天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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(+)-リアノジンの不斉全合成
枡田 健吾長友 優典小清水 正樹萩原 幸司田渕 俊樹占部 大介井上 将行
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p. Oral25-

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抄録

【序】

 (+)-リアノジン(1)は、イイギリ科の低木Ryania speciosaから単離された植物アルカロイドである1)。1は細胞内カルシウム放出チャネルの一種であるリアノジン受容体と選択的に結合し、濃度依存的にチャネルの開閉を制御する。1は複雑に縮環した5環性骨格上に、5個のヒドロキシ基、ヘミアセタール、ピロールカルボン酸エステルを有する。さらに11個の連続した不斉中心が存在し、その内8個が四置換炭素である。この極度に官能基が密集した構造のため、その全合成は有機合成化学上、極めて挑戦的な課題である。類縁天然物の唯一の全合成例として、Deslongchampsらが1の加水分解体であるリアノドール(2)の全合成を報告した2)。しかしながら、2の3位ヒドロキシ基に対するピロールカルボン酸エステル化による、1の合成は未だ実現されていない3)。我々は類縁天然物の網羅的合成を見据えた1の効率的合成経路の確立を目指し、その全合成研究を行った。今回、世界初となる1の不斉全合成を達成したので以下報告する。

【合成計画】

1の合成計画をScheme 1に示した。我々は、1に内在する対称性に着目し、ヒドロキノン3と無水マレイン酸(4)とのDiels-Alder反応、続く二方向同時官能基変換反応によって効率的に合成できる、C2対称3環性化合物5を鍵中間体に設定した4)。5のオレフィン部位の酸化的非対称化とDE環形成、橋頭位ラジカルを用いたC11位四置換炭素の構築を経て、4環性化合物6へと導く。C6位への位置・立体選択的炭素鎖導入に続く、閉環メタセシス反応を用いたC環形成を経て、7とする。ヒドロホウ素化-酸化によるC10位ヒドロキシ基の導入、C2位へのイソプロペニル基の導入によって、1の全ての炭素骨格を有する8へと導く。8のC3位ケトンの立体選択的還元後、現状困難とされるC3位へのピロールカルボン酸エステル導入によって、1を合成できると予想した。

Scheme 1. Synthetic plan of 1

【光学活性C2対称3環性化合物5の合成】

 まず不斉メタノリシス反応を用いた速度論的分割を経て、光学活性ビシクロ[2.2.2]オクテン(+)-12を合成した(Scheme 2)。3と4を無溶媒条件下、210 °Cに加熱することで、脱芳香環化を伴うDiels-Alder反応が進行し、環状酸無水物9をラセミ体として得た。ラセミ体9を、キニーネ誘導体Aを触媒とした不斉メタノリシス反応5)に付し、10aと10bをジアステレオマー混合物として得た。10aと10bの混合物をメタノール溶媒中、酸処理することで、10bのみを選択的に5員環アセタール11へと変換した。10aと11は、分液操作によって容易に分離可能であった。望みの絶対立体化学を有する10aから、エステル加水分解、電解反応による脱炭酸を経て、C2対称性を有する光学活性ビシクロ[2.2.2]オクテン(+)-12へと導いた。さらに再結晶を行うことで、光学的に純粋な(+)-12を得た。本速度論的分割経路では、光学分割を含む5工程の変換を一度のシリカゲルカラム精製のみで実現し、光学的に純粋な(+)-12を50グラム合成することができた。

Scheme 2. Synthesis of optically active bicyclo[2.2.2]octene (+)-12

 続いてビシクロ[2.2.2]オクテン(

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© 2014 天然有機化合物討論会電子化委員会
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