天然有機化合物討論会講演要旨集
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オートファジー阻害剤テトランドリンの新規作用機序
宮前 友策西藤 有希奈仲井 奈緒美増田 誠司神戸 大朋永尾 雅哉
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p. Oral13-

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オートファジー阻害剤テトランドリンの新規作用機序

 オートファジーは、栄養飢餓や異常タンパク質の蓄積に応答して細胞内のタンパク質やオルガネラを自己分解し、再利用する品質管理機構である1。細胞が種々の刺激に応答すると、二重膜構造を有する隔離膜が形成され、オートファゴソームへと成熟する過程で分解物や細胞質成分が内包される2(図1A(1),(2))。オートファゴソームはリソソームと融合し、オートリソソームを形成した後、内容物がリソソームに存在する酸性加水分解酵素により分解され、栄養源として再利用される(図1A(3),(4))。オートファジーは細胞内の不要物の消去と再生を行うことで細胞内の恒常性の維持に重要な役割を果たす。近年、がんや肝疾患、神経変性疾患などの疾病との関連が次々と明らかにされており3、創薬分野において、オートファジー制御化合物は大きな注目を集めている。演者らは、肝硬変の成因である肝線維化を阻害する化合物を探索する過程で、ツヅラフジ科植物に含まれるビスベンジルイソキノリンアルカロイドであるテトランドリン(1, 図1B)に、オートファジー制御活性を有することを見出した。作用機序を解析した結果、1がこれまでのオートファジー阻害剤とは異なる、新たな因子を標的としてオートファジー経路を阻害することを強く示唆する結果を得たので、本講演ではその詳細を報告する。

1. テトランドリンは細胞種普遍的にオートファジーを制御する

 我々はまず、1を処理した細胞においてオートファジーのマーカータンパク質に変動が生じるか検討を行った。オートファゴソームに局在するLC3タンパク質にEGFP蛍光タンパク質を融合させたキメラタンパク質を、ラット由来肝星細胞株HSC-T6に安定発現させ、1の処理によりGFPの蛍光が増加するか観察した。その結果、1の処理によりドット状に凝集した蛍光の増加が見られたことから、オートファゴソームが増加していることが示唆された(図2A)。1がLC3タンパク質量を確かに増加させるかウェスタンブロッティングにより確認したところ、膜結合型であるLC3-IIを示すバンドが1の処理で顕著に増加したことから1は確かにオートファゴソームを増加させていることが明らかになった(図2B)。これらの形質はヒト由来肝がん細胞株HepG2やマウス由来繊維芽細胞など、オートファジーが活発に起こる組織の細胞でも観察されたため、1は細胞種普遍的にオートファジーを制御することが示された。

2. テトランドリンはオートファジーフローを阻害する

 次に1の作用機序を明らかにするため、オートファジーフローに与える影響について解析を行った。オートファジーフローとは、隔離膜の形成に始まり、オートファゴソームの成熟、リソソームによる分解までの一連のプロセスを表す(図1A)。LC3タンパク質は、オートファジーフローが促進されている場合と、途中のステップが遮断されている場合、いずれにおいても増加することが知られるが、両者で意味合いは大きく異なる。そこでtandem-fluorescent tagged LC3(tfLC3)発現細胞を用いて、1のオートファジーフローに与える影響を解析した。tfLC3は、mRFPとEGFPをLC3タンパク質に並

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 オートファジーは、栄養飢餓や異常タンパク質の蓄積に応答して細胞内のタンパク質やオルガネラを自己分解し、再利用する品質管理機構である1。細胞が種々の刺激に応答すると、二重膜構造を有する隔離膜が形成され、オートファゴソームへと成熟する過程で分解物や細胞質成分が内包される2(図1A(1),(2))。オートファゴソームはリソソームと融合し、オートリソソームを形成した後、内容物がリソソームに存在する酸性加水分解酵素により分解され、栄養源として再利用される(図1A(3),(4))。オートファジーは細胞内の不要物の消去と再生を行うことで細胞内の恒常性の維持に重要な役割を果たす。近年、がんや肝疾患、神経変性疾患などの疾病との関連が次々と明らかにされており3、創薬分野において、オートファジー制御化合物は大きな注目を集めている。演者らは、肝硬変の成因である肝線維化を阻害する化合物を探索する過程で、ツヅラフジ科植物に含まれるビスベンジルイソキノリンアルカロイドであるテトランドリン(1, 図1B)に、オートファジー制御活性を有することを見出した。作用機序を解析した結果、1がこれまでのオートファジー阻害剤とは異なる、新たな因子を標的としてオートファジー経路を阻害することを強く示唆する結果を得たので、本講演ではその詳細を報告する。

1. テトランドリンは細胞種普遍的にオートファジーを制御する

 我々はまず、1を処理した細胞においてオートファジーのマーカータンパク質に変動が生じるか検討を行った。オートファゴソームに局在するLC3タンパク質にEGFP蛍光タンパク質を融合させたキメラタンパク質を、ラット由来肝星細胞株HSC-T6に安定発現させ、1の処理によりGFPの蛍光が増加するか観察した。その結果、1の処理によりドット状に凝集した蛍光の増加が見られたことから、オートファゴソームが増加していることが示唆された(図2A)。1がLC3タンパク質量を確かに増加させるかウェスタンブロッティングにより確認したところ、膜結合型であるLC3-IIを示すバンドが1の処理で顕著に増加したことから1は確かにオートファゴソームを増加させていることが明らかになった(図2B)。これらの形質はヒト由来肝がん細胞株HepG2やマウス由来繊維芽細胞など、オートファジーが活発に起こる組織の細胞でも観察されたため、1は細胞種普遍的にオートファジーを制御することが示された。

2. テトランドリンはオートファジーフローを阻害する

 次に1の作用機序を明らかにするため、オートファジーフローに与える影響について解析を行った。オートファジーフローとは、隔離膜の形成に始まり、オートファゴソームの成熟、リソソームによる分解までの一連のプロセスを表す(図1A)。LC3タンパク質は、オートファジーフローが促進されている場合と、途中のステップが遮断されている場合、いずれにおいても増加することが知られるが、両者で意味合いは大きく異なる。そこでtandem-fluorescent tagged LC3(tfLC3)発現細胞を用いて、1のオートファジーフローに与える影響を解析した。tfLC3は、mRFPとEGFPをLC3タンパク質に並列に接続させたキメラタンパク質である4。EGFPはリソソーム中の加水分解酵素により速やかに分解される一方で、mRFPはリソソーム中でも安定である。化合物処理によりオートファジー経路が誘導されていればEGFPが分解され、mRFPのみの蛍光が観察されるのに対し、阻害されている場合は、EGFP及びmRFP両方の蛍光が観察される(図3A)。1をtfLC3発現細胞に処理した結果、既存のオートファジー阻害剤であるバフィロマイシンA1(Baf A1)と同様、両方の蛍光が観察され、その局在が一致したことから、1はオートファジー経路を阻害している可能性が示唆された(図3B)。また、リソソームプロテアーゼ阻害剤共処理でLC3の発現量に変化が見られなかったこと、ならびにオートファジーにより選択的に分解される基質タンパク質であるp62が蓄積したことからも、1がオートファジーを阻害していることが示された。

3. テトランドリンの作用点の解析

 次に1の作用点の解析を行った。1は細胞内でCa2+ ATPaseを標的としその機能を阻害することが知られる5。しかし、本研究で見出したオートファジーの阻害活性はCa2+ ATPaseの機能阻害では説明がつかず、他の因子を標的としている可能性が考えられた。そこで我々は、これまでに報告されている多くのオートファジー阻害剤が、リソソームの機能阻害を作用点とするものであることに着目した。まず、1がリソソームのpH調製に主要な役割を果たすV-type ATPaseに対して阻害作用を示すか、in vitroアッセイにより検討したが、既知のV-type ATPase阻害剤であるBaf A1とは異なり、一切阻害活性を示さなかった。また、1を処理した細胞においてアクリジンオレンジを用いて酸性小胞を染色した結果、Baf A1処理で観察されるようなアクリジンオレンジの蛍光の消失が全く観察されなかった。これらの結果から、1はリソソームの機能に関わる因子とは異なる因子を標的としている可能性が強く示唆された。

 そこで、リガンド固定化ビーズを用いて標的分子の直接同定を試みた。活性に影響を及ぼさない部分構造を明らかにするため、種々の類縁化合物を用いた構造–活性相関を検討したところ、1のジアステレオマーであるイソテトランドリン(2, 図1B)が1と全く同様の活性フェノタイプを示すことが明らかになった。両化合物は同一の標的を有すると考えられたため、21の“surrogate”とし、2の標的分子を同定した後、1がその分子を同じく標的とするか検証を行う方針を立案した。2のビーズへの固定化は、2のメトキシ基の一つが水酸基に置き換わったベルバミン(3, 図1B)を利用した。3の水酸基にアルキン基を導入した後、フイスゲン反応によりアジド化ナノ磁気製ビーズに固定化し(図4A)、全細胞抽出液、細胞質画分、膜画分のそれぞれから、標的分子のアフィニティ精製を試みた。得られた結合タンパク質のうちオートファジーに関連するタンパク質を検索した結果、全細胞抽出液より、high-mobility group box 1(HMGB1)が結合タンパク質として同定された(図4B)。HMGB1は本来核内に存在する転写因子であるが、近年、刺激に応答し、細胞質で隔離膜の形成に関わることが明らかにされている6。しかしながら、12の処理によりオートファゴソームが大量に蓄積することから、本化合物の真の作用点はオートファジーの後期の段階に存在すると考えられ、オートファジーの初期に関わるHMGB1とは異なる他の因子を標的としている可能性が考えられた。

 

 固定化ビーズを用いた手法では、標的分子の同定が困難であると考えられたため、個別の因子群に着目した生化学的解析により標的同定に迫ることとした。我々は、オートファジーの後期のステップであるオートファゴソームとリソソームとの融合過程に着目した。近年、Mizushimaらにより、オートファゴソームの膜上に会合するSNAREタンパク質の一種Stx17が、リソソーム膜上に存在するSNAREタンパク質であるVAMP8と、SNAP29を介して複合体を形成することにより、オートファゴソームとリソソームが融合することが明らかにされている7(図1A(2)及び(3)参照)。そこで、この現象に関わる因子群をノックダウン(KD)した際に、1の処理と同様のフェノタイプが観察されるか検証した。

 その結果、siRNAを用いたStx17のKDにより(図5A)、LC3-IIタンパク質量の増加ならびにEGFP-LC3の蛍光ドットの増加(図5B及びC)が観察され、1と同一のフェノタイプを示したことから、テトランドリンはオートファゴソームとリソソームの融合過程に関わる因子を標的としている可能性が強く示唆された。これまでに報告されているオートファジー阻害剤で、このプロセスを阻害する化合物は全く報告されておらず、1は新しいタイプのオートファジー阻害剤であると考えられる8。現在、1がStx17、SNAP29、及びVAMP8のいずれかに直接結合するのか、あるいは三者による複合体形成の上流を阻害するのか検討を行っている。

【参考文献】1) Mizushima, N. et al. Cell Struc. Funct. 2002, 27, 421-429; 2) Levine, B. and Kroemer, G. Cell 2008, 132, 27-42; 3) Mizushima, N. et al. Nature 2008, 451, 1069-1075; 4) Kimura, S. et al. Autophagy 2007, 3, 452-460; 5) Wang, G. et al. Trends Pharm. Sci. 2004, 25, 120-123; 6) Tang, D. et al. J. Cell Biol. 2010, 190, 881-892; 7) Itakura, E. et al. Cell 2012, 151, 1256-1269; 8) Miyamae, Y. et al. Manuscript in preparation

【謝辞】V-type ATPase阻害活性の測定を行って頂いた筑波大学生命環境系臼井健郎准教授、南雲陽子助教に深謝致します。本研究は、科学研究費補助金 研究活動スタート支援(No.23880015)、および若手(B)(No.26870309)の支援を受け実施されました。

 
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