天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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マルリブアセタールの合成研究
山越 博幸澤山 侑季赤堀 禎紘中村 精一
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p. Oral41-

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抄録

1. 研究背景

 トリテルペノイドやステロイドのC17位、ラブダンジテルペノイドのC9位は酸化を受け易いため、シラシロシドE-1(1)やマルリブアセタール(2)のような酸化型テルペノイドが自然界から多数見出されている(図1)。これらの化合物には二連続四置換炭素を持つ共通モチーフ3a、3bが含まれている。したがって、酸素原子が置換した第四級不斉中心の立体化学のみが異なる両モチーフを含む化合物は、天然物およびその誘導体を合成するための中間体として有用と考えられる。そこで我々は、Ireland–Claisen転位により二連続第四級不斉中心を一段階で構築する計画に基づき、3を含むキラルビルディングブロックの立体制御合成と得られた化合物を中間体とする天然物合成を目指すことにした。

2. Ireland–Claisen転位による二連続第四級不斉中心の構築1)

 文献上、Ireland–Claisen転位で二連続第四級不斉中心を立体選択的に構築している例は限られる2)。そこで、我々は1のようなTHF環を持つ天然物を念頭に置き、立体選択性に関する知見を得るため、はじめにエステル9のIreland–Claisen転位を行ってみることにした(スキーム1)。文献既知のラクトン4を出発原料として、Corey– Seebach法によるフェニルチオメチル基の導入とPummerer転位を行ってアルデヒド6を得た。Tollens酸化によりカルボン酸塩7に変換した後、別途調製した光学活性なアルコール8と縮合させることで9へと導いた。9をシリルケテンアセタールとした後昇温したところ、転位生成物が分離困難な異性体混合物として収率74%で得られることがわかった。メチルエステルに変換して確認した異性体比は94:6と高く、主生成物はカルボニルa位がR配置のエステル13であった。THF環上のメチル基とシクロヘキセン環の間に立体反発が生じるため、いす形遷移状態11はエネルギー的に不利となり、舟形遷移状態10を経て反応が進行したためと考えられる。

本考察の妥当性を検証するため、THF環を持たないエステル15およびTHF環3位をsp2炭素に変更したエステル19を調製してIreland–Claisen転位を試みた3)。その結果、反応はどちらもいす形遷移状態16および20を経て進行し、カルボニルa

位がS配置の転位生成物17および21を高立体選択的に与えることがわかった。以上の結果から、2-テトラヒドロフランカルボン酸誘導体を基質としてIreland–Claisen転位を行った場合、生成物のカルボニルa位の立体化学はTHF環3位の置換様式によって制御されることが明らかとなった。転位生成物をメチル化し

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