天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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リングビアロシドBの全合成と完全立体構造決定
不破 春彦山縣 直哉奥秋 佑太尾形 有也斎藤 麻美佐々木 誠
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p. Oral28-

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抄録

【序】

 シアノバクテリアは,配糖体マクロリドや環状ペプチドなど,構造的複雑さと顕著な生物活性を併せ持つ,多様な二次代謝産物の生産者として知られる。Mooreらは,パラオで採取したシアノバクテリアLyngbyasp.の二次代謝産物として,リングビアロシドB(提出構造式:1)を単離した1。本天然物の平面構造及び相対立体配置は,詳細な二次元NMR解析により帰属されたが,絶対立体配置は未決定であった。本天然物は,アシル化された第3級アルコールを含む特徴的な14員環マクロラクトン骨格に,末端が臭素化されたジエン側鎖及びL-ラムノース誘導体を配した,複雑な分子構造を有する。また,本天然物はヒト口腔類上皮細胞KBに対し,中程度の細胞毒性を示すことが知られている。現在までに,本天然物の類縁化合物として18E-及び18Z-リングビアロシドC(2及び3)2やリングボウイロシド(4)3が報告されており,いずれも培養ヒトがん細胞に対する毒性が認められている。

 化合物1–4は全合成の標的化合物として多くの興味を集めてきた4。Ley4cとCossy4dらは,4のアグリコン部分の合成に成功したものの,合成品のNMRスペクトルデータが,天然物の当該部分のそれと顕著に異なることを独立に報告しており,提出構造式の再検討の必要性が示唆されていた。

 我々は今回,リングビアロシドBの提出構造式1の全合成を初めて達成したが,合成品と天然物とのNMRスペクトルは一致しなかった。そこで,天然物のNMRスペクトルデータと候補となる立体異性体に関する分子力場計算から,本天然物の立体配置を一部帰属しなおした改訂構造式を提唱し,それが天然物の真の構造式であることを全合成により実証したので,その詳細を報告する5

【合成計画】

 モデル化合物での研究4fを踏まえ,我々の当初の合成計画は,1の14員環骨格を,C13位ヒドロキシ基のエステル化と閉環メタセシス反応を鍵工程として構築することであった(Scheme 1)。しかし,立体的に混雑したC13位ヒドロキシ基は反応性が著しく低く,例えばアルコール5とカルボン酸6とのアシル化反応を種々の方法で試みたが,目的とするエステル7は得られなかった。また,セコ酸8のマクロラクトン化反応も同様に困難を極め,目的の化合物9は得られなかった。

Scheme 1. C13位ヒドロキシ基のアシル化の試み

 以上の結果に基づき,我々は新たな合成計画を以下のように定めた(Scheme 2)。化合物1のL-ラムノース誘導体及びジエン側鎖は,それぞれSchmidtらによるグリコシル化6とStille型反応7で立体選択的に導入することにした。Hoye4aやCossy4dらの先行研究を参考に,14員環骨格10は,ジオキシノン11を熱分解して生じるアシルケテンを経由するマクロラクトン化で構築することにした。化合物11はアルデヒド12,エステル13及びシリルジエノールエーテル148を,我孫子−正宗アルドール反応9とビニロガス向山アルドール反応10を鍵工程として,収束的に構築することとした。

Scheme 2. 合成計画

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