Symposium on the Chemistry of Natural Products, symposium papers
Online ISSN : 2433-1856
55
Conference information

Efficient Enantioselective Total Syntheses of (-)-Scabronine A, G and (-)-Episcabronine A
Yu KobayakawaMasahisa Nakada
Author information
CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

Pages Oral6-

Details
(-)-Scabronine A, G, (-)-Episcabronine Aの効率的不斉全合成

1.序論

 Scabronine類は仙台近郊にて採取された担子菌ケロウジ(Sarcodon scabrosus)から見いだされたジテルペノイドである(Figure 1)。1)(–)-scabronine A(1)およびG(3)は1321N1ヒトアストロサイトーマ細胞を用いた生物活性試験において、強力な神経成長因子(NGF)の合成促進活性が確認されたことから、アルツハイマー病の新規治療薬のシード化合物として注目されている。構造的特徴として、本化合物群は2つの全炭素4級不斉中心を縮環部に持つ3環式骨格(サイアタン骨格)を基本骨格とする。さらに1および2は、C環部が6連続不斉中心を伴って高度に酸素官能基化されているため、合成化学的にも興味深い化合物である。これまでに2例の(–)-scabronine G(3)の全合成2)が報告されているが、最も強力な生物活性と最も複雑な化学構造を併せ持つ(–)-scabronine A(1)の全合成は未だ報告がない。そこで我々は、scabronine類の効率的合成ルートの開発と(–)-scabronine A(1)の世界初の不斉全合成に着手した。

Figure 1. Selected members of scabronines, and cyathane scaffold

2.研究計画

 1-3の逆合成解析をScheme 1に示す。Figure 1に示した通りscabronine類はC環上の酸化度がそれぞれ異なり、(–)-scabronine G(3)が最も酸化状態が低く、(–)-scabronine A(1)が最も高い酸化状態を有する。そこで、(–)-scabronine G(3)の酸化状態に近い化合物6を鍵中間体に設定し、それぞれの標的分子に合わせて酸化度を調節することで1-3の不斉全合成を効率的に達成できるものと考えた。ここで(+)-scabronine B,DのC11,C14位の立体化学に注目すると、1のそれと同じであることから、(+)-scabronine B,Dは1や2の生合成中間体であると予想される。

Scheme 1. Retrosynthetic analysis

この生合成仮説をもとにして、我々は化合物6を化合物4,5に誘導し、oxa-Michael反応を起点とする連続反応による化合物1,2の立体選択的合成を計画した。すなわち、連続反応(oxa-Michael/protonation/acetalization cascade)により、C12位およびC13位、またはC11-C13位の連続不斉中心の制御と、アセタール環構築を一挙に行なうことで(–)-scabronine A(1)、(–)-episcabronine A(2)の不斉全合成を達成できると考えた。また、化合物6のC環部は7の閉環メタセシス(RCM)によって得られると予想した。7はC6位とC9位に2つの全炭素4級不斉中心を含む3つの不斉中心、および嵩高いイソプロピル基が置換する4置換オレフィンを有する。7の効率的構築に関しては、キラルアレンを含むフェノール9の酸化的脱芳香族化/分子内逆電子要請型 Diels-Alder(IEDDA)連続反応により8を立体選択的に合成し、8から7へ変換することを立案した。9は10から不斉転写を伴った構造変換によって得られると考えた。

3.酸化的脱芳香族化/IEDDA連続反応を利用した8の高立体選択的合成

 既知化合物であるアルデヒド11を出発原料として数工程の変換によってイノン14を合成した(Scheme 2)。14の野依触媒を用いた不斉還元と、続くリン酸エステル化によって95% eeの10を得た。不斉転写を伴う10の3置換アレン9への構造変換を検討した結果、Grignard試薬と2LiCl•CuCNを用いる条件によりラセミ化を伴うことなく高収

(View PDFfor the rest of the abstract.)

1.序論

 Scabronine類は仙台近郊にて採取された担子菌ケロウジ(Sarcodon scabrosus)から見いだされたジテルペノイドである(Figure 1)。1)(–)-scabronine A(1)およびG(3)は1321N1ヒトアストロサイトーマ細胞を用いた生物活性試験において、強力な神経成長因子(NGF)の合成促進活性が確認されたことから、アルツハイマー病の新規治療薬のシード化合物として注目されている。構造的特徴として、本化合物群は2つの全炭素4級不斉中心を縮環部に持つ3環式骨格(サイアタン骨格)を基本骨格とする。さらに1および2は、C環部が6連続不斉中心を伴って高度に酸素官能基化されているため、合成化学的にも興味深い化合物である。これまでに2例の(–)-scabronine G(3)の全合成2)が報告されているが、最も強力な生物活性と最も複雑な化学構造を併せ持つ(–)-scabronine A(1)の全合成は未だ報告がない。そこで我々は、scabronine類の効率的合成ルートの開発と(–)-scabronine A(1)の世界初の不斉全合成に着手した。

Figure 1. Selected members of scabronines, and cyathane scaffold

2.研究計画

 1-3の逆合成解析をScheme 1に示す。Figure 1に示した通りscabronine類はC環上の酸化度がそれぞれ異なり、(–)-scabronine G(3)が最も酸化状態が低く、(–)-scabronine A(1)が最も高い酸化状態を有する。そこで、(–)-scabronine G(3)の酸化状態に近い化合物6を鍵中間体に設定し、それぞれの標的分子に合わせて酸化度を調節することで1-3の不斉全合成を効率的に達成できるものと考えた。ここで(+)-scabronine B,DのC11,C14位の立体化学に注目すると、1のそれと同じであることから、(+)-scabronine B,Dは12の生合成中間体であると予想される。

Scheme 1. Retrosynthetic analysis

この生合成仮説をもとにして、我々は化合物6を化合物4,5に誘導し、oxa-Michael反応を起点とする連続反応による化合物1,2の立体選択的合成を計画した。すなわち、連続反応(oxa-Michael/protonation/acetalization cascade)により、C12位およびC13位、またはC11-C13位の連続不斉中心の制御と、アセタール環構築を一挙に行なうことで(–)-scabronine A(1)、(–)-episcabronine A(2)の不斉全合成を達成できると考えた。また、化合物6のC環部は7の閉環メタセシス(RCM)によって得られると予想した。7はC6位とC9位に2つの全炭素4級不斉中心を含む3つの不斉中心、および嵩高いイソプロピル基が置換する4置換オレフィンを有する。7の効率的構築に関しては、キラルアレンを含むフェノール9の酸化的脱芳香族化/分子内逆電子要請型 Diels-Alder(IEDDA)連続反応により8を立体選択的に合成し、8から7へ変換することを立案した。910から不斉転写を伴った構造変換によって得られると考えた。

3.酸化的脱芳香族化/IEDDA連続反応を利用した8の高立体選択的合成

 既知化合物であるアルデヒド11を出発原料として数工程の変換によってイノン14を合成した(Scheme 2)。14の野依触媒を用いた不斉還元と、続くリン酸エステル化によって95% eeの10を得た。不斉転写を伴う10の3置換アレン9への構造変換を検討した結果、Grignard試薬と2LiCl•CuCNを用いる条件によりラセミ化を伴うことなく高収率で9を得ることができた。続いて9からの酸化的脱芳香族化/分子内逆電子要請型Diels-Alder連続反応を行った。その結果、PIDAを用いる9の酸化的脱芳香族化は速やかに進行したが、分子内逆電子要請型Diels-Alder反応は進行が比較的遅く、室温で7日を要した。加熱条件下の反応においては過剰のPIDAによる副反応が見られた。この連続反応は、所望の環化反応生成物8を収率97%、95%eeで単一生成物として与えた。8の絶対および相対立体配置は、8の水素化反応および加水素分解によって得られるアルコール15のX線結晶構造解析によって決定した。また15の光学純度は、再結晶により容易に向上できることがわかった。

Scheme 2. Highly stereoselective preparation of 8 via oxidative dearomatization/IEDDA cascade

4.鍵中間体6への誘導と(–)-scabronine G(3)の不斉全合成

 望みの立体化学を有する15を合成できたので、C環部の構築と(–)-scabronine G(3)の全合成を検討した(Scheme 3)。15に末端オレフィンを導入し、ケトンをNaBH4によって還元後、塩酸で後処理することによってケタールを除去し、ヒドロキシケトン17を高収率で得た。この17に対するブロミド18と亜鉛を用いたBarbier型の反応により、cis-ジオール19を単一生成物として得た。ジオール19の酸化的な開裂反応を試みたところ、NaIO4では予期に反して全く反応が進行しなかった。しかしながら検討の結果、PIDAを用いると収率良く7を得ることができ、続くRCMによって所望の鍵中間体6を合成することができた。そして6のTBDPS基を除去した後に2段階の酸化反応を行なうことにより、(–)-scabronine G(3)の不斉全合成を19工程、総収率21%で達成した。

Scheme 3. Preparation of key intermediate 6, and total synthesis of (–)-scabronine G (3)

5.oxa-Michael連続反応を利用した(–)-scabronine Aの不斉全合成

 続いて(–)-scabronine A(1)の不斉全合成を検討した(Scheme 4)。化合物6をメチルエステルに変換し、3置換オレフィンの立体選択的ジオール化、続くトリホスゲンとの反応により20を得た。20にDBUを作用させたところ、β脱離が速やかに進行し21が生成した。さらに21のC14位ケトンの還元をCBS還元3)により立体選択的に行い、TBDPS基を除去することでトリアリルアルコール22を得た。22の選択的な酸化反応を検討した結果、TEMPOを用いる反応条件により1級水酸基のみを酸化でき、望みの4を良好な収率で得ることができた。4とNaOMeの反応は予想通り連続的かつ高立体選択的に進行した。すなわち、立体的に空いているβ面からのoxa-Michael反応、生じたエノラートのα面からの立体選択的プロトン化、続くアセタール化が一挙に進行した。反応終了後、酸処理により所望の立体配置を有する4環式化合物23を分離可能なC15位の異性体混合物として高収率で得ることに成功した。最後に水酸基のメチル化とメチルエステルの加水分解を行うことにより、(–)-scabronine A(1)の世界初不斉全合成を27工程、総収率10%で達成した。

Scheme 4. Total synthesis of (–)-scabronine A (1) via oxa-Michael/protonation/acetalization cascade

6.(–)-episcabronine Aの不斉全合成

 最後に(–)-episcabronine A(2)の不斉全合成を行った(Scheme 5)。上記の連続反応は、C11位に脱離能の低い水酸基を持つ化合物4が基質であった。一方で、C11位にベンゾイル基を持つ化合物5の連続反応においては、oxa-Michael反応により生成するエノラートのα面がベンゾイル基により遮蔽されるため、プロトネーションは遅くなり、立体配座の変換に伴うベンゾイル基の脱離反応が優先し、C11-C12位に不飽和結合が導入されるので、2度目のoxa-Michael反応が進行すると予想した。

Scheme 5. Total synthesis of (–)-episcabronine A (2) via another highly stereoselective cascade with 5

 化合物21のC11位の水酸基をベンゾイル化した後に、Scheme 4に記載した手順でさらなる変換を行い、C11位にベンゾイル基を持つ化合物5を合成した。5とNaOMeとの反応を行った結果、①β面からのoxa-Michael反応、②C11位ベンゾイル基のβ脱離、③擬half-chair立体配座における擬アキシャル方向からのメトキシドアニオンのoxa-Michael反応、④立体選択的プロトン化、⑤アセタール化の5連続反応が一挙に進行し、C11位の立体配置が反転した化合物24を得ることに成功した。興味深いことに、本反応の2度にわたるoxa-Michael反応は完全な立体選択性で進行しており、(–)-scabronine A(1)と同じ相対配置を持つ異性体の生成は確認されなかった。(+)-scabronine B(Figure 1)はC11位にベンゾイル基を有するので、1,2の生合成中間体である可能性、あるいはscabronine類の単離にメタノールが用いられているため、1,2がartifactである可能性が示唆される。最後にメチルエステルとアセタールの加水分解を行なうことにより(–)-episcabronine A(2)の世界初不斉全合成を27工程、総収率13%で達成した。

7.鍵中間体6を用いたerinacine類合成中間体25への誘導

 本研究において開発した合成法によって、鍵中間体6は、出発原料11から16工程、収率35%で得られる。この6のC17位の脱酸素化を行なうことにより、以前、当研究室で達成されたerinacine B, Eの不斉全合成における合成中間体253)に誘導可能である。そこで、6の脱酸素化と25への誘導を検討した(Scheme 6)。

 中間体6のアルデヒドをZn(BH4)2を用いて選択的に還元し、生じた水酸基をBarton法によって除去することで化合物26を得ることができた。その後、Scheme 4に記載した変換を行い、11からerinacine類の合成中間体25への誘導を22工程、総収率13%で達成した。これまで25は、当研究室で独自に開発したキラルビルディングブロックABから30工程、総収率5%で合成していたが、今回の酸化的脱芳香族化/分子内逆電子要請型Diels-Alder連続反応を経由する合成法により、25の合成における工程数、総収率をともに大幅に改善することに成功した。

Scheme 6. Conversion of 6 to 25, a synthetic intermediate of (–)-erinacine E

8.総括

 我々はNGF合成促進活性を有するscabronine類の不斉全合成を検討した。その結果、AB環部はキラルアレンを含む9からの酸化的脱芳香族化/分子内逆電子要請型 Diels-Alder連続反応によって高立体選択的に構築することができた。その後、RCMを含む数工程の変換を経て(–)-scabronine G(3)の不斉全合成を19工程、総収率21%で達成した。(–)-scabronine A(1)の世界初不斉全合成は、予想される生合成経路にヒントを得て、化合物4からのoxa-Michael/ protonation/ acetalization連続反応を経由することにより、高立体選択的に27工程、総収率10%で達成することができた。一方、(–)-episcabronine A(2)の世界初不斉全合成は、化合物5からのoxa-Michael/ b-elimination/ oxa-Michael/ protonation/ acetalization連続反応を経由することにより、高立体選択的に27工程、総収率13%で達成できた。

 また、化合物6のC17位の脱酸素化を経由する変換により、以前、当研究室で達成したerinacine B,Eの不斉全合成の合成中間体25の効率的合成に成功した。

謝辞

 天然物(–)-episcabronine Aの各種スペクトルデータのコピーを送っていただいた金沢大学の太田富久教授に深謝いたします。

References

1) a) T. Ohta, T. Kita, N. Kobayashi, Y. Obara, N. Nakahata, Y. Ohizumi, Y. Takaya, Y. Oshima, Tetrahedron Lett. 1998, 39, 6229. b) T. Kita, Y. Takaya, Y. Oshima, T. Ohta, K. Aizawa, T. Hirano, T. Inakuma, Tetrahedron 1998, 54, 11877. c) Y. Obara, H. Kobayashi, T. Ohta, Y. Ohizumi, N. Nakahata, Mol. Pharmacol. 2001, 59, 1287. d) T. Ohta, H. Kobayashi, S. Hosoi, F. Kiuchi, T. Kita, Y. Takaya, Y. Oshima, Y. Obara, N. Nakahata, Y. Ohizumi, Tennen Yuki Kagobutsu Toronkai Koen Yoshishu 1998, 40th, 341.

2) a) S. P. Waters, Y. Tian, Y.-M. Li, S. J. Danishefsky, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 13514. b) N. Kanoh, K. Sakanishi, E. Iimori, K. Nishimura, Y. Iwabuchi, Org.Lett. 2011, 13, 2864.

3) a) H. Watanabe, M. Takano, A. Umino, T. Ito, H. Ishikawa, M. Nakada, Org. Lett. 2007, 9, 359. b) H. Watanabe, M. Nakada, J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 1150.

 
© 2013 SYMPOSIUM ON THE CHEMISTRY OF NATURAL PRODUCT
feedback
Top