天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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25‐ヒドロキシビタミンDによるSCAP-SREBPの分解メカニズムの解明
浅野 理沙渡邉 瑞貴長澤 和夫上杉 志成
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p. Oral14-

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25‐ヒドロキシビタミンDによるSCAP-SREBPの分解メカニズムの解明

 SREBP(Sterol Regulatory Element-binding Protein)は、脂質生合成の指令塔となる転写因子である。我々の研究室では、脂質代謝の生体内制御メカニズムを理解するために、SREBPの活性を変調する化合物の研究を行ってきた。その中で、SREBPの活性化を阻害する内因性分子として水酸化ビタミンDを同定した。今回は、水酸化ビタミンDによるSREBP阻害メカニズムの解明、及び脂質代謝疾患治療への応用を目指した誘導体展開について報告する。 

【背景・研究目的】

SREBPはSCAP(SREBP Cleavage-activating Protein)と安定な複合体を形成し、ER膜上に存在している。脂質やステロールレベルが低いときには、SREBPはSCAPの働きによってER膜からGolgiへと移行し、そこでプロテアーゼS1P、S2Pによる二度のプロセシングを受けて活性型となる。その後核内で転写因子として脂質やステロールの生合成に関与する遺伝子を活性化する。一方、生合成産物の一種であるコレステロールやオキシステロールは、直接SCAPやInsigなどのタンパク質に作用し、安定なSREBP-SCAP-Insig三者複合体形成を促し、SCAPのGolgiへの移行を抑制する。すなわちSREBPの活性化は、ステロール類によるネガティブフィードバック機構によって制御を受けている。

しかし、SREBPは生体内で複雑な制御を受けているため、その全貌は明らかではなく、さまざまな疾患への関与も知られている。例えば、ガン細胞や脂質疾患などにおいては、このネガティブフィードバックによるSREBP制御機構は正常に機能していないと考えられている。

このような背景から、我々はSREBPの複雑な生体内制御機構を理解・制御するために、新規内因性SREBP阻害物質を探索した。269種の脂質化合物からなるライブラリーを用いてスクリーニングを行った結果、水酸化ビタミンDを見出した(図2)。          

今回の報告では、水酸化ビタミンDによるSREBP阻害メカニズムの解明、及び脂質代謝疾患治療への応用を目指した誘導体展開について議論する。 

      

【結果・考察】

① メカニズム解析

第56回本討論会において、水酸化ビタミンDがSCAPのユビキチン化による分解を誘発している可能性について報告した。SCAPはSREBPの重要な結合パートナーであり、SCAPの分解がSREBPの不安定化及び分解を誘発し、SREBPの活性化を制御していると考えられる。これは既知の阻害分子であるステロール類とは異なる新規のSREBP制御メカニズムとして非常に興味深いものであるが、なぜ水酸化ビタミンDがSCAPのユビキチン化による分解を引き起こすのかは不明であった。

そこでユビキチン化の詳細を明らかにするために、プロテアソーム阻害剤MG132処理を行いWestern Blottingで検出したところ、SCAPの全長のバンドが回復するという予想に反し、SCAPの全長よりも低分子量のバンドの蓄積が見られたことから、SCAPの切断体の存在が示唆された。更にこのSCAPの切断及び分解は、プロテアーゼ阻害剤処理により抑えられることが分かった。(図3) 

これらの結果は、水酸化ビタミンD存在下におけるSCAPのユビキチン化に先立って、プロテアーゼによるSCAPのプロセシン

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 SREBP(Sterol Regulatory Element-binding Protein)は、脂質生合成の指令塔となる転写因子である。我々の研究室では、脂質代謝の生体内制御メカニズムを理解するために、SREBPの活性を変調する化合物の研究を行ってきた。その中で、SREBPの活性化を阻害する内因性分子として水酸化ビタミンDを同定した。今回は、水酸化ビタミンDによるSREBP阻害メカニズムの解明、及び脂質代謝疾患治療への応用を目指した誘導体展開について報告する。 

【背景・研究目的】

SREBPはSCAP(SREBP Cleavage-activating Protein)と安定な複合体を形成し、ER膜上に存在している。脂質やステロールレベルが低いときには、SREBPはSCAPの働きによってER膜からGolgiへと移行し、そこでプロテアーゼS1P、S2Pによる二度のプロセシングを受けて活性型となる。その後核内で転写因子として脂質やステロールの生合成に関与する遺伝子を活性化する。一方、生合成産物の一種であるコレステロールやオキシステロールは、直接SCAPやInsigなどのタンパク質に作用し、安定なSREBP-SCAP-Insig三者複合体形成を促し、SCAPのGolgiへの移行を抑制する。すなわちSREBPの活性化は、ステロール類によるネガティブフィードバック機構によって制御を受けている。

しかし、SREBPは生体内で複雑な制御を受けているため、その全貌は明らかではなく、さまざまな疾患への関与も知られている。例えば、ガン細胞や脂質疾患などにおいては、このネガティブフィードバックによるSREBP制御機構は正常に機能していないと考えられている。

このような背景から、我々はSREBPの複雑な生体内制御機構を理解・制御するために、新規内因性SREBP阻害物質を探索した。269種の脂質化合物からなるライブラリーを用いてスクリーニングを行った結果、水酸化ビタミンDを見出した(図2)。          

今回の報告では、水酸化ビタミンDによるSREBP阻害メカニズムの解明、及び脂質代謝疾患治療への応用を目指した誘導体展開について議論する。 

      

【結果・考察】

① メカニズム解析

第56回本討論会において、水酸化ビタミンDがSCAPのユビキチン化による分解を誘発している可能性について報告した。SCAPはSREBPの重要な結合パートナーであり、SCAPの分解がSREBPの不安定化及び分解を誘発し、SREBPの活性化を制御していると考えられる。これは既知の阻害分子であるステロール類とは異なる新規のSREBP制御メカニズムとして非常に興味深いものであるが、なぜ水酸化ビタミンDがSCAPのユビキチン化による分解を引き起こすのかは不明であった。

そこでユビキチン化の詳細を明らかにするために、プロテアソーム阻害剤MG132処理を行いWestern Blottingで検出したところ、SCAPの全長のバンドが回復するという予想に反し、SCAPの全長よりも低分子量のバンドの蓄積が見られたことから、SCAPの切断体の存在が示唆された。更にこのSCAPの切断及び分解は、プロテアーゼ阻害剤処理により抑えられることが分かった。(図3) 

これらの結果は、水酸化ビタミンD存在下におけるSCAPのユビキチン化に先立って、プロテアーゼによるSCAPのプロセシングが起きていることを意味している。このプロセシングが、その後のSCAPのユビキチン化及び分解の引き金になっていると考えられる。        

SCAPのプロセシング部位を検討するために、N末またはC末FLAG-Tag付SCAPを過剰発現させ、水酸化ビタミンDへの応答をみた。その結果、N末FLAG-Tag付SCAPの場合においてのみ、全長及び切断体のいずれのバンドも抗FLAG抗体で検出できたことから(図4)、SREBPとの相互作用に重要なSCAPのC末端側がプロセシングを受けていることが分かった。

以上の知見から我々は次のような仮説を立てた(図5)。

『ビタミンDの作用により、SREBPの結合パートナーであるSCAPがプロテアーゼによるプロセシングを受けることで、SCAP-SREBP複合体が壊れる。その後SCAPはユビキチン・プロテアソーム系による分解を受け、それに伴い結合パートナーを失って不安定化したSREBPも分解する。これによりSREBPの活性化が抑えられている。』

現在SCAPの正確なプロセシング部位を検討中であり、C末端側の30アミノ酸残基まで配列を絞り込んでいる。また、併せてプロセシングを担っているプロテアーゼの同定も進めており、既にセリンプロテアーゼの一種であることが分かっている。

今後ビタミンDによるSREBP阻害メカニズムの全貌を明らかにすることで、これまで疫学的なデータしか報告のなかった脂質代謝疾患とビタミンD代謝物との関わりを、分子レベルで解明することにつながると期待できる。

② 誘導体展開

 今回見つけた三種類の水酸化ビタミンDの中で特に25-Hydroxyvtiamin D   (25OHD)が最も高いSREBP阻害活性を示す。この25OHDは、腎臓でCyp27b1による代謝を受けて 1α,25-dihydroxyvitamin D (1,25(OH)2D)に変換されることが知られている。1,25(OH)2DはVitamin D receptor(VDR)の強力なアゴニストであるため、25OHD自体をSREBPの活性阻害目的で用いた場合、VDRを介した作用が過剰に亢進してしまう恐れがある。我々は既に、水酸化ビタミンDによるSREBPの活性阻害メカニズムは、VDRによる作用と独立していることを、VDRのノックダウン実験によって確かめている(図6)。そこで、今後の治療薬展開を視野に入れ、VDR活性化能を持たない、より選択性の高い誘導体探索を行った(図7)。

現在までに約40個の誘導体を合成し、レポータージーンアッセイを用いてSREBPの下流遺伝子の抑制効率を測定することで、強いSREBP抑制活性をもつ化合物を複数見出した。続いてWestern Blottingで検出したSREBP及びSCAPの分解の程度を指標に有望な化合物を数種類にまで絞り込んだ。更にレポータージーンアッセイによるVDRの下流の遺伝子の活性測定、qPCRによるVDRのターゲット遺伝子の活性測定を行うことにより、長時間処理でもVDRを殆ど活性化させずにSREBPの活性化を高い効率で抑える有望な二つの化合物が同定された。

今回見つけた新規人工ビタミンDの骨格をもとに、より選択性の高いSREBP阻害分子を合成することは、脂質代謝疾患の解明、及び治療に対する新たなアプローチを見出すことにつながると期待できる。

 
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