天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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Cochlioquinone化学の新展開―ECDの徹底活用と新たな生物活性考察
荒山 美紀前多 隼人田中 和明根平 達夫宮川 恒上野 民夫細川 誠二郎橋本 勝
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抄録

分子計算の発達により、NMR化学シフトやECDスペクトルを予測することが可能になってきた1,2。今回、Helminthosporium velutinum TS28 から単離したepi-cochlioquinone D (1)、12-a-hydroxy-epi-cochlioquinone D (2) の構造決定ではこれらが重要な役割を果たした3。これら化合物はCochliobolus miyabeanusに対する抗菌活性を指標に見出し、構造活性相関ではC. miyabeanusの場合、側鎖や環構造部分について構造を厳密に区別することを明らかにした。また、H. velutinum TS28から1のポリケチド部分のみを有するprecochlioquinol D (3) を単離し、これを基にこれら化合物の生合成を考察した。

epi-Cochlioquinone D (1) 及びその12-a-hydroxy体 (2) の構造

1について通常のスペクトル解析を行ったところ、cochlioquinone D (4) と同一の平面構造を推定した。しかしNMRデータは4の文献値とよく似ているもののC12-C13位を中心に明確な違いがみられた。H-13のシグナル形状(d, J =8.3 Hz)、また、Ha-12及びH-13がともに14-Meとの間にNOEを観測したことなどにより、1は4の14-Meに関するジアステレオマーであると決定した。2はHa-12が水酸基に酸化されたものであると判明した。しかし、5位メチル基については、他の不斉中心から遠く、NMRスペクトルからその立体配置を議論することができなかった。

ECDを利用した立体化学の決定

1の5位はC2-C4位の不飽和ケトン及びC6-C11位ベンゾキノンの二つの発色団に囲まれていることから、それらのUV吸収波長領域において電子円二色性 (ECD)効果が予想される。実際に測定したところ、p→p*遷移 (K帯) に起因すると思われる200-350 nm領域において特徴的なECDスペクトルを観測した。2も同様のスペクトルを与え、水酸基の影響は無視できると考えた。合成品を含めた類縁体4,5のスペクトルを測定・比較したところ、200-350 nm 付近のECDは同一の発色団を持つ1と4に共通するもので、発色団が異なる場合 (5,6) のECDは明確に異なっていた。以上のことから1で観測したこの領域のECDは上記二つのクロモフォアによる相互作用であり、4と同じ(5S)-配置であると結論した。密度汎関数を用いた計算スペクトルもこれを支持した。興味深いことに計算した(5R)-配置のスペクトルは、この波長領域で(5S)-配置とほぼ鏡像のスペクトルであった(Figure 3、スペクトルA)。この結果は、C12‐C22位テルペン部分の絶対配置が逆であっても、ほぼ同一のスペクトルを与えることになり、旋光度による解析では全構造の絶対配置の決定には不十分であることを示している。5位についての両異性体のECD計算値では、高波長領域 (350-500 nm) で実測値との明確な違いがみられる。実際のスペクトルにおいても14a-Me体の1と5は側鎖発色団が異なるためK帯では異なったECDを示すものの、高波長領域ではどちらも正の分裂型コットン効果を与えたのに対し、14b-Me体である4及び6は、この領域では共通の負の分裂型コットンを与えることが判明した(スペクトルB、C) 。以上のことからこの領域のECDはテルペン部分の立体に由来するベンゾキノンのひずみがECD のn→p*遷移 (R帯) に反映されると考察、5がX線結晶解析により絶対配置が確定していることを考慮して、1のC12‐C22位テルペン部分の絶対配置を図に示したよ

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© 2015 天然有機化合物討論会電子化委員会
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