天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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全合成によるユーボールの構造改訂及び22-ヒドロキシ-15(28)-デヒドロベヌスタトリオールの全立体構造決定
滝 直人鴇田 百栄中井 遥星野 晃大森野 光耶子児玉 猛西川 慶祐舘 祥光森本 善樹
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p. Oral27-

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抄録

生物活性天然物の絶対配置を含めた全構造を決定することは、その分子サイエンスを展開する上で必須の極めて重要なステップである。現在では、NMR を中心とした構造解析により複雑な構造多様性をもつ天然物の全構造決定が可能になってきてはいるが、分光学的手法においても技術限界があり、その解決法が強く切望されている。特に立体構造が完全に決まらない場合が多々見受けられ、当研究室では有機合成の立場からそのような問題に取り組んで来た1。本討論会においては、NMR を中心とした構造解析により部分的な立体構造しか解明されていない細胞毒性海洋産含臭素オキサスクアレノイド (+)-ユーボールの不斉全合成を達成することにより提出構造式の改訂を行うとともに、類縁体 (+)-22-ヒドロキシ-15(28)-デヒドロベヌスタトリオールの不斉全合成も達成し、それらの全立体構造を決定したので報告する。

ユーボールと22-ヒドロキシ-15(28)-デヒドロベヌスタトリオール(推定構造式をそれぞれ1a and 2a で表す)は2011 年大西洋のマカロネシアにあるカナリア諸島周辺の紅藻Laurencia viridis から、Fernandez らにより微量成分として単離、構造決定されたオキサスクアレノイドである(Scheme 1)2。これらの化合物はJurkat 腫瘍細胞に対し、それぞれIC50 = 3.5 and 2.0 μM で成長阻害活性を示す。平面構造は二次元NMR スペクトルにより決定された。A,B,C 環部分の相対配置は同じく1984年にMartinらによって紅藻Laurencia pinnatifidaから単離された絶対配置既知の類縁体デヒドロチルシフェロールのNMR スペクトルデータ3との比較により決定され、D 環の構造および相対配置はNMR スペクトル解析及び生合成仮説に基づき推定されている。しかしながらA,B,C 環とD 環はアルキル鎖で隔てられており、両フラグメント間での相対的な配置及び分子の絶対配置は未決定である。我々はこれら微量成分である両天然物の絶対配置を含めた全立体構造の解明のためには、やはり有機合成によるアプローチが有効であると考え、それらの合成研究に着手した。またこれら微量成分の構造活性相関研究や作用機序解明等のためには、誘導体合成が可能な柔軟性のある化学合成法の確立が必要不可欠である。

合成計画をScheme 1 に示す。両化合物のA,B,C 環部は共通であり違うのはD 環部だけなので、C15–C16 部分で二つのフラグメント3と4 (or 5) に分け、両者を鈴木−宮浦クロスカップリングにより収束的に連結する計画である。連結後、A 環をブロモエーテル化により構築する。THP 環が縮環したB,C 環3 は、エポキシド7 とスルフィド8 を連結したアルコール6 を適当なエポキシアルコールへと誘導した後、順次6-exo オキサ環化により構築する。B,C 環部の合成法はいくつか報告されているが、C 環部は図に示すようなツイストボート型の構造をとっている事が知られており、C14位のエピマー化が起こらないマイルドかつ効率的な構築法を開発する必要がある。7 は既知の光学活性エポキシアルコール94 から導く。1a のD 環部4 は、既知の光学活性ジオール10 から化学量論的Sharpless 不斉エポキシ化を経て調製する。2a のD 環部の場合はC22 位のヘミケタールを分

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© 2015 天然有機化合物討論会電子化委員会
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