天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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シアリダーゼの機能解析を志向した3位修飾型シアル酸誘導体の合成と活性評価
深澤 亮平井 剛加藤 麻理依大沼 可奈越野 広雪袖岡 幹子
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p. Oral12-

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抄録

【背景・目的】

シアリダーゼ(ノイラミニダーゼ)は、複合糖質の非還元末端からシアル酸を除去する酵素である。ウイルスやバクテリアのシアリダーゼは感染・増殖に深く関与していることから、これらに対する阻害剤が多数開発されてきた。そのほとんどは、加水分解の遷移状態構造を模倣したDANA(1、Figure 1)を起点として開発されており1)、Zanamivir(リレンザ)1a)やLaninamivir(イナビル)1b)などが代表例である。

しかしながら、阻害剤だけでは生物現象とシアリダーゼ機能を分子レベルで議論することは困難である。シアル酸は、糖タンパク質、糖脂質(ガングリオシド)の両方に存在し、またその構造はガラクトースとの連結様式だけで2,6-と2,3-の2パターンが知られている。シアリダーゼの基質選択性が厳密ではないので、酵素-基質の組み合わせは複数の可能性を考える必要がある。我々は、“どのシアリダーゼがどのシアロ糖鎖からシアル酸を切断したか”を解析できれば、基質も含めたシアリダーゼの機能解明に繋がると考えた。そこで本研究では、これを実現できるSubstrate-Specific Metabolism Monitoring(SMM)プローブの開発を目標とした。

SMMプローブに求められる性質は、①興味対象のシアロ糖鎖と同様の構造を有し、②これがシアリダーゼによって基質として認識され、③分解される際にシアリダーゼと共有結合を形成する、ことである。似たようなプローブとして、3位にF原子を持つシアル酸単糖構造の2が挙げられる2)。2はシアリダーゼの基質となるものの、カチオン性中間体3がF原子の電子求引性により不安定化されるため、シアリダーゼと共有結合を形成した複合体4の寿命が長くなる。これを検出することで“どのシアリダーゼが活性を持っていたか”を解析できるactivity-based probeとして、利用できる可能性が示唆されている3)。しかしながら、2の基質としての反応性がF原子によって低下するため、XにはF原子などの脱離基が必須であり、糖質構造を導入すること、すなわち上記の①の性質を持たせることができなかった。そこで本研究では、SMMプローブとなりうる新しいシアロ糖鎖アナログを考案し、その合成法開発と機能解析に取り組んだ。

Figure 1. SMMプローブとシアリダーゼ阻害剤及び機能解析プローブ

【分子設計】

今回先に示した要件をすべて満たすシアリダーゼのSMMプローブとして、3位にメチレン基を導入したシアロ糖鎖誘導体5を設計した。5は、電子求引基を持たず、また3位sp2炭素によって遷移状態様のコンホメーションに歪むことが予想される。このことで、シアリダーゼに対する親和性と基質としての反応性を低下させず、むしろ向上させることができ、Rに糖鎖構造を導入可能と期待した。さらに5がシアリダーゼの基質になると6を生成する。6は活性化されたMichael受容体と見ることができ、近傍の求核性アミノ酸と反応して、シアリダーゼと共有結合を形成できると考えた。今回我々は、アルキル基やアリール基を有する単糖型の5a-b、および二糖型の5c-dの合成を目指した(Figure 2)。

Figure 2. SMM(Substrate-Specific Me

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© 2016 天然有機化合物討論会電子化委員会
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