天然有機化合物討論会講演要旨集
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多環性縮環型アルカロイド(-)-Isoschizogamineの合成研究
植田 浩史高田 晃宏藤原 広陽杉本 健士徳山 英利
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多環性縮環型アルカロイド(-)-Isoschizogamineの合成研究

【背景】

 Isoschizogamine (1) は、1963年Rennerらによって東アフリカの熱帯に生息する低Schizozygia caffaeoidesから単離された、六環性アルカロイドである。1 1は単離当初、Nアシルインドール骨格を持つschizozyganeアルカロイドの7位における立体異性体1’とされていた。しかし、1998年、Hajicekらによって構造訂正が行われ、その高度に縮環したアミナール構造が明らかとされた。2 1はその特異な構造のため、合成標的化合物として広く興味を集め、PadwaやZhouらにより合成研究3が行われてきたが、全合成報告はHeathcockらによるラセミ合成4と福山らによる不斉合成5の2例のみである。

1.逆合成解析

 合成上の課題は、三つの六員環とg-ラクタムが窓状に縮環した[5.6.6.6]- diazafenestrane骨格上にさらにもう一つの五員環が縮環した多環性骨格の構築と、隣接した四置換アミナール炭素と第四級不斉炭素中心を含む四連続不斉炭素中心の立体選択的な構築である。我々は、窒素原子a位の酸化を含む変換により特徴的なアミナール構造を合成の中盤から終盤に構築する合成戦略を立案した (Scheme 1)。

 (–)-Isoschizogamine (1) は、対応するジエン2の閉環メタセシスと第三級ヒドロキシ基の還元的除去を経て合成できると考え、ジエン2のアミナール構造は、3のヘミアミナール部位と窒素原子を有する側鎖との環化反応により構築できると考えた。ヘミアミナール3は、適切な酸化条件を見いだすことにより、ラクタム窒素の隣接位の位置選択的な酸化を経て合成することとした。本酸化反応の基質である4は、4環性ラクタム5のカルボニル基を足がかりに、ジアステレオ選択的な側鎖の導入を経て導くこととした。4環性ラクタム5は、鎖状基質6を用いた、Mannich反応と続くラクタム環形成からなるカスケード型反応により3つの環を形成し、迅速に合成できると考えた。カスケード環化の基質である6は、シクロヘキセン8の炭素-炭素二重結合の酸化的開裂後、立体的により空いたアルデヒドへのアリールアニオンの位置選択的な求核付加反応により得ることとした。不斉第四級炭素中心を有するシクロヘキセン8は、既知化合物であるシクロヘキセノンに対し、触媒的不斉1,2還元とその後のJohnson-Claisen転位反応により合成することとした。

2. カスカード環化反応を用いた4環性ラクタムの迅速合成

 既知化合物であるエノン96を対応するベンジルエーテル10へと誘導し、碇屋によって開発されたルテニウム触媒を用いた不斉還元7により、光学活性なシクロヘキ

Scheme 1

セノール12を高収率かつ高エナンチオ選択的に得た(Scheme 2)。なお、この際得られたアルコールの絶対立体配置は、12を文献既知の化合物8へと誘導することでS体と決定した。続くJohnson-Claisen転位による第四級炭素中心の構築は、脂肪族カルボン酸を用いる弱酸性条件や中性条件下では目的のエステル13の収率は低収率であり、かつ、アリルカチオン中間体を経た生成物のラセミ化が進行した。詳細な検討の結果、Hunig塩基溶媒中マイクロ波照射下反応を行う

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背景

 Isoschizogamine (1) は、1963年Rennerらによって東アフリカの熱帯に生息する低Schizozygia caffaeoidesから単離された、六環性アルカロイドである。1 1は単離当初、Nアシルインドール骨格を持つschizozyganeアルカロイドの7位における立体異性体1’とされていた。しかし、1998年、Hajicekらによって構造訂正が行われ、その高度に縮環したアミナール構造が明らかとされた。2 1はその特異な構造のため、合成標的化合物として広く興味を集め、PadwaやZhouらにより合成研究3が行われてきたが、全合成報告はHeathcockらによるラセミ合成4と福山らによる不斉合成5の2例のみである。

1.逆合成解析

 合成上の課題は、三つの六員環とg-ラクタムが窓状に縮環した[5.6.6.6]- diazafenestrane骨格上にさらにもう一つの五員環が縮環した多環性骨格の構築と、隣接した四置換アミナール炭素と第四級不斉炭素中心を含む四連続不斉炭素中心の立体選択的な構築である。我々は、窒素原子a位の酸化を含む変換により特徴的なアミナール構造を合成の中盤から終盤に構築する合成戦略を立案した (Scheme 1)。

 (–)-Isoschizogamine (1) は、対応するジエン2の閉環メタセシスと第三級ヒドロキシ基の還元的除去を経て合成できると考え、ジエン2のアミナール構造は、3のヘミアミナール部位と窒素原子を有する側鎖との環化反応により構築できると考えた。ヘミアミナール3は、適切な酸化条件を見いだすことにより、ラクタム窒素の隣接位の位置選択的な酸化を経て合成することとした。本酸化反応の基質である4は、4環性ラクタム5のカルボニル基を足がかりに、ジアステレオ選択的な側鎖の導入を経て導くこととした。4環性ラクタム5は、鎖状基質6を用いた、Mannich反応と続くラクタム環形成からなるカスケード型反応により3つの環を形成し、迅速に合成できると考えた。カスケード環化の基質である6は、シクロヘキセン8の炭素-炭素二重結合の酸化的開裂後、立体的により空いたアルデヒドへのアリールアニオンの位置選択的な求核付加反応により得ることとした。不斉第四級炭素中心を有するシクロヘキセン8は、既知化合物であるシクロヘキセノンに対し、触媒的不斉1,2還元とその後のJohnson-Claisen転位反応により合成することとした。

2. カスカード環化反応を用いた4環性ラクタムの迅速合成

 既知化合物であるエノン96を対応するベンジルエーテル10へと誘導し、碇屋によって開発されたルテニウム触媒を用いた不斉還元7により、光学活性なシクロヘキ

Scheme 1

セノール12を高収率かつ高エナンチオ選択的に得た(Scheme 2)。なお、この際得られたアルコールの絶対立体配置は、12を文献既知の化合物8へと誘導することでS体と決定した。続くJohnson-Claisen転位による第四級炭素中心の構築は、脂肪族カルボン酸を用いる弱酸性条件や中性条件下では目的のエステル13の収率は低収率であり、かつ、アリルカチオン中間体を経た生成物のラセミ化が進行した。詳細な検討の結果、Hunig塩基溶媒中マイクロ波照射下反応を行うと、光学純度を損ねる

Scheme 2

ことなく転位反応が進行し、目的の13を得ることに成功した。次に、得られた13のオレフィン部位を酸化的に開裂し、ジアルデヒド14へと誘導した。その後、位置選択的なアリール基の導入を含む3工程の変換を経て、カスケード反応の基質16を合成した。16に対し、DMSO溶媒中、Bronsted 酸であるカンファースルホン酸を作用させたところ、望みの四環性ラクタム19が単一の異性体として得られることを見出した。反応中間体の構造決定を含む詳細な検討の結果、本カスケード反応は、当初予想していたアミンとアルデヒドの縮合から始まるMannich反応ではなく、分子内アルドール反応と続く脱水、そして、アザ-Michael付加とラクタム化が一挙に進行していることがわかった。このように、独自のカスケード反応により一挙に3つの環を構築し、既知化合物9からわずか8工程の変換で第四級炭素中心を有する四環性化合物19の迅速な合成に成功した。

3. 合成中盤でのC-H官能基化反応を用いたアミナール形成

 ベンゼン環の電子密度の低下を目的として、四環性ラクタム19の2つのメトキシ基をトシルオキシ基へと変換し、同時にベンジルエーテルの保護基の変換も行って20を得た。次に、convex面選択的なアリル基の導入と、得られたホモアリルアルコールのシリル基による保護を行った。その後、末端オレフィンのオゾン分解による酸化的開裂と還元的処理、光延反応を用いた窒素官能基の導入により22を合成した。次に、鍵工程である22のラクタム窒素a位の酸化反応を様々な酸化剤の存在下検討した。その結果、Fuchsらのクロムを用いた酸化条件9により、高収率で望むヘミアミナール15を得ることに成功した (Scheme 3)。なお、ジトシラート22のかわりに対応するジメトキシ体を同じ条件に付したところ、ベンゼン環の酸化反応が競合し対応するヘミアミナール体は得られなかった。

Scheme 3

 続いて、Boc基を加熱条件下除去し、環状アミナールの閉環を目的として条件検討を行った(Table 1)。まず、ヒドロキシ基の脱離能を高める目的でメシル化を試みたところ、加熱条件においても原料が回収されるのみであった (entry 1)。その後、酸によるヘミアミナールの活性化を目的とし、様々なLewis酸の添加を検討した (entries 2-4)。その結果、モレキュラーシーブス存在下、ビスマストリフラートを添加した条件10において望む環化反応が円滑に進行し、5環性アミナール25を収率良く与えた (entry 4)。なお、本環化反応はラセミ体を用いて検討を行った。

Table 1

4. (–)-Isoschizogamineの全合成

 続いて、全合成に向け残ったもう一つの環の形成と種々の官能基変換を検討した。し全合成を目指した。まず、25のアセチル基の除去を試みたが、メタノール溶媒中、塩基やLewis酸を添加する加溶媒分解の条件ではシリル基の脱離など副反応がともなった。それに対し、ジブチル錫オキシドを用いる脱アセチル化条件11を試みたところ、対応する第一級アルコールが収率良く生成した (Scheme 4)。続いて、Grieco-西沢法により脱水を行い、エキソオレフィン26へと導いた。さらに、チオラートによるノシル基の除去、続く辻-Trost反応を用いたアリル基の導入によりジエン27を得た。ここで、得られたジエン27を、ジクロロメタン溶媒中、1,4ベンゾキノン存在下Hoveyda-Grubbs第二世代触媒(HG-II)で加熱還流下処理したところ、六環性化合物28を良好な収率で得ることができた。このようにして1の全炭素骨格を構築することができたことから、最後に、必要な官能基変換を行い1の全合成を達成した。まず、テトラブチルアンモニウムフロリドによりシリル基の除去を行った後、Barton-McCombie脱酸素化を経て30へと導いた。続いて、一電子還元条件下、2つのトシル基を除去した後、TMSジアゾメタンを用いた2つのフェノール性ヒドロキシ基のメチル化を経て(–)-isoschizogamine (1)の全合成を達成した。

結語

 以上、独自のカスケード反応を鍵反応とし第四級炭素中心を有する四環性化合物の迅速な合成を行い、さらに、合成の後半でC-H結合の官能基化を行う”Late-Stage Functionalization”の考え方12に基づき窒素原子a位の酸化反応を経るアミナールの構築に成功し、(–)-isoschizogamine (1) の全合成を達成した。

Scheme 4

【文献】

(1) (a) Renner, U.; Kernweisz, P. Experientia 1963, 19, 244; (b) Renner, U. Lloydia, 1964, 27, 406.

(2) Hajicek, J.; Taimr, J.; Budesinsky, M. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 505.

(3) (a) Padwa, A.; Flick, A. C.; Lee, H. I. Org. Lett. 2005, 7, 2925; (b) Padwa, A.; Bobeck, D. R.; Mmutlane, E. M. ARKIVOC 2010, 7; (c) Zhou, J.; Magomedov, N. A. J. Org. Chem. 2007, 72, 3808.

(4) Hubbs, J. L.; Heathcock, C. H. Org. Lett. 1999, 1, 1315.

(5) Miura, Y.; Hayashi, N.; Yokoshima, S.; Fukuyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11995.

(6) Parker, K. A.; Fokas, D. J. Org. Chem. 1994, 59, 3933.

(7) Touge, T.; Hakamata, T.; Nara, H.; Kobayashi, T.; Sayo, N.; Saito, T.; Kayaki, Y.; Ikariya, T. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 14960.

(8) Carreno, M. C.; Urbano, A.; Fischer, J. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 36, 1621.

(9) Lee, S.; Fuchs, P. L. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 13978.

(10) Stanley, T.-C. E.; Martin, J. L. Org. Lett. 2010, 12, 5510.

(11) Perez, M. G.; Maier, M. S. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 3311.

(12) Stang, E. M.; White, M. C. Nature Chem. 2009, 1, 547.

 
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