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Piperidamycin類(1-3)は、2009年に保坂らによって放線菌の遺伝子変異株から単離された特徴的な4連続オリゴピペラジン酸構造を有する18員環の環状デプシペプチドである1)(Figure 1)。現在までにこのようなオリゴピペラジン酸構造は他に例がなく、合成化学的に非常に興味深い。また、in vitroでグラム陰性菌や嫌気性グラム陰性桿菌に対して、ニューキノロン系抗生物質オフロキサシンと同程度の強い抗菌活性を示すことが明らかにされており、その特異な構造から既存の抗生物質とは異なる活性発現機構が期待され、近年多剤耐性が問題となっている抗生物質の開発において、piperidamycin類は新たなリード化合物になりえると考えられる。しかし、piperidamycin類は全ての不斉点の立体化学が未決定である。我々はその絶対配置決定を目的とした全合成を計画し、その標的としてpiperidamycin F (3)を選択した。3は8つの不斉点を有し、最大で28=256種類の立体異性体が考えられる。まず、その開環体とされる天然物JBIR-39(4)の立体配置決定を目的とし4の全合成を行った。その結果、低反応性のピペラジン酸N末端との効率的な縮合反応を開発することで4の初の全合成を達成し、その立体配置の決定に成功した。さらに、4の構造情報を基に3の立体配置を予測し、その骨格合成に成功したので報告する。
Figure 1
【JBIR-39(4)の立体配置予測および逆合成解析】
4の構造にはL体のピペラジン酸が一つ、D体のピペラジン酸が二つ含まれていることが明らかにされている2)。一方、放線菌から単離されたピペラジン酸含有ペプチドの構成アミノ酸は、D体とL体が交互に結合しているものがほとんどであることから、放線菌より単離された4の構造を同様にDとLが交互に並ぶ4aと推定した。望む4aは、一つのg‐ヒドロキシピペラジン酸を含む4つのピペラジン酸が連結したオリゴピペラジン酸7に対し、8およびα-メチルセリン誘導体6を縮合することで得ることができる。ピペラジン酸誘導体はα位窒素原子の求核力がプロリンなどの環状アミノ酸と比較して低いことが知られており、オリゴピペラジン酸7の合成が本合成の鍵となる。7の合成にはピペラジン酸の低い求核性を補うため、高活性な酸クロリドを縮合に用いることにし、対応する酸クロリド10およびent-10はEvansの不斉補助子のアシル化体12と13より合成することにした(Scheme 1)。
Scheme 1
【g‐ヒドロキシピペラジン酸含有オリゴピペラジン酸18の合成】
まず、7の合成に向けてg‐ヒドロキシピペラジン酸9と酸クロリド10との縮合を検討した(Table 1)。従来法として用いられる塩基性条件下での縮合を試みたが、対応するジペプチド14は低収率であった(entry 1,2)。そこで、活性化剤としてAgCNを用いたところ3)、目的の14を収率40%で得たがa位のエピ化が進行していることが分かった(entry 3)。この
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