天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
55
会議情報

ハイマンノース型糖鎖を有する糖タンパク質の精密化学合成とそれを利用したフォールディングセンサー酵素UGGTの基質認識機構の解明
和泉 雅之デドラ シモーネ木内 達人來間 利江牧村 裕瀬古 玲金森 審子迫野 昌文伊藤 幸成梶原 康宏
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. Oral38-

詳細
抄録

1. 序 論

小胞体内では、糖タンパク質生合成の第一ステップとして、ハイマンノース型糖鎖をもつポリペプチド鎖が合成され、天然型(ネイティブ)のタンパク質三次元構造に折りたたまれる(フォールディング)。この過程で折りたたみ不全(ミスフォールディング)が起こると糖タンパク質は正しく機能しなくなり、それらが蓄積することで毒性を持つこともある。これを回避し生体の恒常性を維持するため、小胞体内には糖タンパク質の「品質管理」機構が備わっている。フォールディングセンサー酵素UDP-glucose:glycoprotein glucosyltransferase (UGGT) は、ミスフォールドした糖タンパク質を見つけてそのハイマンノース型糖鎖末端にグルコースを1残基転移する1)。このモノグルコシル化が目印となりレクチン様分子シャペロンであるカルネキシン・カルレティキュリンが介助する再度の折りたたみが行われ、効率的にネイティブ構造の糖タンパク質が生産される。UGGTはこの品質管理機構において折りたたみ不全を見つける鍵因子として重要であるが、小胞体内で生合成される多種類の糖タンパク質の折りたたみ不全をどのように識別するのか、その詳細な分子認識機構は明らかにされていない。その原因として、1つにはUGGTはアミノ酸約1500残基からなる大きなタンパク質でその立体構造が明らかにされていないこと、もう1つにはUGGTの基質となるミスフォールド糖タンパク質を均一な状態で得ることが難しいことが上げられる。そこで、我々は糖タンパク質の精密合成技術を用いて均一なハイマンノース型糖鎖を有するミスフォールド糖タンパク質を合成し、それらを用いてUGGTの基質認識を調べてきた。今回は、1)ジスルフィド結合のかけ違え、並びに、2)アミノ酸残基の変異によるUGGTの認識の変化、3)糖タンパク質フォールディングの速度を調整しフォールディング中間体がUGGTにどのように認識されるか、そして4)糖鎖不全時に生じる糖鎖が一部欠損した糖タンパク質とUGGTとの相互作用、の4点に着目してUGGTの性質を調べた結果を報告する。

2. ジスルフィドのかけ違えによるミスフォールド糖タンパク質の認識

これまでの糖タンパク質の化学合成において天然型の立体構造を持ったものの報告はあったが、ミスフォールド体を目的とした合成例はなかった。そこで、我々はジスルフィド結合を持つ糖タンパク質をモデルとして、ジスルフィド結合のかけ違えを起こさせることで安定なミスフォールド体を合成する戦略を立てた。天然にはジスルフィド結合を持つ糖タンパク質が数多く存在しており、ジスルフィド結合のかけ違えは生体内で実際に存在し得るミスフォールドの形式のひとつと考えられる。まず、UGGTの基質となるハイマンノース型糖鎖(特にMan9GlcNAc2:M9)の生物材料からの単離を検討し、鶏卵黄からM9-アズパラギン誘導体を必要量得る方法を確立した2)。そして、これを原料として固相合成法による糖タンパク質の合成を行った。モデルタンパク質として72アミノ酸残基からなるジスルフィド結合を2本持つInterleukin 8 (IL-8) を用いた。IL-8は本来糖鎖を持たないため、報告されてい

(View PDFfor the rest of the abstract.)

著者関連情報
© 2013 天然有機化合物討論会電子化委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top