天然有機化合物討論会講演要旨集
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ドミノ環化を鍵反応とする生理活性ステロイドの合成研究
古田 未有花屋 賢悟須貝 威庄司 満
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ドミノ環化を鍵反応とする生理活性ステロイドの合成研究

【序論】

 ステロイド骨格を有する化合物は自然界に数多く存在し、さまざまな生理活性を有することが知られている。アルドステロン(1)、ヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ホルモンは、スクアレンから立体選択的に合成されるコレステロールの位置および立体選択的酸化を経て生合成される。現在、生化学研究に向け、これら生理活性物質の量的供給および類縁体合成が望まれているが、容易に入手可能なコレステロールの位置・官能基選択的修飾は非常に困難である。一方、オキシドスクアレンから出発するステロイド骨格の一挙構築が報告されている1) が、多官能性鎖状化合物のドミノ環化による高酸化型ステロイドの合成はほとんど報告されていない。そこで我々は、予め官能基化した鎖状前駆体2のドミノ環化による、四環一挙構築を鍵反応とする生理活性ステロイドの合成手法確立を目指し、研究に着手した(Scheme 1)。

Scheme 1

【ラジカルドミノ環化による三環性骨格構築】

現在までのところ、高度に官能基化された基質を用いたドミノ環化の例はほとんど報告されていない。我々は生合成経路を活用し、1ヶ所の不斉中心を足がかりとして他のすべての不斉中心の立体化学を制御しながら、ドミノ環化でステロイド骨格を一挙に構築しようと考えた。まず、四環性骨格合成に先立ち、11位に不斉中心を有する鎖状トリエン5のドミノ環化によるアルドステロン(1)のABC環部モデル4を、Zoreticらの報告2)を参考に合成することとした(Scheme 2)。環化前駆体5はア

Scheme 2

セト酢酸エステル6、シアノリン酸エステル72)、アルデヒド8をそれぞれ合成したのちに連結し、収束的に合成しようと考えた。

D-マンニトール由来のアルコール93)のヒドロキシ基をベンジル基で保護した後に、酸性条件下アセタールを除去し、ジオール10を得た(Scheme 3)。酸化開裂によりアルデヒドへ変換し、シアノリン酸エステル7とのHorner-Wadsworth-Emmons反応でBC環部骨格炭素を有するトリエン11を合成した。続いて、脱保護で生じたアルコールを臭素原子で置換後、a-クロロアセト酢酸エステルでアルキル化・伸長し、環化前駆体12および13を調製した。

Scheme 3

 

環化前駆体12に対し、酢酸溶媒中、酢酸マンガン(III)と酢酸銅(II)を用いるZoreticらの条件2) でラジカルドミノ環化を試みたところ、環化が途中で停止した単環性化合物が主生成物であった(Scheme 4, entry 1)。非プロトン性極性溶媒を用いた場合、望むall-trans型に縮環した三環性化合物14a、14bが生成したものの、収率は低かった(entry 2)。さらに検討を重ね、エタノール中でアルドステロン型の立体化学を有する14aと縮環部の立体化学が鏡像関係にある14bを合計収率55%で得ることに成功した(entry 3)。反応温度を40 °Cに昇温すると、収率が若干向上した(entry 4)。また、基質をメチルエステル13に代えてもほぼ同様の結果であった(entry 5)。

 得られたエチルエステル14に対しKrapcho脱アルコキシカルボニル化を試みたところ、14a、14bともに反応は全く進行しなかった。

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【序論】

 ステロイド骨格を有する化合物は自然界に数多く存在し、さまざまな生理活性を有することが知られている。アルドステロン(1)、ヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ホルモンは、スクアレンから立体選択的に合成されるコレステロールの位置および立体選択的酸化を経て生合成される。現在、生化学研究に向け、これら生理活性物質の量的供給および類縁体合成が望まれているが、容易に入手可能なコレステロールの位置・官能基選択的修飾は非常に困難である。一方、オキシドスクアレンから出発するステロイド骨格の一挙構築が報告されている1) が、多官能性鎖状化合物のドミノ環化による高酸化型ステロイドの合成はほとんど報告されていない。そこで我々は、予め官能基化した鎖状前駆体2のドミノ環化による、四環一挙構築を鍵反応とする生理活性ステロイドの合成手法確立を目指し、研究に着手した(Scheme 1)。

Scheme 1

【ラジカルドミノ環化による三環性骨格構築】

現在までのところ、高度に官能基化された基質を用いたドミノ環化の例はほとんど報告されていない。我々は生合成経路を活用し、1ヶ所の不斉中心を足がかりとして他のすべての不斉中心の立体化学を制御しながら、ドミノ環化でステロイド骨格を一挙に構築しようと考えた。まず、四環性骨格合成に先立ち、11位に不斉中心を有する鎖状トリエン5のドミノ環化によるアルドステロン(1)のABC環部モデル4を、Zoreticらの報告2)を参考に合成することとした(Scheme 2)。環化前駆体5はア

Scheme 2

セト酢酸エステル6、シアノリン酸エステル72)、アルデヒド8をそれぞれ合成したのちに連結し、収束的に合成しようと考えた。

D-マンニトール由来のアルコール93)のヒドロキシ基をベンジル基で保護した後に、酸性条件下アセタールを除去し、ジオール10を得た(Scheme 3)。酸化開裂によりアルデヒドへ変換し、シアノリン酸エステル7とのHorner-Wadsworth-Emmons反応でBC環部骨格炭素を有するトリエン11を合成した。続いて、脱保護で生じたアルコールを臭素原子で置換後、a-クロロアセト酢酸エステルでアルキル化・伸長し、環化前駆体12および13を調製した。

Scheme 3

 

環化前駆体12に対し、酢酸溶媒中、酢酸マンガン(III)と酢酸銅(II)を用いるZoreticらの条件2) でラジカルドミノ環化を試みたところ、環化が途中で停止した単環性化合物が主生成物であった(Scheme 4, entry 1)。非プロトン性極性溶媒を用いた場合、望むall-trans型に縮環した三環性化合物14a14bが生成したものの、収率は低かった(entry 2)。さらに検討を重ね、エタノール中でアルドステロン型の立体化学を有する14aと縮環部の立体化学が鏡像関係にある14bを合計収率55%で得ることに成功した(entry 3)。反応温度を40 °Cに昇温すると、収率が若干向上した(entry 4)。また、基質をメチルエステル13に代えてもほぼ同様の結果であった(entry 5)。

 得られたエチルエステル14に対しKrapcho脱アルコキシカルボニル化を試みたところ、14a14bともに反応は全く進行しなかった。一方、メチルエステル15a15bでは、ともに脱アルコキシカルボニル化とβ脱離が一挙に進行し、アルドステロンのABC環部に相当するエノン16aおよびそのジアステレオマー16bの合成に成功した4)。なお、得られた環化体の立体化学は15aおよび16bのNOE実験で決定した(Figure 1)。

Scheme 4

Figure 1

【四環性骨格の合成】

 三環性モデルで得られた知見を活用し、アルドステロン(1)の合成計画を立案した(Scheme 5)。1は、環化前駆体2のドミノ環化で四環性骨格を構築したのちに、3

Scheme 5

官能基変換を経て合成することとした。環化前駆体2はa-クロロアセト酢酸メチル17、シアノリン酸エステル7、アルデヒド18をそれぞれ合成したのちに連結しようと考えた。

不斉合成に先立ち、ラセミ体で合成を進めることとした。グリシドール由来のエポキシド19に対し、アルキン20から調製したアセチリドを作用させ、アルコール21を得た(Scheme 6)。第二級アルコールをベンジル基で保護したのちにTBS基を選択的に除去し、プロパルギルアルコール22を調製した。生じたヒドロキシ基を足がかりとした位置選択的ヒドロアルミニウム化、続くヨウ素化で生成したビニルヨージド23をリチオ化後、BOMClを作用させ、18位に酸素官能基を導入した。C環部骨格炭素24のTBS基を選択的に除去したのち、ヒドロキシ基を臭素原子で置換し、アリルブロミド25を得た。続いて、THF中、アリルマグネシウムブロミドを作用させると、目的のジエン26が生成するものの、共役ジエン27が主生成物として得られた。一方、ヨウ化銅とHMPAを添加すると、SN2’反応が進行したジエン28が副生したが、望みのジエン26が中程度の収率で得られた。

Scheme 6

ジエン26のTIPS基の除去で得られたアルコール29のDess-Martin酸化でアルデヒドへと変換し、シアノリン酸エステル7とのHorner-Wadsworth-Emmons反応により、BCD環部骨格炭素30を調製した(Scheme 7)。得られたテトラエン30のTHP基を除去し、アルコールを臭素原子で置換後、a-クロロアセト酢酸メチル17で伸長して、環化前駆体31を合成した。続いて、三環性モデルと同様の条件でラジカルドミノ環化を行ったところ、低収率ながら望む四環性化合物32を得ることに成功した。

Scheme 7

【結論】

11位に不斉中心を有する環化前駆体13に対し、エタノール中、酢酸マンガンと酢酸銅を用いるラジカルドミノ環化と続く脱アルコキシカルボニル化を行い、アルドステロンとそのジアステレオマーのABC環部を合成することに成功した。さらに、

アルドステロン(1)の合成を目指し、CD環部26にA環部、B環部を順次連結し、環化前駆体31を調製し、このラジカルドミノ環化で望む四環性化合物32が得られた。現在、ドミノ環化の収率向上および32の立体化学決定を目指し検討を重ねており、合わせて報告する予定である。

【参考文献】

1. E. J. Corey, S. Lin, J. Am. Chem. Soc., 1996, 118, 8765-8766.

2. P. A. Zoretic, Y. Zhang, A. A. Ribeiro, Tetrahedron Lett., 1996, 37, 1751-1754.

3. a) S. Roy, A. Sharma, B. Dhotare, P. Vichare, A. Chattopadhyay, S. Chattopadhyay, Synthesis, 2007, 1082-1090; b) M. Furuta, M. Shoji, T. Sugai, J. Mol. Catal. B: Enz., 2012, 82, 8-11.

4. M. Furuta, K. Hanaya, T. Sugai, M. Shoji, Tetrahedron Lett., 2014, 55, 3189-3191.

 
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