天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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ハイマンノース型およびシアリル糖鎖を持つエリスロポエチンの精密化学合成とそれらを用いた包括的な糖鎖機能の解明研究
木内 達人村上 真淑岡本 亮和泉 雅之伊藤 幸成梶原 康宏
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p. Oral43-

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抄録

 糖タンパク質の生合成は、小胞体で開始され、その際、タンパク質に付加されるハイマンノース型糖鎖は、多数の酵素、シャペロンにより構成される小胞体内糖タンパク質品質管理機構にタグとして利用されながら、タンパク質部分が正しくフォールディングされるように管理されている(Figure 1)1)

 この機構で正しくフォールディングしたと認識された糖タンパク質は、ゴルジ体に送られ、ハイマンノース型糖鎖のプロセッシングおよびシアリル糖鎖への再構築を経て完成品となり、細胞膜や細胞外へと分泌されていく。特に、糖タンパク質が、酸性のシアリル糖鎖を持つことで、血中に分泌された後、その水溶性の向上や、糖タンパク質の凝集の防止、血中寿命、抗原性が制御される。

 しかしながら、糖鎖構造が、糖タンパク質の生合成経路ならびに生理活性発現に与える影響を化学的視点で緻密に調べることは困難であった。これは、糖タンパク質分子がバイオテクノロジーを用いた方法でしか調製できなかったことと、その際、糖鎖構造を自在に制御して、任意の糖鎖を持つ糖タンパク質を得ることが不可能であったことが、その大きな理由である。

 我々は化学合成により特有の糖鎖構造を持つ糖タンパク質を、目的に合わせて調製できれば、強力なプローブになると考え、エリスロポエチン(EPO)を選び、その精密化学合成に挑戦してきた2)。EPOは腎不全による貧血の治療薬としても世界中で用いられている、造血ホルモンで、その糖鎖の構造、有無がin vivoでの活性に大きく影響することが調べられてきたが、常に糖鎖構造が不均一で、具体的に糖鎖のどのような分子構造が活性に影響するのか理解できていなかった。

 本発表では、ハイマンノース型糖鎖が小胞体での糖タンパク質の品質管理機構においてどのように利用されているのか、さらにはシアリル糖鎖が血中でのEPOの赤血球増殖活性をどのように制御しているのかを調べ、糖タンパク質の生合成の初期段階から血中で活性を発現するまでの糖鎖の機能を包括的に理解することを目指し、14種類のEPOを精密に化学合成し、糖鎖機能を系統的に調べた結果について述べる。

 EPOはアミノ酸166残基からなり、その24、38、83位のアスパラギンの側鎖にNグリコシル結合した糖鎖を3本持ち、126位のセリンの側鎖にOグリコシル結合した糖鎖を持つ。Oグリコシル結合した糖鎖は小胞体を通過後のゴルジ体で付加する上に、in vivoでの赤血球増殖活性に影響がないことが報告されていることから、今回はNグリコシル化した糖鎖を持つEPOのみを合成することにした。

 まず、ハイマンノース型糖鎖を持つEPOの合成について述べる。166残基からなるEPOをひとつなぎに合成することは困難であるため、短いペプチドセグメントに分けて複数のセグメントを調製後、これらをペプチド連結反応により連結することとした。

 またアスパラギンに結合したハイマンノース型糖鎖(Figure1)は卵黄から単離し、これをペプチド固相合成の際、24、38、83位のいずれかの位置に糖鎖を導入することで鍵となる糖ペプチドチオエステルを合成した

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