天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
55
会議情報

トマトサポニンの機能性と反応
野原 稔弘藤原 章雄小野 政輝池田 剛真鍋 秀雪村上 光太郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. PosterP-4-

詳細
トマトサポニンの機能性と反応

1. 研究経過と今回の研究目的

 トマトサポニンesculeoside A (1)は, 2003年野原らにより見出された成熟トマトの圧倒的主成分(水抽出で糖を除いた成分のTLCでは、トマトサポニンのほぼ一点のみを示す)で, その構造が明らかにされた1-4). これまではトマトの有効性と言えば, すべてリコピンのみで説明されていたが, トマトサポニンは, リコピンの4,5倍含有され, その薬理効果の解析が待たれる.

Esculeoside A (1)

私達は, まずトマトサポニンesculeoside A (1)が,ApoE欠損マウスに対して抗動脈硬化作用を示すことを報告した5). 次にトマトサポニンを主成分とする健食を開発, それを摂食した人のデータを集めると, 降圧作用, 抗血糖上昇作用, アトピー性皮膚炎への有効性を示すことが明らかになりつつある. 目下これらの動物実験も行ないつつある.

 今回は, これまでの知見を総括すると共に, 加工食品(トマト缶詰, ピューレ, ボトルジュース)中にトマトサポニンの存在を明らかにし6,7), さらにトマトの健康科学へ寄与するメカニズムを示唆すべく, 最近見出したトマトサポニンの興味ある化学反応について報告する.

2.トマト缶詰, ピューレ, ボトルジュース中のトマトサポニン

 本邦産の種々のトマト(桃太郎, ミデイ, ミニ等), ヨーロッパ産(ドイツ, イタリア, オランダ, トルコ等), 黄色や黒のトマト, これまでに調べたすべてのトマトはesculeoside A (1) を主成分とする. しかし、イタリア産輸入缶詰, ピューレ, 本邦各地産のボトルジュースには, esculeoside Aを含有せず6), その異性体7,8)に相当するesculeosides B-1 (2) ならびにB-2 (3)を主成分として含有することを明らかにした9). 缶詰中のそれらの含量はそれぞれ0.0052, 0.0068%であった. そして新規サポニンesculeoside B-1 (2)の構造を3-O-b-lycotetraosyl (5S,22R,23S,25S)-22,26-epimino- 16b,23-epoxy-3b,23,27-trihydroxycholestane 27-O-b-D-glucopyranosideと決定した.

また, esculeoside A (1)を水のみで長時間 (6.5 hr) 煮沸還流すると, ほぼ定量的にesculeoside B-1 (2)ならびにB-2 (3)に変換されることが判った. 本反応はspirosolane typeのステロイドサポニンを, 天然では最初の例となるsolanocapsine type10,11)のサポニンへの変換で, これでesculeoside Aとesculeoside Bが化学的に関連付けられ, esculeoside Bの薬理作用の道も開かれた. 本事実から缶詰, ジュース等の製造過程で熱処理する際にesculeoside Aがesculeoside Bに変換されるものと考えている.

Esculeosides B-1 (2, 22R, 23S) and B-2 (3, 22S, 23R)

3.トマトサポニンのステロイドホルモンPregnane (5)への変換反応

反応1: 先にesculeoside A (1)を2 N H2SO4-MeOHで加水分解して得られるesculeogenin A (4)を, まずpyridineで, 続いてaq. pyridineで煮沸還流すると, E, F環が一挙に分解し, ホルモンのpregnane誘導体、3b-hydroxy-5a-pregn-16-ene-20-one (5)が得られることを報告した (Chart 1) 12,13). 本反応は画期的な反応で、spirosolane骨格の23-OH基が反応のtriggerになっているものと考えられる (Chart 2). 本反応はトマトサポニンが体内でpregnaneに代謝されること

(View PDFfor the rest of the abstract.)

1. 研究経過と今回の研究目的

 トマトサポニンesculeoside A (1)は, 2003年野原らにより見出された成熟トマトの圧倒的主成分(水抽出で糖を除いた成分のTLCでは、トマトサポニンのほぼ一点のみを示す)で, その構造が明らかにされた1-4). これまではトマトの有効性と言えば, すべてリコピンのみで説明されていたが, トマトサポニンは, リコピンの4,5倍含有され, その薬理効果の解析が待たれる.

Esculeoside A (1)

私達は, まずトマトサポニンesculeoside A (1)が,ApoE欠損マウスに対して抗動脈硬化作用を示すことを報告した5). 次にトマトサポニンを主成分とする健食を開発, それを摂食した人のデータを集めると, 降圧作用, 抗血糖上昇作用, アトピー性皮膚炎への有効性を示すことが明らかになりつつある. 目下これらの動物実験も行ないつつある.

 今回は, これまでの知見を総括すると共に, 加工食品(トマト缶詰, ピューレ, ボトルジュース)中にトマトサポニンの存在を明らかにし6,7), さらにトマトの健康科学へ寄与するメカニズムを示唆すべく, 最近見出したトマトサポニンの興味ある化学反応について報告する.

2.トマト缶詰, ピューレ, ボトルジュース中のトマトサポニン

 本邦産の種々のトマト(桃太郎, ミデイ, ミニ等), ヨーロッパ産(ドイツ, イタリア, オランダ, トルコ等), 黄色や黒のトマト, これまでに調べたすべてのトマトはesculeoside A (1) を主成分とする. しかし、イタリア産輸入缶詰, ピューレ, 本邦各地産のボトルジュースには, esculeoside Aを含有せず6), その異性体7,8)に相当するesculeosides B-1 (2) ならびにB-2 (3)を主成分として含有することを明らかにした9). 缶詰中のそれらの含量はそれぞれ0.0052, 0.0068%であった. そして新規サポニンesculeoside B-1 (2)の構造を3-O-b-lycotetraosyl (5S,22R,23S,25S)-22,26-epimino- 16b,23-epoxy-3b,23,27-trihydroxycholestane 27-O-b-D-glucopyranosideと決定した.

また, esculeoside A (1)を水のみで長時間 (6.5 hr) 煮沸還流すると, ほぼ定量的にesculeoside B-1 (2)ならびにB-2 (3)に変換されることが判った. 本反応はspirosolane typeのステロイドサポニンを, 天然では最初の例となるsolanocapsine type10,11)のサポニンへの変換で, これでesculeoside Aとesculeoside Bが化学的に関連付けられ, esculeoside Bの薬理作用の道も開かれた. 本事実から缶詰, ジュース等の製造過程で熱処理する際にesculeoside Aがesculeoside Bに変換されるものと考えている.

Esculeosides B-1 (2, 22R, 23S) and B-2 (3, 22S, 23R)

3.トマトサポニンのステロイドホルモンPregnane (5)への変換反応

反応1: 先にesculeoside A (1)を2 N H2SO4-MeOHで加水分解して得られるesculeogenin A (4)を, まずpyridineで, 続いてaq. pyridineで煮沸還流すると, E, F環が一挙に分解し, ホルモンのpregnane誘導体、3b-hydroxy-5a-pregn-16-ene-20-one (5)が得られることを報告した (Chart 1) 12,13). 本反応は画期的な反応で、spirosolane骨格の23-OH基が反応のtriggerになっているものと考えられる (Chart 2). 本反応はトマトサポニンが体内でpregnaneに代謝されることを示唆しているものと考えられる14).

Chart 1

   

                  Chart 2

反応2: Esculeoside A (1) およびesculeoside B-1 (2)とB-2 (3)の混合物を, いずれも1 N KOHでrefluxすると, F-ringが芳香環化した興味あるピリジン誘導体 (6) を与える

(Chart 3, 16: 33%, 2+36: 30%).

                  Chart 3

Chart 4

さらに, 本化合物6を2 NHCl-MeOHで反応すると, pregnane derivatives 5 (21%)と7 (18%)を与える (Chart 3). この反応機構については, 現在検討中であるが目下のところChart 4の様に考えている. 以上の化学反応においても, トマトサポニンはpregnaneと深い関わりがあるものとみられる.

4. トマトサポニンの生理作用発現のメカニズム

 トマトサポニンは経口的に摂取されると, 小腸の表面においてその糖部が小腸の表面に来ている神経系のリセプターやメデイエイターに作用して, 抗血糖上昇作用, 降圧作用をもたらし, また一部は, 糖部が腸内細菌で切れて小腸からsapogenolの形で吸収され肝臓に行き, そこでpregnane をはじめとする種々のステロイドホルモンに変換され、体の各所に運ばれ各種腫瘍細胞増殖抑制作用, 抗骨粗鬆症作用, 抗更年期障害作用等を示すものと考えられる. 一方, 経皮的に吸収されたサポニンは, それ自体がビールスの細胞膜に作用して融解作用を示すのではないかと考えている(Chart 5). トマトサポニンのpregnaneへの変換反応はトマトサポニンの体内代謝を示唆しているものと考えられ, 重要な反応とみなされる.

Chart 5

               References

1. Y. Fujiwara, S. Yahara, T. Ikeda, M. Ono, T. Nohara, Chem. Pharm. Bull., 51, 234–235

(2003).

2. Y. Fujiwara, A. Takaki, Y. Uehara, T. Ikeda, M. Okawa, K. Yamauchi, M. Ono, H.

Yoshimitsu, T. Nohara, Tetrahedron, 60, 4915–4920 (2004).

3. T. Nohara, T. Ikeda, Y. Fujiwara, S. Matsushita, E. Noguchi, H. Yoshimitsu, M. Ono,

J. Nat. Med., 61, 1–13 (2007).

4. T. Nohara, M. Ono, T. Ikeda, Y. Fujiwara, M. El-Aasr, J. Nat. Prod., 73, 1734-1741

(2010).

5. Y. Fujiwara, N. Kiyota, M. Hori, S. Matsushita, Y. Iijima, K. Aoki, D. Shibata, M.

Takeya, T. Ikeda, T. Nohara, R. Nagai, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 27, 2400–2406

(2007).

6. H. Manabe , Y. Murakami, M. EL-Aasr, T. Ikeda, Y. Fujiwara, M. Ono, T. Nohara,

J. Nat. Med., 65, 176-179 (2011).

7. M. Yoshizaki, S. Matsushita, Y. Fujiwara, M. Ono, T. Nohara, Chem. Pharm. Bull., 53,

839-840 (2005).

8. M. El-Aasr, Y. Oshiro, Y. Fujiwara, H. Miyashita, T. Ikeda, M. Ono, H. Yoshimitsu,

T. Nohara, Chem. Pharm. Bull., 56, 926-929 (2008).

9. H. Manabe, Y. Fujiwara, T. Ikeda, M. Ono, K. Murakami, J.-R. Zhou, K. Yokomizo, T.

Nohara, Chem. Pharm. Bull., in press.

10. K. Schreiber, H. Ripperger, Liebigs Ann., 655, 114-135 (1962).

11. H. Ripperger, K. Schreiber, Liebigs Ann., 723, 159-180 (1969).

12. S. Matsushita, M. Yoshizaki, Y. Fujiwara, T. Ikeda, M. Ono, T. Okawara, T. Nohara,

Tetrahedron Lett., 46, 3549–3551 (2005).

13. T. Nohara, K. Okamoto, S. Matsushita, Y. Fujiwara, T. Ikeda, H. Miyashita, M. Ono, H.

Yoshimitsu, H. Kansui, T. Kunieda, Chem. Pharm. Bull., 56, 1015-1017 (2008)..

14. E. Noguchi, Y. Fujiwara, S. Matsushita, T. Ikeda, M. Ono, and T. Nohara, Chem.

Pharm. Bull., 54, 1312-1314 (2006).

 
© 2013 天然有機化合物討論会電子化委員会
feedback
Top