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【緒言】
近年、創薬化学を中心に、合成標的分子の構造が急速に複雑化している。しかし、複数の官能基が共存する基質において、望みの官能基選択的な化学変換は、現在の有機化学をもってしても容易ではない。多くの場合、反応性の高い官能基の保護・脱保護というプロセスが必要となり、複雑な分子を迅速に構築するためには、高い官能基選択性を示す反応の開発が不可欠となっている。
官能基選択性の発現により合成的有用性が高まる反応として、我々はアミド基への求核付加反応に着目した(スキーム1)。アミドのカルボニル基はケトンやエステルに比べ、求電子性が極端に低いために求核付加反応が困難である。一般的な求核付加の手法としては、アミド基を高活性中間体(例:イミド2、チオアミド3)へと活性化した後、グリニャール試薬などの強力な求核剤を付加する(1→2, 3→4)1)。しかし、この手法では、活性化段階による工程数の増加と、強い求核剤による低い官能基選択性が問題であった。今回、我々はN-メトキシアミドとSchwartz試薬の特徴を利用して、アミド基選択的な求核付加反応を開発した(5→6)2)。さらに、本反応を応用し、ゲフィロトキシンの効率的な全合成を達成した。
Scheme 1. Nucleophilic Additions to Amide
【N-メトキシアミドに対する還元的アリル化反応】
研究開始当初、アミド基への求核付加における2つの課題(1.活性化段階の除去、2.高い官能基選択性)を同時に解決することが難しかったため、まず1つ目の課題に取り組んだ。“活性化段階の除去”にあたり、N-メトキシアミド5に着目した(表1)。5をDIBAL還元すると5員環キレート中間体7を形成し、これを加水分解するとアルデヒドになる(Weinreb法)。我々は7にアリルトリブチルスズとSc(OTf)3を添加すると、8を経由して還元的アリル化が一挙に進行することを見出した。本反応は、幅広い基質一般性を有しており、脂肪族アミド、芳香族アミドともに高収率で望む生成物を与えた(10: 92%, 11: 91%)。アミノ基側に置換基を有した基質も良好な収率で進行した(12: 72%, dr = 1.6:1)。本反応は6員環ラクタムにも適用できた(13: 93%)。窒素原子のα位に置換基を有した基質では高立体選択的にピペリジンおよびピロリジンを与えた(14: 83%, single, 15: 91%, dr = 12:1)。また、大環状ラクタムにおいても、望みの大環状アミンが高収率で得られた(16: 90%)。
Table 1. Reductive Allylation to N-Methoxyamides
【官能基選択的な還元的アリル化反応】
続いて、最大の課題である“高い官能基選択性”を実現するため、Schwartz試薬(Cp2ZrHCl)に着目した。Georgらは、N-メトキシアミド5をSchwartz試薬で処理すると7を経由し、加水分解によりアルデヒドを与えると報告している(表2)3)。DIBALを用いた場合と同様に、7に対して触媒量のSc(OTf)3とアリルトリブチルスズを添加したところ、還元的アリル化が進行した。本反応は、様々な官能基共存下、N-メトキシアミド選択的に反応が進行した。アミド基より求電子性の高いエステル基が共存
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