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鳥類の卵は、その表面が約97%の炭酸カルシウムと約3%の有機物からなる卵殻で覆われている。卵殻は、胚(雛)が成長して孵化するのに必要なカルシウムの約80%を供給し、主に骨形成に利用される1)。その際のカルシウム移動のメカニズムの解明を目的として研究を行った。これまでに、ラットにおいて卵殻食群の骨密度は炭酸カルシウム食群に比べて有意に増大することや2)、人工容器を用いたニワトリの体外培養において、卵殻をカルシウム源として用いた際に、炭酸カルシウムを用いた場合に比べて胚の生存率が上昇する3)という報告があることから、卵殻中にカルシウム移動に関与する化合物が存在すると推測し、その探索を行った。
【石灰化阻害活性を指標とした化合物の探索】
カルシウムに作用する化合物を探索する方法として石灰化阻害試験4)を採用した。石灰化阻害活性は、炭酸カルシウムが生成する条件下に、注目する試料を共存させ、その際に析出する炭酸カルシウムの量を反応溶液の濁度として測定し評価するものである。溶液中のカルシウムイオンや析出した炭酸カルシウムと積極的に作用する物質があれば、濁度の低下を指標として検出できると考えた。
【走査型電子顕微鏡による卵殻の観察】
まず、サイズが大きく観察が容易なダチョウの卵殻を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した(図1、2)。次亜塩素酸ナトリウムにより卵殻膜などの表面の有機物を除去した卵殻を乳頭層内面から観察したところ、胚成長および骨形成が十分に進行した後の卵殻では無数の突起状の構造にくぼみが生じるように溶解している様子が見られた。そこで、その溶解の見られた部分に存在する化合物に注目して探索を行った。
【ダチョウ卵殻からの抽出・精製】
SEMによる卵殻の観察において溶解の見られた部分に存在する化合物を調べるために、酸性水溶液を用いてダチョウの卵殻内面からの抽出を行った。すなわち、卵の上部に穴を開け、卵黄や卵白などの内容物を除いた後、開けた穴から10%酢酸水溶液を流し込み、卵殻内部を満たして1時間攪拌した。残った卵殻内面をSEMで観察すると乳頭層の突起部分までが完全に溶解したことがわかった。得られた抽出液中のカルシウムイオンは、陽イオン交換クロマトグラフィーにより除去した(スキーム1)。こ
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