天然有機化合物討論会講演要旨集
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Fidaxomicinと類縁体の全合成
服部 弘Elias Kaufmann宮武 秀樹Karl Gademann
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p. Oral11-

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Fidaxomicinと類縁体の全合成

緒言

 Fidaxomicin(1, Lipiarmycin A3, Tiacumicin B, OPT-80)は1972年にActinoplanes deccanensisより単離構造決定されたマクロライドであり1,2)、RNA polymerase複合体におけるDNA 2本鎖の分離を阻害するという新規の作用機序と、狭い抗菌スペクトルを有する。本化合物は2011年FDAとEMAよりClostridium difficile関連下痢症に対する治療薬として承認されたことに加え、多剤耐性菌を含む結核菌に対しても極めて有効であることから3)、高い関心を集めている。特に多剤耐性結核菌感染症は現在世界中で増加の一途をたどっており、新規の作用機序を有する有効な治療薬の開発が期待されている。

 Fidaxomicinの構造的特徴として、不飽和度が高く疎水的な18員環アグリコンと、2つのβ配座を有する糖部位があげられる (Figure 1)。現在までにAltmann4), Zhu5)らの大員環アグリコン部位の合成をはじめとして、活発な合成研究が展開されている。我々は上記の生物活性及びユニークな構造に関心を持ち、全合成研究を開始した。今回、Fidaxomicinの全合成を達成し6,7)、さらにその構造活性相関研究のための類縁体合成を行ったので報告する。

Figure 1. Fidaxomicin and its analog,tiacumicin A.

合成計画

Scheme 1. Retrosynthetic analysis of fidaxomicin.

 Tiacumicin類のの合成において、(i)大環状ラクトンの合成、(ii)ラムノース部位並びにノビオース部位の合成、(iii)二つの糖部位のβ選択的グリコシル化反応、が鍵となる。合成計画をScheme 1に示した。Fidaxomicin (1) は、マクロ環中間体Cに対する二つの連続的なグリコシル化反応により合成できるとすると、糖供与体AとBへと逆合成できる。3つの重要中間体のうち、ラムノース部位Aは位置選択的エステル化反応を鍵工程として単糖と芳香族カルボン酸から合成できると期待できる。一方で最も工程数を要すると思われる、大環状ラクトンCは閉環メタセシス反応と鈴木カップリング反応により構築するとすれば、DとEから合成可能である。さらにDはSharpless法と山口法により、EはBrown不斉アリルホウ素化反応とEvans不斉補助基を用いたVinylogous向山アルドール反応を適用することで合成できるものと考えた。

ラムノース供与体の合成

 まずBarretらの芳香環構築法8)を参考にラムノース部位の合成に着手した (Scheme 2)。すなわち、文献既知のケトン4のジアニオンに対し1-propionylimidazole 3を作用させることによりジケト体4aに導いたのちに、塩基処理することにより芳香環化させ、目的化合物5を57%で得た。続いてSulfuryl chlorideによる塩素化とフェノール性水酸基の保護によりエステル化前駆体6を合成した。

Scheme 2. Synthesis of the protected resorcylate 6.

 次に、α-methyl-D-mannnopyranosideより得られる79)の3、4位選択的ジアセタール化とメチル化、続く脱保護によりメチルエーテル8を得た (Scheme 3)。さらに8をZnI存在下、PhSTMSを作用させることでチオラムノシド9に変換した。9は先に合成したケテン前駆体6と反応させることにより4位選択的にエステル10を与えた。本反応ではケテンとの反応により、まず3位アシル

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緒言

 Fidaxomicin(1, Lipiarmycin A3, Tiacumicin B, OPT-80)は1972年にActinoplanes deccanensisより単離構造決定されたマクロライドであり1,2)、RNA polymerase複合体におけるDNA 2本鎖の分離を阻害するという新規の作用機序と、狭い抗菌スペクトルを有する。本化合物は2011年FDAとEMAよりClostridium difficile関連下痢症に対する治療薬として承認されたことに加え、多剤耐性菌を含む結核菌に対しても極めて有効であることから3)、高い関心を集めている。特に多剤耐性結核菌感染症は現在世界中で増加の一途をたどっており、新規の作用機序を有する有効な治療薬の開発が期待されている。

 Fidaxomicinの構造的特徴として、不飽和度が高く疎水的な18員環アグリコンと、2つのβ配座を有する糖部位があげられる (Figure 1)。現在までにAltmann4), Zhu5)らの大員環アグリコン部位の合成をはじめとして、活発な合成研究が展開されている。我々は上記の生物活性及びユニークな構造に関心を持ち、全合成研究を開始した。今回、Fidaxomicinの全合成を達成し6,7)、さらにその構造活性相関研究のための類縁体合成を行ったので報告する。

Figure 1. Fidaxomicin and its analog,tiacumicin A.

合成計画

Scheme 1. Retrosynthetic analysis of fidaxomicin.

 Tiacumicin類のの合成において、(i)大環状ラクトンの合成、(ii)ラムノース部位並びにノビオース部位の合成、(iii)二つの糖部位のβ選択的グリコシル化反応、が鍵となる。合成計画をScheme 1に示した。Fidaxomicin (1) は、マクロ環中間体Cに対する二つの連続的なグリコシル化反応により合成できるとすると、糖供与体ABへと逆合成できる。3つの重要中間体のうち、ラムノース部位Aは位置選択的エステル化反応を鍵工程として単糖と芳香族カルボン酸から合成できると期待できる。一方で最も工程数を要すると思われる、大環状ラクトンCは閉環メタセシス反応と鈴木カップリング反応により構築するとすれば、DEから合成可能である。さらにDはSharpless法と山口法により、EはBrown不斉アリルホウ素化反応とEvans不斉補助基を用いたVinylogous向山アルドール反応を適用することで合成できるものと考えた。

ラムノース供与体の合成

 まずBarretらの芳香環構築法8)を参考にラムノース部位の合成に着手した (Scheme 2)。すなわち、文献既知のケトン4のジアニオンに対し1-propionylimidazole 3を作用させることによりジケト体4aに導いたのちに、塩基処理することにより芳香環化させ、目的化合物5を57%で得た。続いてSulfuryl chlorideによる塩素化とフェノール性水酸基の保護によりエステル化前駆体6を合成した。

Scheme 2. Synthesis of the protected resorcylate 6.

 次に、α-methyl-D-mannnopyranosideより得られる79)の3、4位選択的ジアセタール化とメチル化、続く脱保護によりメチルエーテル8を得た (Scheme 3)。さらに8をZnI存在下、PhSTMSを作用させることでチオラムノシド9に変換した。9は先に合成したケテン前駆体6と反応させることにより4位選択的にエステル10を与えた。本反応ではケテンとの反応により、まず3位アシル成績体が主成するが、加熱を続けることにより、分子内エステル交換反応を経て熱力学的により安定な4位アシル成績体10に変換されている。最後にエステル化により生じたフェノール性水酸基をAllyl bromideで保護したのちに、続く2工程の変換によりラムノース供与体11の合成に成功した。

Scheme 3. Synthesis of the rhamnosyl donor 11.

ノビオース供与体の合成

 一方、ノビオース供与体17の合成はピラノースからフラノースへの環拡大反応を中心とした、官能基変換により実現した(Scheme 2)。すなわち、文献既知のフラノース1210)をオゾン酸化によりアルデヒドに導いたのちに、MeOH混合溶媒中、Brでさらに酸化することによりメチルエステル13を合成した。続いて、フラノース13に対してGrignard試薬を作用させることによりアルコール14としたのちに、酸性条件下加熱することにより、所望のピラノース15を得た。得られた15に対して、Carbonyldiimidazoleと酸塩化物を順に反応させることにより、エステル16を合成した。最後に16をHBrと反応させることによりノビオース供与体17を得ることに成功した。尚、このハロゲン化糖17は各種精製条件に不安定であったため、抽出後そのまま次の反応に用いた。

Scheme 4. Synthesis of the noviosyl donor 17.

アグリコンの右側セグメントDの合成

 二つの糖供与体の合成が完了したので、大員環のボロン酸エステル25の合成に着手した (Scheme 5)。まず、エステル18とacroleinとのアルドール成績体19の水酸基を一級選択的にTBS保護し、化合物20とした。次に、20をアセルチル化と脱離反応より不飽和エステル21に変換した。続いて21の加溶媒分解を試みたが、通常の加水分解条件ではTBS基の脱落が観察され、22が低収率でしか得られないという問題が生じたため、3工程の変換により22を70%の収率で得た。

 一方で、アルコール24はSharpless酸化により調製した、文献既知の光学活性なエポキシド23をアルキル化後、Aggarwalらの条件11)に付すことで合成した。最後にアルコール24とカルボン酸22を山口法によりエステル化することにより鈴木カップリング前駆体25へと導いた。

Scheme 5. Synthesis of the right hand fragment of macrocycle.

アグリコンの左側セグメントEの合成

 残る大員環部位は鍵工程としてVinylogous向山アルドール反応を利用することにより構築できた (Scheme 6)。まず、文献既知の化合物26のシリル化によりケテンシリルアミナール27を得た。次にDimethyl methylmalonateから別途3工程で調整したα,β-不飽和アルデヒド28を用いて、 小林らの報告例12)を参考にVinylogous向山アルドール反応を検討した。本反応では求電子剤28の反応性が低いために困難を伴ったが、シリルケテンアミナール27を-78度で30分以上かけ滴下後、-37度に昇温し、撹拌することにより、antiアルドール付加体29を75%の収率で単一のジアステレオマーとして得ることに成功した。続いて合成したアルコール29を光延条件に付すことで30に変換した。エステル30の不斉補助基の除去はエステル部位の還元が一部競合したものの、78%でアリルアルコールを与えた。このものに二酸化マンガンを作用させることにより、アルデヒド31としたのちに、Brown法を適用することで望みの立体化学を有するアルコール32を20:1のジアステレオ選択性で得た。生じた水酸基をTBSOTfにより保護したのちに、加水分解条件に付すことで、糖受容体であるアルコール33に変換することに成功した。

Scheme 6. Synthesis of the left hand fragment of macrocycle through VMAR.

Fidaxomicinの全合成

 以上、Fidaxomicinの合成の重要中間体の合成に成功したので、各フラグメントの連結反応、すなわち18員環の形成とβ選択的グリコシル化を検討した (Scheme 7)。まず、鍵反応の一つである配糖化を試みた。種々検討した結果、3317に対し過剰量の酸化水銀と触媒量の臭化水銀で処理する条件を用いたところ、反応は円滑に進行し、収率63%、α:β = 1:3の選択性で望みのβ体34を合成することに成功した。続く、鈴木カップリング反応はタリウムエトキシドを添加剤として用いたところ、反応は15分で完結し、カップリング体35を82%の収率で与えた。合成した35に対し第2世代Grubbs触媒を作用させたところ、マクロ環化は円滑に進行し、E:Z = 2:1の幾何選択性で望みのE体を得た。さらにアグリコンのTBS基を一級選択的に除去することで36としたのちに、先に合成したラムノース供与体11と反応させることにより、β選択的にラムノシル化成績体37に変換した。最後に、TBS基の除去を含む3工程の脱保護によりFidaxomicin(1)の全合成を達成した。合成した11H NMRはほぼすべてのピークのケミカルシフトが一致したものの、芳香環部位の一部ピークに若干の差異が見られた。そこで、天然物と合成品との1:1混合物を用いて1H NMRを再度測定したところ、1セットのピークのみが観測されたことから、合成品は天然物と同一であることを確認した。また、HPLCの保持時間及びHRMSは天然物のそれと完全に一致した。同様の合成方法により、Fidaxomicinの類縁体についても合成を達成したので、講演にて詳細を報告する。

Scheme 7. Total synthesis of Fidaxomicin.

参考文献

1) Parenti, F.; Pagani, H.; Beretta, G. J. Antibiot. 1975, 28, 247.

2) Xiao, Y.; Li, S.; Niu, S.; Ma, L.; Zhang, G.; Zhang, H.; Zhang, G.; Ju, J.; Zhang, C. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 1092.

3) Kurabachew, M.; Lu, S. H. J.; Krastel, P.; Schmitt, E. K.; Suresh, B. L.; Goh, A.; Knox, J. E.; Ma, N. L.; Jiricek, J.; Beer, D.; Cynamon, M.; Petersen, F.; Dartois, V.; Keller, T.; Dick, T.; Sambandamurthy, V. K. J. Antimicrob. Chemother. 2008, 62, 713.

4) Glaus, F.; Altmann, K.-H. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 1937.

5) Erb, W.; Grassot, J.-M.; Linder, D.; Neuville, L.; Zhu, J. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 1929.

6) Miyatake-Ondozabal, H.; Kaufmann, E.; Gademann, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 1933.

7) Kaufmann, E.; Hattori, H; Miyatake-Ondozabal, H.; Gademann, K. Org. Lett. 2015, 17, 3514.

8) Patel, B. H.; Mason, A. M.; Patel, H.; Coombes, R. C.; Ali, S.; Barrett, A. G. M. J. Org. Chem. 2011, 76, 6209.

9) Ley, S. V.; Owen, D. R.; Wesson, K. E. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 1997, 2805.

10) Bock, K.; Pedersen, C. Acta Chem. Scand. 1977, B31, 248.

11) Hesse, M. J.; Butts, C. P.; Willis, C. L.; Aggarwal, V. K. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 12444.

12) Shirokawa, S.; Kamiyama, M.; Nakamura, T.; Okada, M.; Nakazaki, A.; Hosokawa, S.; Kobayashi, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 13604.

 
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