天然有機化合物討論会講演要旨集
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カイトセファリンの構造活性相関によるサブタイプ選択的イオンチャネル型グルタミン酸受容体リガンドの開発
保野 陽子濱田 まこと吉田 侑矢川崎 昌紀島本 啓子茂里 康秋澤 俊史小西 元美大船 泰史品田 哲郎
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p. Oral13-

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カイトセファリンの構造活性相関によるサブタイプ選択的イオンチャネル型グルタミン酸受容体リガンドの開発

イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (iGluR)は,内因性リガンドであるグルタミン酸 (1)の結合を引き金として細胞外から細胞内へのイオン流入を調節する膜タンパク質である.哺乳動物の脳中枢神経における主要な興奮性情報伝達を担い,記憶や学習などの高次脳機能に関与していることが報告されている.1 iGluRは,リガンド [N-メチル-D-アスパラギン酸 (2), a-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸 (3), カイニン酸 (4)]との親和性の違いによって,NMDA型受容体(NMDAR),AMPA型受容体 (AMPAR),およびカイニン酸型受容体 (KAR)の3つのサブタイプに大別されている (図1).各iGluRサブタイプがそれぞれどのような機能と役割を担っているのかに関心が集まる中,各受容体を選択的に活性あるいは不活性化するリガンドの開発に大きな期待が寄せられている.

近年,パーキンソン病,アルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患とiGluRの機能失調との関連が示唆されている.iGluRは,神経変性疾患治療薬開発の標的受容体として注目を集め,これまでにNMDARアンタゴニストであるメマンチンがアルツハイマー病の治療薬として開発されている.2瀬戸・新家らは,KARアゴニストであるカイニン酸の神経毒性から神経を保護する天然物をスクリーニングし,放線菌Eupenicillium shearii PF1191の培地からカイトセファリン (KCP: 5)を見いだした.3 2010年になり,Milediらは電気生理学的手法によりKCPの作用特性を調べ,NMDAR選択的アンタゴニストであることを明らかにした.4

図1 グルタミン酸受容体サブタイプとリガンドの構造

今回,我々はKCPの優れた生物活性と特異な構造に着目し,KCPの構造改変による優れたサブタイプ選択的リガンドとiGluR標識プローブの開発を行った.具体的には,KCPおよびアナログの効率的合成法の開発,ラット脳膜画分より調製したiGluRサブタイプに対する結合活性評価,KCPとiGluR結合ドメイン複合体の構造解析,および構造活性相関研究による活性発現部位の特定を実施した.一連の研究から新規NMDAR選択的リガンドを創製できたので,その詳細について報告する.

【カイトセファリンの結合活性評価】

 KCP (5)は天然から得ることが困難となっている.そこで,アナログ合成にも適用可能なフラグメント6〜8のカップリングによる5の効率的合成法を開発した.5これより約300 mgのKCPと,後述する種々のアナログを合成できた (図2).はじめに,ラット脳膜画分より調製したiGluRを用いて5のサブタイプ選択性と結合活性を評価した.比較として内因性リガンドであるグルタミン酸の結合活性を評価した.グルタミン酸 (1)は,すべてのサブタイプに対して非特異的に結合することに対して,KCPはNMDARに対して選択的かつ強力に結合した (NMDAR: Ki = 7.8 nM, AMPAR: Ki = 590 nM, KAR: Ki = 14000 nM).6 KCPのNMDARに対する優れた結合活性は,これまで報告されているNMDARリガンドの中で最も強力なクラスに位置するものである.

図2 KCP (5)およびグルタミン酸 (1)のiGluRサブタイプ結合活性. [

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イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (iGluR)は,内因性リガンドであるグルタミン酸 (1)の結合を引き金として細胞外から細胞内へのイオン流入を調節する膜タンパク質である.哺乳動物の脳中枢神経における主要な興奮性情報伝達を担い,記憶や学習などの高次脳機能に関与していることが報告されている.1 iGluRは,リガンド [N-メチル-D-アスパラギン酸 (2), a-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸 (3), カイニン酸 (4)]との親和性の違いによって,NMDA型受容体(NMDAR),AMPA型受容体 (AMPAR),およびカイニン酸型受容体 (KAR)の3つのサブタイプに大別されている (図1).各iGluRサブタイプがそれぞれどのような機能と役割を担っているのかに関心が集まる中,各受容体を選択的に活性あるいは不活性化するリガンドの開発に大きな期待が寄せられている.

近年,パーキンソン病,アルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患とiGluRの機能失調との関連が示唆されている.iGluRは,神経変性疾患治療薬開発の標的受容体として注目を集め,これまでにNMDARアンタゴニストであるメマンチンがアルツハイマー病の治療薬として開発されている.2瀬戸・新家らは,KARアゴニストであるカイニン酸の神経毒性から神経を保護する天然物をスクリーニングし,放線菌Eupenicillium shearii PF1191の培地からカイトセファリン (KCP: 5)を見いだした.3 2010年になり,Milediらは電気生理学的手法によりKCPの作用特性を調べ,NMDAR選択的アンタゴニストであることを明らかにした.4

図1 グルタミン酸受容体サブタイプとリガンドの構造

今回,我々はKCPの優れた生物活性と特異な構造に着目し,KCPの構造改変による優れたサブタイプ選択的リガンドとiGluR標識プローブの開発を行った.具体的には,KCPおよびアナログの効率的合成法の開発,ラット脳膜画分より調製したiGluRサブタイプに対する結合活性評価,KCPとiGluR結合ドメイン複合体の構造解析,および構造活性相関研究による活性発現部位の特定を実施した.一連の研究から新規NMDAR選択的リガンドを創製できたので,その詳細について報告する.

【カイトセファリンの結合活性評価】

 KCP (5)は天然から得ることが困難となっている.そこで,アナログ合成にも適用可能なフラグメント68のカップリングによる5の効率的合成法を開発した.5これより約300 mgのKCPと,後述する種々のアナログを合成できた (図2).はじめに,ラット脳膜画分より調製したiGluRを用いて5のサブタイプ選択性と結合活性を評価した.比較として内因性リガンドであるグルタミン酸の結合活性を評価した.グルタミン酸 (1)は,すべてのサブタイプに対して非特異的に結合することに対して,KCPはNMDARに対して選択的かつ強力に結合した (NMDAR: Ki = 7.8 nM, AMPAR: Ki = 590 nM, KAR: Ki = 14000 nM).6 KCPのNMDARに対する優れた結合活性は,これまで報告されているNMDARリガンドの中で最も強力なクラスに位置するものである.

図2 KCP (5)およびグルタミン酸 (1)のiGluRサブタイプ結合活性. [ ]内の数値はKi

【KCP・iGluR複合体の解析】

 KCPの特異なiGluRサブタイプ選択性の発現を分子構造レベルで理解するために,AMPARサブタイプの1つであるGluA2のリガンド結合部位 (LBD)とKCPの共結晶を作成し,その結晶構造解析を試みた (図3A).7その結果,KCP右側側鎖であるアミノジカルボン酸部位がグルタミン酸結合部位に結合していることが示された.あわせて,左側側鎖の9位カルボキシル基が受容体と相互作用していることが確認できた.AMPARとNMDARが高い相同性を示すことを踏まえて,GluN2A (NMDARサブタイプの一つ)とのドッキングモデル解析を行った (図3B).その結果,GluN2AはKCPの芳香環部位と多点で相互作用していることが示された.これら特徴的な相

図3 A: KCPとGluA2 (AMPARサブタイプ)との共結晶構造 (PDB code: 4X5G)7, B: GluN2A (NMDARサブタイプ)とのドッキングモデル

互作用がKCPの優れたNMDAR選択性の発現に寄与しているものと考察している.

iGluRに対してグルタミン酸のようなアゴニストが結合すると,LBDの口が閉じた構造となる (図4A).8これに対して,アンタゴニストの結合は口が開いた構造を安定化する (図4B).KCP・GluA2 LBD複合体の構造は開口型であり,7位の側鎖は開口空間の間を埋めるように配置されている (図4C).KCPがアンタゴニストとして機能することを支持するデータであると考察している.

図4 GluA2 LBD・リガンド複合体の構造.A: LBD・アゴニスト複合体,

B: LBD・アンタゴニスト複合体,C: LBD・KCP複合体

【構造活性相関研究】

 活性発現に関与する官能基をより詳細に特定するために構造活性相関研究を行った.先に述べた効率的合成法に従って種々のアナログを調整し,それらのNMDARに対する結合活性を評価した (図5A).得られた結果は次のようにまとめられる.6,9

・7位側鎖あるいは9位の置換基を除去したアナログ911の結合活性は著しく低下した.

・塩素原子を水素やヨウ素に置換したアナログ12および13はKCPと同程度の結合活性を維持した.

図5 A: KCPおよびアナログのNMDARに対する結合活性,B: KCP・GluA2 LBD拡大図,C: アナログ16, 17の構造と結合活性. [ ]内の数値はKi

・フェノール性水酸基を除去したアナログ14の結合活性はKCPの約1/6,アナログ13の約1/2にとどまった.

・芳香環とアミド基の間にメチレン鎖を導入したアナログ15の結合活性は著しく低下した.

以上の結果から,KCPの左側側鎖が結合活性の向上に寄与していること,フェノール性水酸基がNMDARと相互作用していることが示唆された.また1415の比較からアミド結合に直結した芳香環が活性発現の鍵となっていることを明らかにした.これら構造活性相関から得られた結果は,複合体の解析結果とドッキングモデルから導いた受容体・リガンド相互作用モデルと高い相関を示している.これより,複合体解析データがアナログ設計の有効な指針となり得ることが裏付けられた.

 複合体構造中において芳香環上の官能基の位置を詳細に解析したところ,2つの塩素原子の1つが受容体の溶媒側に配向していることが示された (図5B).これより塩素原子がリンカーや蛍光基導入の足がかりになるとの作業仮説を導いた.仮説を検証するために,まず,プロピル基を有するアナログ16を合成しNMDARに対する結合活性を調べたところ,優れた結合活性 (Ki = 17 nM)を示すことが分かった.次いで,ダンシル基を有するアナログ17を合成し,活性を評価したところ優れた結合活性を保持していることが確認できた (Ki = 54 nM).これより,NMDARに対してナノモルレベルで結合する強力な蛍光リガンドが開発できた.

【NMDAR選択的リガンド,(7S)-KCP】

 構造活性相関研究を7位異性体に拡張したところ,(7S)-KCP (18)が優れたNMDAR選択性を示すことを見いだした.そのNMDARに対する結合活性は29 nMであった.一方で,AMPARに対する結合活性はKCPの1/83にまで低下した (図6).6

図6 KCPと(7S)-KCP (18)のiGluR結合活性

KCP・GluA2複合体の解析データをもとに活性が低下した理由を考察した.KCPの7位が反転すると,(7S)-KCPの9位カルボキシル基がGluA2のY450に大きく近接する (図7).それによって生じる立体的反発が結合活性の低下を招いたと推定している.NMDARが (7S)-18を受容したことは興味深い結果である.その理由については現在解析中である.以上の結果から,天然物の受容体選択性を大きく上回る (7S)-KCPの開発に成功した.

図7 A: KCP・GluA2複合体, B: (7S)-KCP・GluA2結合モデル

【謝辞】

 本研究は新学術領域研究天然物ケミカルバイオロジー (課題番号:23102009)および笹川科学研究助成による支援を受けて行われた.

【参考文献】

1) (a) S. F. Traynelis, L. P. Wollmuth, C. J. McBain, F. S. Menniti, K. M. Vance, K. K. Ogden, K. B. Hansen, H. Yuan, S. J. Myers, R. Dingledine, Pharmacol. Rev. 2010, 62, 405; (b) J. N. C. Kew, J. A. Kemp, Psychopharmacology 2005, 179, 4; (c) R. Dingledine, K. Borges, D. Bowie, S. F. Traynelis, Pharmacol. Rev. 1999, 51, 7.

2) (a) S. Li, A. H. C. Wong, F. Liu, Front. Cell. Neurosci. 2014, 8, 125; (b) T. W. Lai, S. Zhang, Y. T. Wang, Prog. Neurobiol. 2014, 115, 157; (c) P. Paoletti, C. Bellone, Q. Zhou, Nat. Rev. Neurosci. 2013, 14, 383; (d) S. E. Lakhan, M. Caro, N. Hadzimichalis, Front. Psychiatry 2013, 4, 52; (e) D. T. Monaghan, D. E. Jane, Pharmacology of NMDA Receptors, in Biology of the NMDA Receptor, ed. by A. M. Van Dongen, CRC Press, 2009, chapter 12.

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6) Y. Yasuno, M. Hamada, M. Kawasaki, K. Shimamoto, Y. Shigeri, T. Akizawa, M. Konishi, Y. Ohfune, T. Shinada, Org. Biomol. Chem. 2016, 14, 1206.

7) A. H. Ahmed, M. Hamada, T. Shinada, Y. Ohfune, L. Weerasinghe, P. P. Garner, R. E. Oswald, J. Biol. Chem. 2012, 287, 41007.

8) A. Jespersen, N. Tajima, G. Fernandez-Cuervo, E. C. Garnier-Amblard, H. Furukawa, Neuron 2014, 81, 366.

9) Y. Yasuno, M. Hamada, Y. Yoshida, K. Shimamoto, Y. Shigeri, T. Akizawa, M. Konishi, Y. Ohfune, T. Shinada, Bioorg. Med. Chem. Lett. 2016, in press.

 
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