天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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Fidaxomicinと類縁体の全合成
服部 弘Elias Kaufmann宮武 秀樹Karl Gademann
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p. Oral11-

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抄録

緒言

 Fidaxomicin(1, Lipiarmycin A3, Tiacumicin B, OPT-80)は1972年にActinoplanes deccanensisより単離構造決定されたマクロライドであり1,2)、RNA polymerase複合体におけるDNA 2本鎖の分離を阻害するという新規の作用機序と、狭い抗菌スペクトルを有する。本化合物は2011年FDAとEMAよりClostridium difficile関連下痢症に対する治療薬として承認されたことに加え、多剤耐性菌を含む結核菌に対しても極めて有効であることから3)、高い関心を集めている。特に多剤耐性結核菌感染症は現在世界中で増加の一途をたどっており、新規の作用機序を有する有効な治療薬の開発が期待されている。

 Fidaxomicinの構造的特徴として、不飽和度が高く疎水的な18員環アグリコンと、2つのβ配座を有する糖部位があげられる (Figure 1)。現在までにAltmann4), Zhu5)らの大員環アグリコン部位の合成をはじめとして、活発な合成研究が展開されている。我々は上記の生物活性及びユニークな構造に関心を持ち、全合成研究を開始した。今回、Fidaxomicinの全合成を達成し6,7)、さらにその構造活性相関研究のための類縁体合成を行ったので報告する。

Figure 1. Fidaxomicin and its analog,tiacumicin A.

合成計画

Scheme 1. Retrosynthetic analysis of fidaxomicin.

 Tiacumicin類のの合成において、(i)大環状ラクトンの合成、(ii)ラムノース部位並びにノビオース部位の合成、(iii)二つの糖部位のβ選択的グリコシル化反応、が鍵となる。合成計画をScheme 1に示した。Fidaxomicin (1) は、マクロ環中間体Cに対する二つの連続的なグリコシル化反応により合成できるとすると、糖供与体AとBへと逆合成できる。3つの重要中間体のうち、ラムノース部位Aは位置選択的エステル化反応を鍵工程として単糖と芳香族カルボン酸から合成できると期待できる。一方で最も工程数を要すると思われる、大環状ラクトンCは閉環メタセシス反応と鈴木カップリング反応により構築するとすれば、DとEから合成可能である。さらにDはSharpless法と山口法により、EはBrown不斉アリルホウ素化反応とEvans不斉補助基を用いたVinylogous向山アルドール反応を適用することで合成できるものと考えた。

ラムノース供与体の合成

 まずBarretらの芳香環構築法8)を参考にラムノース部位の合成に着手した (Scheme 2)。すなわち、文献既知のケトン4のジアニオンに対し1-propionylimidazole 3を作用させることによりジケト体4aに導いたのちに、塩基処理することにより芳香環化させ、目的化合物5を57%で得た。続いてSulfuryl chlorideによる塩素化とフェノール性水酸基の保護によりエステル化前駆体6を合成した。

Scheme 2. Synthesis of the protected resorcylate 6.

 次に、α-methyl-D-mannnopyranosideより得られる79)の3、4位選択的ジアセタール化とメチル化、続く脱保護によりメチルエーテル8を得た (Scheme 3)。さらに8をZnI存在下、PhSTMSを作用させることでチオラムノシド9に変換した。9は先に合成したケテン前駆体6と反応させることにより4位選択的にエステル10を与えた。本反応ではケテンとの反応により、まず3位アシル

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