天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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(+)–MPC1001Bの全合成
黒木 太一岡谷 駿岡野 健太郎徳山 英利
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(+)–MPC1001Bの全合成

【序論】MPC1001B (1)は2004年、協和発酵工業(株)の小野寺、神田らによって糸状菌Cladorrhinumsp. KY4922株から単離、構造決定されたジチオジケトピペラジンアルカロイドである。1 1は生物活性としてヒト前立腺がん細胞に対して強力な増殖抑制作用(IC50 = 39 nM)を示すことから広く注目を集め、合成研究が行われている。2,3しかし、ジヒドロオキセピン環や15員環マクロラクトン、アルドール構造を持つジチオジケトピペラジンなど、強い塩基性ならびに酸性条件下では損なわれることが懸念される複雑な構造を有するためいまだ全合成報告はなく、基本骨格の構築すら達成されていない。そこで我々は、1の初の全合成達成を目的として研究に着手した。

【逆合成解析】1の逆合成解析を以下に示す。1のジスルフィド結合は、Nicolaouらによって報告されている手法を用いて合成終盤に導入することとした。2の15員環骨格は、3の分子内光延反応によって構築できると期待した。環化前駆体3は、ビアリールエーテル構造を有するb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4と、我々が全合成を達成した(–)-acetylaranotin (6)の合成中間体であるカルボン酸5との縮合を経て合成可能であると考えた。4

【b-ヒドロキシ-a-アミノエステル4の合成】Bogerらの報告を参考にb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4を合成した。5まず、フェノール7とアリールブロミド8をMaらの条件6に付し、ビアリールエーテル9を収率38%で得た。つづいて、Wittig反応で増炭した後、不斉ジヒドロキシル化によって光学活性ジオール10へと導いた。エステルa位のヒドロキシ基を選択的にp-Ns化した後、アジ化ナトリウムを作用させアジド11を合成した。その後、アジド基を還元し、N,O-アセタール形成を経る還元的メチル化を行うことで所望のb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4へと導いた。

【分子内光延反応による15員環構築の試み】b-ヒドロキシ-a-アミノエステル4をカルボン酸5と縮合させアミド12を得た。つづいて、パラジウム触媒存在下、Et3SiHによりCbz基を除去した後、TBAFを作用させジケトピペラジン13を合成した。7"位ヒドロキシ基をMOPアセタールとして保護した後、TBS基の除去とMe3SnOHを用いるエステルのカルボン酸への変換7を経て、セコ酸14へと導いた。しかし、14をPMe3とDEADを用いる光延条件に付したところ、望みの環化体15は全く得られず、位置異性体16が収率74%で得られるのみだった。

【マクロラクトン化による15員環構築の試み】光延反応により目的の15員環を構築できなかったため、次にマクロラクトン化を検討した。まず、AZADO酸化8とLuche還元により17のヒドロキシ基の立体化学を反転させた。その後、Me3SnOHによってメチルエステルをカルボン酸へと変換し、セコ酸18を得た。しかし、18をジクロロエタン中加熱還流条件下に付し、椎名らによって報告されているマクロラクトン化の条件9を検討したところ、環化体15は全く生成しなかった。

【分子内アルドール反応による15員環構築】分子内でのエステ

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【序論】MPC1001B (1)は2004年、協和発酵工業(株)の小野寺、神田らによって糸状菌Cladorrhinumsp. KY4922株から単離、構造決定されたジチオジケトピペラジンアルカロイドである。1 1は生物活性としてヒト前立腺がん細胞に対して強力な増殖抑制作用(IC50 = 39 nM)を示すことから広く注目を集め、合成研究が行われている。2,3しかし、ジヒドロオキセピン環や15員環マクロラクトン、アルドール構造を持つジチオジケトピペラジンなど、強い塩基性ならびに酸性条件下では損なわれることが懸念される複雑な構造を有するためいまだ全合成報告はなく、基本骨格の構築すら達成されていない。そこで我々は、1の初の全合成達成を目的として研究に着手した。

【逆合成解析】1の逆合成解析を以下に示す。1のジスルフィド結合は、Nicolaouらによって報告されている手法を用いて合成終盤に導入することとした。2の15員環骨格は、3の分子内光延反応によって構築できると期待した。環化前駆体3は、ビアリールエーテル構造を有するb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4と、我々が全合成を達成した(–)-acetylaranotin (6)の合成中間体であるカルボン酸5との縮合を経て合成可能であると考えた。4

b-ヒドロキシ-a-アミノエステル4の合成】Bogerらの報告を参考にb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4を合成した。5まず、フェノール7とアリールブロミド8をMaらの条件6に付し、ビアリールエーテル9を収率38%で得た。つづいて、Wittig反応で増炭した後、不斉ジヒドロキシル化によって光学活性ジオール10へと導いた。エステルa位のヒドロキシ基を選択的にp-Ns化した後、アジ化ナトリウムを作用させアジド11を合成した。その後、アジド基を還元し、N,O-アセタール形成を経る還元的メチル化を行うことで所望のb-ヒドロキシ-a-アミノエステル4へと導いた。

【分子内光延反応による15員環構築の試み】b-ヒドロキシ-a-アミノエステル4をカルボン酸5と縮合させアミド12を得た。つづいて、パラジウム触媒存在下、Et3SiHによりCbz基を除去した後、TBAFを作用させジケトピペラジン13を合成した。7"位ヒドロキシ基をMOPアセタールとして保護した後、TBS基の除去とMe3SnOHを用いるエステルのカルボン酸への変換7を経て、セコ酸14へと導いた。しかし、14をPMe3とDEADを用いる光延条件に付したところ、望みの環化体15は全く得られず、位置異性体16が収率74%で得られるのみだった。

【マクロラクトン化による15員環構築の試み】光延反応により目的の15員環を構築できなかったため、次にマクロラクトン化を検討した。まず、AZADO酸化8とLuche還元により17のヒドロキシ基の立体化学を反転させた。その後、Me3SnOHによってメチルエステルをカルボン酸へと変換し、セコ酸18を得た。しかし、18をジクロロエタン中加熱還流条件下に付し、椎名らによって報告されているマクロラクトン化の条件9を検討したところ、環化体15は全く生成しなかった。

【分子内アルドール反応による15員環構築】分子内でのエステル形成が困難であったため、まず、分子間反応でエステルを合成することを計画した。また、19のアルドール構造に着目し、分子内アルドール反応による15員環の構築を検討することとした。

カルボン酸5から5工程の変換により導いたジケトピペラジン21をカルボン酸22と縮合させ、環化前駆体20を定量的に得た。ここで、20を用いて分子内アルドール反応の検討を行った。LiHMDSなどの強塩基を用いる条件では環化体は全く得られなかったが、検討の結果、TBAFを作用させることにより良好な収率で15員環23を単一の異性体として得ることに成功した。X線結晶構造解析の結果、アルドール反応成績体23のC3およびC7”位の立体化学が天然物と異なることが分かったが、ジスルフィド導入後に反転させることとし、検討を継続した。

【硫黄官能基の導入】Nicolaouらによって報告されたジケトピペラジンへのジスルフィド導入法10を用いて、硫黄官能基の導入を試みた。しかし、23に対して、硫黄とLiHMDSを作用させたところ、24が得られるのみで望みのテトラスルフィド27は全く得られなかった。ヒドロキシ基の脱プロトンを経てレトロアルドール反応が進行し、24が得られたと考察した。そこで、レトロアルドール反応を抑制するため、ヒドロキシ基をMOPアセタールとして保護したのち、テトラスルフィド導入を試みた。しかし、この場合、デヒドロ体26が得られた。ジケトピペラジンa位が塩基によって脱プロトン化された後、E1cB反応によるMOPオキシ基の脱離が起こったと考えている。

MPC1001Bの全合成】レトロアルドール反応およびE1cB脱離を抑制するために、23のヒドロキシ基を酸化することとした。また、酸化することによって、C3位の塩基による脱プロトンが容易になることを期待した。ジクロロメタン-リン酸緩衝液中AZADO酸化を行い、アルコール23をケトン28へと変換した。続いて、ジケトピペラジンの両a位へ段階的に硫黄官能基を導入することに成功した。すなわち、28に対してLiHMDSとTrSSSClを作用させてトリスルフィド29を合成したのち、同条件を繰り返すことでジトリスルフィド32へと導いた。興味深いことに、29に対してLiHMDSを作用させると安定なエノラート31を生じるようにTrSSS基が転位することが分かった。11その後、–78 °CにてLuche還元を行ってアルコール33を単一の異性体として得た。最後に、Danishefskyらによって報告されたチオール12を用いる条件により33のジトリスルフィドをジチオールまで還元したのち、酸素雰囲気下に付すことでジスルフィド結合を形成し、MPC1001B (1)の初の全合成を達成した。

【参考文献】 (1) (a) Tsumagari, N.; Nakai, R.; Onodera, H.; Hasegawa, A.; Rahayu, E. S.; Ando, K.; Yamashita, Y. J. Antibiot. 2004, 57, 532. (b) Onodera, H.; Hasegawa, A.; Tsumagari, N.; Nakai, R.; Ogawa, T.; Kanda, Y. Org. Lett. 2004, 6, 4101. (2) (a) Wang, L.; Clive, D. L. J. Tetrahedron Lett. 2012, 53, 1504. (b) Peng, J. B.; Clive, D. L. J. J. Org. Chem. 2009, 74, 513. (c) J. B. Peng, D. L. J. Clive, Org. Lett. 2007, 9, 2939. (3) (a) Schuber, P. T.; Williams, R. M. Heterocycles 2012, 84, 1193. (b) Schuber, P. T.; Williams, R. M.; Tetrahedron Lett. 2012, 53, 380. (4) Fujiwara, H.; Kurogi, T.; Okaya, S.; Okano, K.; Tokuyama, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 13062. (5) Boger, D. L.; Patane, M. A.; Zhou, J. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 8544. (6) Ma, D.; Cai, Q. Org. Lett. 2003, 5, 3799. (7) Nicolaou, K. C.; Estrada, A. A.; Zak, M.; Lee, S. H.; Safina, B. S. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1378. (8) Shibuya, M.; Tomizawa, M.; Suzuki, I.; Iwabuchi, Y. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 8412. (9) Shiina, I.; Kubota, M.; Ibuka, R. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 7535. (10) (a) Nicolaou, K. C.; Giguere, D.; Totokotsopoulos, S.; Sun, Y.-P. Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 728. (b) Nicolaou, K. C.; Lu, M.; Totokotsopoulos, S.; Heretsch, P. M.; Giguere, D.; Sun, Y.-P.; Sarlah, D.; Nguyen, T. H.; Wolf, I. C.; Smee, D. F.; Day, C. W.; Bopp, S.; Winzeler, E. A. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 17320. (11) Williams, R. M.; Anderson, O. P.; Armstrong, R. W.; Josey, J.; Meyers, H.; Eriksson, C. J. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 6092. (12) Mandal, M.; Dudkin, V. Y.; Geng, X.; Danishefsky, S. J. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2557.

 
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