天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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TRAIL耐性克服作用を有する5’-I Fuligocandin Bの標的タンパク質同定と作用機序解析
荒井 緑田口 翔太小松﨑 一裕内山 健人増田 彩花佐藤 守荷堂 清香石橋 正己
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p. Oral15-

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TRAIL耐性克服作用を有する5’-I Fuligocandin Bの標的タンパク質同定と作用機序解析

【序論】

  Fuligocandin A (1), B (2)は、2004年に変形菌Fuligo candida(和名シロススホコリ)より当研究室にて単離・構造決定された、新規天然物である(Figure 1)1。天然物探索材料として興味深い変形菌は、系統分類学的には最も下等な真核生物の一つとして位置づけられ、胞子、アメーバ体、変形体、子実体など様々な形態をとる独特の生活環を有している。Fuligo candida野外子実体より単離されたこれら天然物は、アントラニル酸とプロリンが縮合した母骨格とa,b-不飽和カルボニル部を有し、2はさらにインドール骨格を有する。当研究室において1および2の全合成を行い、未決定であった11a位の立体をSと決定した2。Fuligocandin B (2)は、がん細胞をアポトーシスに導くデスリガンド、tumor necrosis factor (TNF)-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL)に耐性を有するがん細胞に対し、TRAILに対して感受性を上げ、アポトーシスに導く作用を有している3。腫瘍壊死因子(TNF)はサイトカインであり、TRAILはTNFファミリーの一つである。TRAIL経路では、まずデスリガンドであるTRAILがその受容体であるデスレセプター(DRs)に結合することで開始され、アダプタータンパク質Fas-associated protein with death domain (FADD)の介在のもと、pro-caspase 8との複合体(death-inducing signaling complex; DISC)を生成したのち、pro-caspase 8の自己消化の後、カスケードが活性化され、アポトーシスを導く(Figure 2)。正常細胞ではTRAILと結合するがシグナルを伝えないおとり受容体(decoy receptor)が多く発現しているため、TRAILの正常細胞に対する影響は低い。従って、TRAIL経路はがん細胞を効率的にアポトーシスに導くがん治療の標的として注目を浴びているシグナル経路である。しかしながら、白血病細胞、乳がんなど多くのがん細胞でTRAILに対する感受性が低下していることが問題となっている。このため、TRAILへの感受性を上げる(すなわちTRAIL耐性克服作用を有する)化合物の発見は大変重要となっている。我々は2が成人T細胞白血病細胞(adult T cell leukemia; KOB)に加え、ヒト胃がん細胞(human gastric adenocarcinoma; AGS)にも顕著なTRAIL耐性克服作用を示すことを見いだしていたが、そのメカニズムは不明であった。今回、強い活性を有する誘導体5’-I Fuligocandin B (9)のAGS細胞における標的タンパク質を同定し、そのメカニズム解明の検討を行った。

【誘導体合成と活性評価】

 Fuligocandinsの合成は、次のように行った(Scheme 1)。アントラニル酸誘導体とL-プロリンの縮合により化合物5に導いた後、分子内でのアミド化により三環性化合物6とした後、プロピニルマグネシウムブロミドを用いて化合物7とした。以前は1,2-ジブロモプロパンとLDAから生じさせたプロピニルリチウムを反応に用いていたため、この段階で光学純度の低下が問題となっていたが、本法により解決した。化合物7を用いてMeyer-Schuster転位反応により、99% eeのFuligocandin A (1)を合成した。その立体はNOEにてZ配置であると確認した。さらに、インドールアルデヒドとのアルドール縮合により、99% eeのFuligocandin B (2)を合成した。また、インドールアルデヒドを種々用いることにより、数種のFuligocandin B誘導体を合成した。誘導体のTRAIL耐性克服作

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【序論】

  Fuligocandin A (1), B (2)は、2004年に変形菌Fuligo candida(和名シロススホコリ)より当研究室にて単離・構造決定された、新規天然物である(Figure 1)1。天然物探索材料として興味深い変形菌は、系統分類学的には最も下等な真核生物の一つとして位置づけられ、胞子、アメーバ体、変形体、子実体など様々な形態をとる独特の生活環を有している。Fuligo candida野外子実体より単離されたこれら天然物は、アントラニル酸とプロリンが縮合した母骨格とa,b-不飽和カルボニル部を有し、2はさらにインドール骨格を有する。当研究室において1および2の全合成を行い、未決定であった11a位の立体をSと決定した2。Fuligocandin B (2)は、がん細胞をアポトーシスに導くデスリガンド、tumor necrosis factor (TNF)-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL)に耐性を有するがん細胞に対し、TRAILに対して感受性を上げ、アポトーシスに導く作用を有している3。腫瘍壊死因子(TNF)はサイトカインであり、TRAILはTNFファミリーの一つである。TRAIL経路では、まずデスリガンドであるTRAILがその受容体であるデスレセプター(DRs)に結合することで開始され、アダプタータンパク質Fas-associated protein with death domain (FADD)の介在のもと、pro-caspase 8との複合体(death-inducing signaling complex; DISC)を生成したのち、pro-caspase 8の自己消化の後、カスケードが活性化され、アポトーシスを導く(Figure 2)。正常細胞ではTRAILと結合するがシグナルを伝えないおとり受容体(decoy receptor)が多く発現しているため、TRAILの正常細胞に対する影響は低い。従って、TRAIL経路はがん細胞を効率的にアポトーシスに導くがん治療の標的として注目を浴びているシグナル経路である。しかしながら、白血病細胞、乳がんなど多くのがん細胞でTRAILに対する感受性が低下していることが問題となっている。このため、TRAILへの感受性を上げる(すなわちTRAIL耐性克服作用を有する)化合物の発見は大変重要となっている。我々は2が成人T細胞白血病細胞(adult T cell leukemia; KOB)に加え、ヒト胃がん細胞(human gastric adenocarcinoma; AGS)にも顕著なTRAIL耐性克服作用を示すことを見いだしていたが、そのメカニズムは不明であった。今回、強い活性を有する誘導体5’-I Fuligocandin B (9)のAGS細胞における標的タンパク質を同定し、そのメカニズム解明の検討を行った。

【誘導体合成と活性評価】

 Fuligocandinsの合成は、次のように行った(Scheme 1)。アントラニル酸誘導体とL-プロリンの縮合により化合物5に導いた後、分子内でのアミド化により三環性化合物6とした後、プロピニルマグネシウムブロミドを用いて化合物7とした。以前は1,2-ジブロモプロパンとLDAから生じさせたプロピニルリチウムを反応に用いていたため、この段階で光学純度の低下が問題となっていたが、本法により解決した。化合物7を用いてMeyer-Schuster転位反応により、99% eeのFuligocandin A (1)を合成した。その立体はNOEにてZ配置であると確認した。さらに、インドールアルデヒドとのアルドール縮合により、99% eeのFuligocandin B (2)を合成した。また、インドールアルデヒドを種々用いることにより、数種のFuligocandin B誘導体を合成した。誘導体のTRAIL耐性克服作用は、TRAILとの併用無し、有り(TRAIL 100 ng/mL)でのAGS細胞の生存率の差で判断した。合成した誘導体の中で最も高いTRAIL耐性克服作用を示した5’-I Fuligocandin B (9)を選択し(TRAILのみに比べ10 mMの化合物併用時で細胞生存率が44%減少)、AGS細胞での標的タンパク質を決定することにした。

【5’-I Fuligocandin Bプローブ14の合成】

 インドール部分が活性に大きく関係することがわかったことと、合成のしやすさを考慮し、7位からリンカーを延ばしてビオチン部分を結合させたプローブを合成することにした。しかしながら、7位付近の嵩高さは活性を減弱させることがわかっていたため、用いるリンカーは極力嵩高さを抑えることにした。まず、プローブ13をデザイン、合成を行ない、TRAIL耐性克服作用も維持していることを確認した(Figure 3)。アビジンビーズとプローブを結合させ、AGS細胞のライセートと混合し、ネガティブコントロールとしてFuligocandin A (1)のビオチンプローブと比較したが、特異的に結合するタンパク質は得られなかった。そこで、標的タンパク質と共有結合を形成することのできる光官能基としてアリールジアジリンの導入を考え、分岐点としてL-リジンを用いたプローブ14をデザインした。ネガティブコントロールとしてFuligocandin A (1) のビオチンプローブ15をデザインした。プローブはFuligocandin B部分、 ビオチン、L-リジンから順次合成した(Scheme 2)。

【5’-I Fuligocandin B (9)の標的同定と推定作用機序】

 プローブ1415をAGS細胞に作用させ、UV照射を行い、細胞をライセートにした後にアビジンビーズにてプローブに結合したタンパク質を拾い、プローブ14のみに結合するタンパク質を得た(Figure 4A)。LC/MS/MSを用いて解析したところ、標的のタンパク質はAAA+ (ATPases associated with diverse cellular activities) ATPaseの一つであるValosin-containing protein (VCP/p97)であった。また、VCP抗体によるウェスタンブロットにより、本タンパク質がVCPであることを確認した(Figure 4B)。そこでAGS細胞においてVCPをノックダウンしてみると、AGS細胞のTRAIL感受性の上昇が認められた。このことから、VCPとがん細胞におけるTRAIL感受性の関連性が初めて明らかになった。VCPはタンパク質恒常性を保つなどの重要な働きを有する6量体のタンパク質であるが、主な役割にユビキチン化されたタンパク質をプロテアソームに運び分解を促進する役割がある4。AGS細胞を5’-I Fuligocandin B (9)で処理すると、ユビキチン化されたタンパク質の蓄積がおこり、9がVCPに結合してその作用を阻害していることが示唆された。化合物9によるVCPの阻害とユビキチン化タンパク質の蓄積による小胞体(endoplasmic reticulum; ER)ストレスが予想されたため、次にERストレスによって上昇し、デスレセプターDR5の転写も制御する転写因子CHOPの発現を調べた(Figure 5)。その結果、化合物9の処理により、CHOPとDR5の発現が濃度依存的に上昇することが明らかとなった。すなわち、Figure 6に示すように、5’-I Fuligocandin B (9)はVCPを阻害してERストレスを発生させ、DR5の量を増加させることにより、TRAILに対する感受性を上げるという新規の作用機序により、AGS細胞の細胞死を誘導していることが示唆された5

【謝辞】

 本研究を行うにあたり、Fuligocandin B(2)の合成にて重要なご助言を賜りました砂塚敏明先生(北里大学北里生命科学研究所)、プルダウンアッセイの手法について重要なご助言を賜りました木越英夫先生、北将樹先生(筑波大学大学院数理物質科学研究科)に御礼申し上げます。

【参考文献】

1) S. Nakatani, Y. Yamamoto, M. Hayashi, K. Komiyama, M. Ishibashi, Chem. Pharm. Bull. 2004, 52, 368-370.

2) M. A. Arai, J. Seto, F. Ahmed, K. Uchiyama, M. Ishibashi, Synlett 2010, 16, 2498–2502.

3) H. Hasegawa, Y. Yamada, K. Komiyama, M. Hayashi, M. Ishibashi, T. Sunazuka, T. Izuhara, K. Sugahara, K. Tsuruda, M. Masuda, N. Takasu, K. Tsukasaki, M. Tomonaga, S. Kamihira, Blood 2007, 110, 1664-1674.

4) H. Meyer, M. Bug, S. Bremer, Nat. Cell Biol. 2012, 14, 117-123.

5)M. A. Arai, S. Taguchi, K. Komatsuzaki, K. Uchiyama, A. Masuda, M. Satoh, S. Kado, M. Ishibashi submitted.

 
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