天然有機化合物討論会講演要旨集
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Palau'amineの全合成
竹内 公平海原 由香理谷野 圭持難波 康祐
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p. Oral21-

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Palau'amineの全合成

1. 序論

 Palau’amine (1)は、1993年にScheuerらによって西カロリン諸島に生息する海綿Stylotella agminataから単離・構造決定されたピロール・イミダゾールアルカロイドであり、優れた免疫抑制活性を示すことが報告されている1,2)。構造的特徴として、歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格(D/E環)、C16位含窒素4置換炭素を含む8連続不斉中心などが挙げられ、複雑な構造と顕著な生物活性から世界中で高い関心を集めている。このため、これまでに数多くの合成研究が報告されてきたが、全合成の達成は2010年のBaranらによる一例のみとなっている3)。今回我々は、Hg(OTf)触媒的オレフィン環化反応およびABDE環の1段階構築反応を鍵とする1の全合成を達成したので報告する。

2. 合成計画

 Palau’amine (1)の逆合成解析を以下に示す。1の1級アミンおよび2級塩素はジオール2の官能基変換により導き、CF環部のグアニジノ基はジアミン誘導体3のアミン窒素を足がかりとして導入する。3の歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を含むBD環は、4のイミノエステル部位への連続する分子内環化反応により構築できると考えた。4は鍵中間体5を強塩基で処理することにより得られるものと期待した。すなわち、C10位の脱プロトン化と続くヒドラジド窒素の脱離によって、N-N結合の開裂とC10位の酸化が同時に進行すると考えた。5はヒドラジド6からC10位の酸化的修飾を伴う環縮小反応により合成することを計画した。6のC16位含窒素4置換炭素はヒドラジド7のHg(OTf)2触媒的オレフィン環化反応により構築し、7は市販のシクロペンテノン8から導くことにした。

3. C16位含窒素4置換炭素の構築とE環中間体の合成

 シクロペンテノン8を出発物質とし、Baylis-Hillman反応に続くアセチル化、Luche還元、TBS保護により9とした後、Ireland-Claisen転位を行いカルボン酸10へと導いた。10とトシルヒドラジドの縮合はDMAP存在下、位置選択的に進行し11を得た 4。11を1 mol%の水銀トリフラートで処理すると、分子内アミノマーキュレーション反応が進行し窒素環化体13を与え、one-potでTBS基を除去することでC16位含窒素4置換炭素を有するアルコール14が合成できた。次に14の2級水酸基を酸化、続くIBX酸化によりエノン15とした。Baylis-Hillman反応により16とした後、ニトロメタンのMichael付加、続くケトンの還元、1級水酸基のTBS保護を行った。このときニトロメタンの付加はconvex面から進行し、ヒドロキシメチル基は側鎖との反発を避けてantiに制御されることで望みの立体配置を有するE環中間体17が合成できた。5)

4. 鍵中間体の合成

 官能基化されたE環中間体17が得られたことから、次に環縮小に伴うC10位の酸化的修飾とピロールの導入を行った。17のヨウ化サマリウム処理と保護基の順次導入によって18とした。次いで18をシリルケテンアミナールへと変換後、NBSで処理することでC10位に臭素を導入した19を得た。なお、臭素の付加はビニル基の立体障害によりconcave面から進行した。次いで、19をMeOH中K2CO3で処理すると、メタノリ

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1. 序論

 Palau’amine (1)は、1993年にScheuerらによって西カロリン諸島に生息する海綿Stylotella agminataから単離・構造決定されたピロール・イミダゾールアルカロイドであり、優れた免疫抑制活性を示すことが報告されている1,2)。構造的特徴として、歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格(D/E環)、C16位含窒素4置換炭素を含む8連続不斉中心などが挙げられ、複雑な構造と顕著な生物活性から世界中で高い関心を集めている。このため、これまでに数多くの合成研究が報告されてきたが、全合成の達成は2010年のBaranらによる一例のみとなっている3)。今回我々は、Hg(OTf)触媒的オレフィン環化反応およびABDE環の1段階構築反応を鍵とする1の全合成を達成したので報告する。

2. 合成計画

 Palau’amine (1)の逆合成解析を以下に示す。1の1級アミンおよび2級塩素はジオール2の官能基変換により導き、CF環部のグアニジノ基はジアミン誘導体3のアミン窒素を足がかりとして導入する。3の歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を含むBD環は、4のイミノエステル部位への連続する分子内環化反応により構築できると考えた。4は鍵中間体5を強塩基で処理することにより得られるものと期待した。すなわち、C10位の脱プロトン化と続くヒドラジド窒素の脱離によって、N-N結合の開裂とC10位の酸化が同時に進行すると考えた。5はヒドラジド6からC10位の酸化的修飾を伴う環縮小反応により合成することを計画した。6のC16位含窒素4置換炭素はヒドラジド7のHg(OTf)2触媒的オレフィン環化反応により構築し、7は市販のシクロペンテノン8から導くことにした。

3. C16位含窒素4置換炭素の構築とE環中間体の合成

 シクロペンテノン8を出発物質とし、Baylis-Hillman反応に続くアセチル化、Luche還元、TBS保護により9とした後、Ireland-Claisen転位を行いカルボン酸10へと導いた。10とトシルヒドラジドの縮合はDMAP存在下、位置選択的に進行し11を得た 411を1 mol%の水銀トリフラートで処理すると、分子内アミノマーキュレーション反応が進行し窒素環化体13を与え、one-potでTBS基を除去することでC16位含窒素4置換炭素を有するアルコール14が合成できた。次に14の2級水酸基を酸化、続くIBX酸化によりエノン15とした。Baylis-Hillman反応により16とした後、ニトロメタンのMichael付加、続くケトンの還元、1級水酸基のTBS保護を行った。このときニトロメタンの付加はconvex面から進行し、ヒドロキシメチル基は側鎖との反発を避けてantiに制御されることで望みの立体配置を有するE環中間体17が合成できた。5)

4. 鍵中間体の合成

 官能基化されたE環中間体17が得られたことから、次に環縮小に伴うC10位の酸化的修飾とピロールの導入を行った。17のヨウ化サマリウム処理と保護基の順次導入によって18とした。次いで18をシリルケテンアミナールへと変換後、NBSで処理することでC10位に臭素を導入した19を得た。なお、臭素の付加はビニル基の立体障害によりconcave面から進行した。次いで、19をMeOH中K2CO3で処理すると、メタノリシスによって生じたアミドアニオンの分子内求核置換反応によってC10に窒素が導入された環縮小体20を与えた。続いて、ヒドラジド窒素への電子求引基の導入を種々検討したところ、トリフルオロアセチル基のみが良好な収率で導入できた。副生するジトリフルオロアセチル体22はMeOH中加熱処理することで21へ収束した。続いて、Fmoc基をピペリジンで除去し、生じた1級アミンとピロールトリクロロメチルケトン23との縮合により鍵中間体24を得ることができた。

5. ABDE環の1段階構築

 次に歪んだtrans-アザビシクロ[3.3.0]オクタン骨格を含む連続するABDE環の1段階構築を行った。はじめに24を3.0当量のLHMDSで処理したところ、予期した連続的環化反応が進行し、目的とする4環性化合物25を単一の立体異性体で与えた(condition I)。本反応は以下のように進行する。すなわち、N-N結合の開裂によるイミノエステルの生成(2424A)、アミドアニオンの付加(24A24B)、ピロールとの縮合反応(24B24C)が連続的に進行し、ABDE環を有する25を1段階で与えるというものである。しかし、本条件では低収率かつスケールアップに伴う再現性に乏しかったことから、以下のような考察を行った。

 TLC解析により、24からDE環体24Bへの変換は速いが、24Bから4環体24Cへの縮合反応は遅いことがわかった。この過程ではピロールアニオンよりも更に塩基性の高いメトキシドが生成するため、生じたメトキシドがピロールカルボニル基を攻撃し、24Bへ戻る逆反応が存在すると予想された。pKaの差からこの平衡は24Bに偏っており、この間に中間体が次第に分解し低収率になると考えた。

 そこで次のような解決策を見いだした(condition II)。すなわち、3当量の塩基処理によってDE環が構築されたことを確認したのち、トリアニオン24Bに対し、1当量の酢酸を添加する。これにより、pKaの最も大きいカルバメート(Boc)窒素がプロトン化を受けジオアニオン24Dとなる。次に、メトキシドの脱離を伴う縮合反応が進行し、モノアニオン24Eを与える。メタノールのpKaはカルバメートより大きいため、メトキシドはカルボニル炭素を攻撃することなくカルバメートの活性プロトンによってプロトン化される。これにより逆反応は抑制され、25を再現性良く得ることができ、収率は74%まで向上することができた。

6. C環の構築とF環グアニジノ基の導入

 以上のようにABDE環の構築を完了したので、C環の構築とF環グアニジノ基の導入を検討した。4環体25のBoc基の除去、チオウレアへの誘導、ピロールアミド基の還元、イソチオウレアへの変換を経由し26を得た。26の構造はX線結晶構造解析により確認している。次いで、26に強塩基性条件下でMsClを作用させるとメシラートの脱離と窒素からの環化が順次進行し、環状イソチオウレア27を与えC環の構築に成功した。27のトリフルオロアセチル基の除去はDIBALを用いたときのみ進行し、生じた1級アミンをチオウレア28へと誘導、続くグアニジノ化 6により29を得た。

7. Palau’amineの全合成

 残る課題はF環構築および官能基変換である。始めに29のオレフィン部の酸化的開裂を試みた。2つのTBS基の除去、1級水酸基にTIPSを導入し30を得た。30のオスミウム酸化は円滑に進行し目的のジオールを与え、続く過ヨウ素酸開裂によりF環が構築された31を得た。続く2級水酸基の塩素化はF環の隣接基関与によりアジリジン32を経由して立体保持で進行し塩素体33を与えた。次いで、C環のグアニジノ基への変換を試みた。種々検討した結果、33mCPBAによりスルホキシド34へと変換後、1級アミンとTf2NHを加え50 oCに加熱したところニトロベンジルアミンを良好な収率で導入できた。続いて、1級水酸基をモノクラート7化した後アジド化反応を試みたところ、2級塩素を保持したまま置換反応が円滑に進行し36を得ることに成功した。最後に、光照射により36o-ニトロベンジル基の除去、続くCbz基の除去とアジド基の還元を同時に行いpalau’amine (1)の全合成を達成した。

 以上、我々はHg(OTf)2触媒的オレフィン環化反応によるC16位含窒素4置換炭素の構築法、N-N結合開裂を伴うABDE環の1段階構築法、酸性条件で行える新規グアニジノ化法を開発し、palau’amine (1)の全合成を達成した(44工程 0.050%)。

【参考文献】

1) a) Kinnel, R. B.; Gehrken, H. -P.; Scheuer, P. J. J. Am. Chem. Soc. 1993, 115,

3376–3377. b) Kinnel, R. B.; Gehrken, H. -P.; Swali, R.; Skoropowski, G.; Scheuer, P. J.

J. Org. Chem. 1998, 63, 3281–3286.

2) Buchanan, M. S.; Carroll, A. R.; Quinn, R. J. Tetrahedron Lett. 2007, 48, 4573–4574.

3) a) Seiple, I. B.; Su, S.; Yang, I. S.; Lewis, C. A.; Yamaguchi, J.; Baran, P. S. Angew.

Chem. Int. Ed. 2010, 49, 1095–1098. b) Seiple, I. B.; Su, S.; Yang, I. S.; Nakamura, A.;

Yamaguchi, J.; Jogensen, L.; Rodriguez, R. A.; O’Malley, D. P.; Gaich, T.; Kock, M.;

Baran, P. S. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 14710–14726.

4) Namba, K.; Shoji, I.; Nishizawa, M.; Tanino, K. Org. Lett. 2009, 11, 4970–4973.

5) Namba, K.; Kaihara, Y.; Yamamoto, H.; Imagawa, H.; Tanino, K.; Williams, R. M.;

Nishizawa, M. Chem. Eur. J. 2009, 15, 6560–6563.

6) Shinada, T.; Umezawa, T.; Ando, T.; Kozuma, H.; Ohfune, Y. Tetrahedron Lett. 2006,

47, 1945–1947.

7) Shimizu, T.; Hiranuma, S.; Nakata, T. Tetrahedron Lett. 1996, 37, 6145–6148.

 
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