天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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モノテルペン付加型キノロンアルカロイド生合成機構の解明
平山 裕一郎石川 格靖野口 博司Tang Yi渡辺 賢二
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p. Oral32-

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モノテルペン付加型キノロンアルカロイド生合成機構の解明

【背景・目的】

キノリンあるいは キノロンアルカロイドは放線菌から糸状菌や植物に至るまで幅広い生物から単離報告があり、抗菌作用、抗マラリア作用、抗ウイルス作用や抗腫瘍作用など様々な生物活性が報告されている。

糸状菌Aspergillus nidulansHKI0410株からはaspoquinolone (1)1)、またいくつかのPenicillium sp.からはpenigequinolone A (2) 2)やyaequinolone C (3)などの類縁体が単離されている(図1)。これらのキノロンアルカロイドは共通の4-phenyl-2-quinolone構造を有しているが、このキノロン骨格の生合成機構について詳細を明らかにした研究は報告されていなかった。またモノテルペン由来の部分構造の環化様式の相違や酸化部位の違いから構造多様性が生み出されていると考えられ、その生合成機構に興味が持たれた。そこで、これらのモノテルペンキノロンアルカロイドの生合成研究を行った。

【結果・考察】

png遺伝子クラスターの同定

前年度の本討論会にて、A. nidulansのゲノム情報から1の生合成遺伝子であるasq遺伝子クラスターを同定し、生合成中間体である4’-methoxy-viridicatin (6)の生合成機構について報告した3)。しかし通常の培養条件ではasq遺伝子クラスターは転写不活性状態であり、遺伝子破壊によってさらなる解析を進めることは困難であった。

そこで液体培養で容易にpenigequinolone類を生産するPenicillium sp. FKI-2140(一部の実験ではPenicillium thymicola)を用いて2の生合成機構の解明を試みることとした。次世代シークエンサーを用いてPenicillium sp. FKI-2140の全ゲノムを解析した後、asq遺伝子との比較により2の生合成遺伝子クラスターを探索した。相同性検索の結果、asq遺伝子クラスターと類似した遺伝子クラスターとしてpng遺伝子クラスター(Penicillium thymicolaからは”pen”遺伝子クラスター)を見出した(図2)。タンパク質相同性検索により、各生合成酵素の機能を推定した。非リボソーム型ペプチド合成酵素 (NRPS)と推定される”penN”(pngJに対応)を遺伝子破壊した変異株は2を生産しなくなったことから、確かにこれらの遺伝子クラスターが2の生合成遺伝子クラスターであると特定した。

図2 asq, pngおよびpen遺伝子クラスター

Cyclopenaseの同定

前討論会で化合物5から6への変換が自発的に進行することを報告したが、この反応を触媒するcyclopenaseの存在が先行研究から指摘されており4)、その酵素の同定を試みた(図3 a)。機能が不明であることから、推定遺伝子のいずれがcyclopenaseか予想できなかったため、直接酵素を単離することで同定を試みた。Penicillium sp. FKI-2140の菌糸抽出液と予想基質である5を反応せさたところ、期待通り6を生産することが確認できた(図3 b)。従って菌糸抽出液にcyclopenase活性を有する酵素が含まれていることが確認できた。続いて各種イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水クロマトグラフィーを用いて酵素精製を行った。その結果、ほぼ単一のタンパク質としてcyclopenase活性を有するタンパク質を分離した。分離したタンパク質は分子量が約75 kDaであり、補酵素要求性を調べたところNADP+依存的な

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【背景・目的】

キノリンあるいは キノロンアルカロイドは放線菌から糸状菌や植物に至るまで幅広い生物から単離報告があり、抗菌作用、抗マラリア作用、抗ウイルス作用や抗腫瘍作用など様々な生物活性が報告されている。

糸状菌Aspergillus nidulansHKI0410株からはaspoquinolone (1)1)、またいくつかのPenicillium sp.からはpenigequinolone A (2) 2)やyaequinolone C (3)などの類縁体が単離されている(図1)。これらのキノロンアルカロイドは共通の4-phenyl-2-quinolone構造を有しているが、このキノロン骨格の生合成機構について詳細を明らかにした研究は報告されていなかった。またモノテルペン由来の部分構造の環化様式の相違や酸化部位の違いから構造多様性が生み出されていると考えられ、その生合成機構に興味が持たれた。そこで、これらのモノテルペンキノロンアルカロイドの生合成研究を行った。

【結果・考察】

png遺伝子クラスターの同定

前年度の本討論会にて、A. nidulansのゲノム情報から1の生合成遺伝子であるasq遺伝子クラスターを同定し、生合成中間体である4’-methoxy-viridicatin (6)の生合成機構について報告した3)。しかし通常の培養条件ではasq遺伝子クラスターは転写不活性状態であり、遺伝子破壊によってさらなる解析を進めることは困難であった。

そこで液体培養で容易にpenigequinolone類を生産するPenicillium sp. FKI-2140(一部の実験ではPenicillium thymicola)を用いて2の生合成機構の解明を試みることとした。次世代シークエンサーを用いてPenicillium sp. FKI-2140の全ゲノムを解析した後、asq遺伝子との比較により2の生合成遺伝子クラスターを探索した。相同性検索の結果、asq遺伝子クラスターと類似した遺伝子クラスターとしてpng遺伝子クラスター(Penicillium thymicolaからは”pen”遺伝子クラスター)を見出した(図2)。タンパク質相同性検索により、各生合成酵素の機能を推定した。非リボソーム型ペプチド合成酵素 (NRPS)と推定される”penN”(pngJに対応)を遺伝子破壊した変異株は2を生産しなくなったことから、確かにこれらの遺伝子クラスターが2の生合成遺伝子クラスターであると特定した。

2 asq, pngおよびpen遺伝子クラスター

Cyclopenaseの同定

前討論会で化合物5から6への変換が自発的に進行することを報告したが、この反応を触媒するcyclopenaseの存在が先行研究から指摘されており4)、その酵素の同定を試みた(図3 a)。機能が不明であることから、推定遺伝子のいずれがcyclopenaseか予想できなかったため、直接酵素を単離することで同定を試みた。Penicillium sp. FKI-2140の菌糸抽出液と予想基質である5を反応せさたところ、期待通り6を生産することが確認できた(図3 b)。従って菌糸抽出液にcyclopenase活性を有する酵素が含まれていることが確認できた。続いて各種イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水クロマトグラフィーを用いて酵素精製を行った。その結果、ほぼ単一のタンパク質としてcyclopenase活性を有するタンパク質を分離した。分離したタンパク質は分子量が約75 kDaであり、補酵素要求性を調べたところNADP+依存的な酸化酵素であった(図3 c)。png遺伝子クラスターの中から、その条件に一致する酵素を探索した結果、PngLが75 kDaでNAD(P)結合領域を有する酵素であることを見出した。PngLはヘモシアニンの銅結合ドメインと類似したタンパク質と分類されており、これまでに二次代謝産物生合成に関与することが報告されていない新規な酵素と考えられた。実際に分離したcyclopenaseに僅かに銅が含まれていることが比色試薬を用いて確認されている。

Penigequinolone (2)の生合成機構

png遺伝子クラスター内の遺伝子をそれぞれ破壊し、各遺伝子破壊株の代謝産物を解析した。さらに各種生合成遺伝子を大腸菌もしくは出芽酵母細胞内で異種発現させ、単離した中間体を基質としてin vivoあるいはin vitroで反応させ、精密機能解析を試みた。その結果、6から2の生合成機構を図4に示すように解明した。以下に詳細を述べる。

4 penigequinolone (2)の生合成機構 破線部は推定

Viridicatin類縁体の生合成(69

図5に示す5種類のviridicatin類縁体がFKI2140株から単離されている。これらを生合成中間体とした場合、6から9へと変換するために7もしくは13を介する二通りの生合成機構が考えられた(図5 b)。そこで6および13を基質としてflavin-dependent monooxygenase (FMO)と推定されるPngIを用いたin vitro反応を行ったところ、NADPH存在下で6のみが反応し7が生成された(図5 a)。従って6から7と変換された後、メチル基転移酵素であるPngGもしくはPngMにより8となり、P450のPngHにより9へと変換されていると推測される。

モノテルペン構造の導入(912

png遺伝子クラスターには二つのprenyltransferase(pngAおよびpngC)が存在しており、これらの酵素によってどのようにC10モノテルペンユニットが導入されているか興味が持たれた。Penicillium thymicolaにおいてpngApngCに対応する二つの遺伝子”penI”と”penG”を同時に遺伝子破壊したところ9の蓄積が見られた。9を基質としてC5ユニットのDMAPP (dimethylallyl diphosphate)、あるいはC10ユニットのGPP (geranyl diphosphate)の存在下で二つのprenyltransferaseとそれぞれin vitroで反応させた(図6 a)。その結果、これらのprenyltransferaseはC10ユニットを直接導入することはできず、DMAPP存在下でのみ”PenI” によって10が生成した。”PenG”によりさらなるC5ユニットの伸長が予測された。しかしDMAPPを用いて直接Head to tail型のプレニル基の伸長を行うためにはΔ3’に二重結合を必要とするが、10はΔ2’に二重結合を持つため、”PenG”の基質は10ではないと考えられた。”penG”の遺伝子破壊株の生産物を確認したところ11が確認された。11と”PenG”をin vitroで反応したところ、3級カチオン中間体14に対して水が付加したと推測される12が生成した(図6 b)。また6位水酸基が攻撃することで6員環エーテルを形成した15a/bも生成されていた。これらの結果から二つのprenyltransferaseはC5ユニットを二度に分けて導入し、C10モノテルペン付加型としていることが明らかとなった5)。このようなモノテルペン骨格の構築はこれまでに報告されていない新規なメカニズムである。なおFMOである”PenH” (PngBに対応)を遺伝子破壊した株は10を蓄積した。従って10から11へと変換は”PenH” により行われていると推測された。

構造多様性を生み出すモノテルペン構造の生合成(122

続く12から3へと変換はエポキシ基の開環を伴うテトラヒドロフラン環の形成によって行われていると推測された。エポキシダーゼと推定される”PenE” (PngEに対応)を異種発現した酵母を用いて12を基質としたin vivo反応を行った結果、予想通り3への変換が見られた。また機能未知のPngDの遺伝子破壊株は3を蓄積した。そこで12を基質として”PenE”に加えて”PenF” (PenDに対応)を異種発現させた酵母によってin vivo反応を行ったところ2および16を生成した。さらにNADPH依存型の還元酵素であるPngFを用いたin vitro反応により、16から2および未知の副生成物20が生成されることを見出した。これらの知見から3からの環拡大を伴うセミピナコール転位反応により生成した17のオキソニウムイオンがPngFにより還元されることで2へと変換されていると推測している。また2016のヘミアセタールの平衡から生成するアルデヒド19をPngFが還元することで生成したテトラオールであると 予測している。

【結論】

本研究によりpenigequinolone (2)の生合成機構が解明された。また存在が示唆されていたcyclopenaseを同定し、これまでに二次代謝産物生合成に関与することが報告されていない新規な酵素であることを見出した。その詳細な作用メカニズムに興味がもたれる。またC5ユニットを段階的に導入するモノテルペン骨格の構築メカニズムはこれまでに報告がなく、テルペンの生合成経路に新たな知見を与える結果であると考えられる。今後aspoquinolone (1)のモノテルペン構造の構築についても研究を進め、構造多様性を生み出す生合成機構について詳細を明らかにしたい。

【謝辞】Penicillium sp. FKI–2140株を御分譲頂きました北里大学 特別栄誉教授 大村智先生、Penicillium sp. FKI-2140株の全ゲノム解析をして頂きました豊橋科学技術大学助教 広瀬侑先生に感謝致します。

【参考文献】

1) Scherlach, K., Hertweck, C., Org. Biomol. Chem., 2006, 4, 3517.; 2) Uchida, R., Imasato, R., Yamaguchi, Y., Masuma, R., Shiomi, K., Tomoda, H., Omura, S., J. Antibiot. 2006, 59, 646.; 3) Ishikawa, N., Tanaka, H., Koyama, F., Noguchi, H., Wang, C. C., Hotta, K., Watanabe, K., Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 12880.; 4) Nover, L., Lucker, M., Europian J. Biochem., 1969, 10, 268.; 5) Zou, Y., Zhan, Z., Li, D., Tang, M-C., Cacho, R. A., Watanabe, K., Tang, Y., J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 4980.

 
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