検討した結果、PyAOPとDMAPを用いた条件 (Table 1, Entry 4) でのみ、環状デプシペプチド3を合成することができた。

【 MA026の全合成 】

 環状デプシペプチド3のFmoc基をジエチルアミンにより除去し、アミン17とした (Scheme 5)。別途合成したMA026の側鎖部分である化合物22)のBn基を脱保護し、カルボン酸16を得た。1617をPyAOPを用いて縮合し、全てのセグメントを含む化合物18を合成した。最後に18に含まれるTr、tBu、TBS基を除去し、MA026 (1)の全合成を達成した。合成した1と天然物の各種スペクトルデータは良い一致を示した。

【 MA026のプローブ化 】

 次に我々は、標的分子の探索研究を行うため、MA026のビオチン化プローブを合成した (Scheme 6)。MA026とEZ-Link Amine-PEG3-BiotinをDMF溶媒中、PyAOP、DMAPと伴に撹拌し、ビオチン化MA026 (19) を合成した。また、ビオチン化プローブに加え、光反応性樹脂を用いてMA026光固定樹脂を調製した3)。ここで用いた光反応性樹脂は、固相合成用であるPEGA樹脂に光反応性基であるジアジリンを固定した樹脂である。MA026の抗ウイルス活性に重要な構造は不明であるため、化合物を任意の位置で固定化することのできる光反応を用いてMA026光固定樹脂を合成した。

【 標的分子の探索 】

MA026のプローブ化に成功したので、我々は標的分子の同定を目的としT7ファージディスプレイ (T7 PD) 法による探索を行った。T7 PD法は、T7ファージの外殻タンパク質に様々なペプチドを提示させたファージライブラリーを用い、リガンド分子の結合タンパク質を探索する手法の一つである (Figure 2)4)

この方法では、まず目的の化合物をプレートや樹脂等のスクリーニング基盤に固定し、T7ファージライブラリー (Input) と相互作用させる(Bind)。次に、簡便な洗浄操作により化合物と相互作用するペプチドを提示したファージを選択し、相互作用しないファージを除去する (Selection)。その後、化合物と相互作用するファージを回収し (Elute)、大腸菌に感染させることで増幅する (Amplify)。このようにして得られたファージ溶液 (Input) を再び化合物と相互作用させ (Bind)、以下同様の操作を行う。この一連のバイオパニングと呼ばれる操作を1ラウンドとし、ラウンドを繰り返すことで回収液中における化合物と特異的に相互作用するファージの割合を大きくしていく。化合物結合ファージの濃縮が観察されたラウンドで回収されたファージのDNA配列を解析し、ファージが提示していたペプチド配列を得る。得られたペプチド配列とタンパク質データベースの配列を比較し、配列類似性を評価することで化合物の結合候補タンパク質を同定する。さらに、探索により得られたペプチドと標的タンパク質の相同性を統計処理することで、化合物とタンパク質の結合部位を推測することができる5)

このような探索を行うため、ビオチン化MA026をストレプトアビジンがコートされた96ウェルマイクロプレートに固定化した。MA026光固定樹脂は十分に膨潤させた後、探索に用いた。ファージライブラリーは、ランダムに合成されたDNAをファージベクターに組み込み、任意の15アミノ酸からなるペプチドを提示させたランダムライブラリーを用いた。

ビオチン化MA026固定プレートとMA026光固定樹脂を用いてT7 PD法による探索を行った結果、それぞれの探索でラウンドを繰り返すことによりファージの回収率が上昇し (Figure 3, 4)、化合物と相互作用するファージの濃縮が観察された。ファージの回収率は、バイオパニング操作に用いたファージ溶液 (Input) と選別操作の後、回収されたファージ溶液 (Elute) の濃度から算出した。どちらの探索においても4ラウンド以降にファージの濃縮が観察されたため、4ラウンド以降に回収されたファージのDNA配列を解析した。その結果、回収されたファージが提示していたペプチド配列をおよそ80種得た。現在、これらのペプチド配列とタンパク質データベースを用いて配列類似性の評価を行っている。

【 参考文献 】

1) 国際特許 PCT/JP02/01039

2) 第53回天然有機化合物討論会講演要旨集, 2011, P 667.

3) (a) Kanoh, N. et.al. Angew. Chem. Ont. Ed. 2005, 44, 3359-3562. (b) Kuramochi, K. et. al. Bioconjugate Chem. 2005, 16, 97-104.

4) Smith, G. P.; Petrenko, V. A. Chem. Rev. 1997, 97, 391-410.

5) Takakusagi, Y. et al. Bioorg. Med. Chem. 2008, 16, 9873.

 
© 2013 SYMPOSIUM ON THE CHEMISTRY OF NATURAL PRODUCT
feedback
Top