天然有機化合物討論会講演要旨集
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海洋シアノバクテリア由来の心筋分化誘導活性物質
福島 弘之前島 寛魚崎 英毅松尾 武彦吉田 将人恩田 勇一鈴木 淳藤野 雄太増田 裕一八田 和久夏目 徹神平 梨絵坂本 匠新井 大祐堀越 直樹
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p. Oral16-

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海洋シアノバクテリア由来の心筋分化誘導活性物質

 心筋梗塞などの心疾患に対する治療法として,ES 細胞やiPS 細胞を用いる再生治療に注目が集まっている。心筋の再生治療法には,①人工的に分化誘導した心筋細胞を直接移植する細胞移植治療法と,②生体内に存在する前駆細胞に直接働きかけて心筋へと分化誘導する治療法のふたつのアプローチが検討可能である。①については細胞の誘導法,純化法,移植法など多くの研究成果が報告されている一方で,②のような治療についての研究例はほとんどない。これらいずれの治療法についても,その実現のためには,強い心筋分化誘導活性を有する薬剤の開発が望まれる。また,異種混入を防ぐ観点からは,分化誘導に用いるOP9などのフィーダー細胞がなくても分化誘導活性を発揮する薬剤の開発がより強く望まれる。

 そこで,既存の薬剤とは作用プロファイルの異なる,新たな心筋分化誘導活性剤の開発を目的として,海洋生物由来の心筋分化誘導活性物質の探索を行った。その結果,鹿児島県加計呂麻島産の海洋シアノバクテリアMoorea bouilloniiから,非常に強力な心筋分化誘導活性を有する活性本体としてアプラトキシンC(ApxC;1)を見出した。本化合物1は心筋分化誘導活性が知られるサイクロスポリンA(CsA)やIWP4,XAV939,IWR1などのWnt阻害剤と比較して,約1000分の1の濃度において強い分化誘導活性を示すとともに,フィーダー細胞が存在しない条件下でも強い分化誘導活性を示した。

 本研究では,合成Apx類縁体ライブラリーを用いて構造-活性相関解析を行うとともに,作用メカニズムの解析を行った。また,ラット亜急性期心筋梗塞モデルへの治療効果の検討について行ったので,これらの経緯について報告する。

1.スクリーニング

 独自に開発したマウスES/iPS細胞を用いたin vitro心筋分化誘導法1を用いたアッセイによって(図2),海洋生物エキスサンプル800検体を対象に,心筋分化誘導活性スクリーニングを行った。すなわち,心筋特異的遺伝子であるαMHCのプロモーター制御下でGFPを発現するES細胞株(EMG7)を用いて,心血管系前駆細胞であるFlk-1陽性中胚葉細胞に導き,セルソーターによって純化したFlk-1陽性中胚葉細胞に対して,エキスサンプル存在下で6日間フィーダー細胞(OP9細胞)との共培養を行うと,GFPを発現した心筋細胞が分化誘導されてくる。ES細胞由来心筋細胞のGFPの蛍光強度,および心筋特異的収縮タンパク質であるcTnT陽性細胞の占有領域を測定することにより,各サンプルの心筋分化誘導活性を測定した。この結果,鹿児島県加計呂麻島産のシアノバクテリアから調製したエキス成分の脂溶性画分に強い心筋分化促進活性を見出した。

図2 心筋分化誘導活性試験

2.単離,同定

 活性が認められたシアノバクテリアサンプル(128 g,湿重量)をメタノールで抽出し,合一した抽出液を濃縮後,水とクロロホルムで

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 心筋梗塞などの心疾患に対する治療法として,ES 細胞やiPS 細胞を用いる再生治療に注目が集まっている。心筋の再生治療法には,①人工的に分化誘導した心筋細胞を直接移植する細胞移植治療法と,②生体内に存在する前駆細胞に直接働きかけて心筋へと分化誘導する治療法のふたつのアプローチが検討可能である。①については細胞の誘導法,純化法,移植法など多くの研究成果が報告されている一方で,②のような治療についての研究例はほとんどない。これらいずれの治療法についても,その実現のためには,強い心筋分化誘導活性を有する薬剤の開発が望まれる。また,異種混入を防ぐ観点からは,分化誘導に用いるOP9などのフィーダー細胞がなくても分化誘導活性を発揮する薬剤の開発がより強く望まれる。

 そこで,既存の薬剤とは作用プロファイルの異なる,新たな心筋分化誘導活性剤の開発を目的として,海洋生物由来の心筋分化誘導活性物質の探索を行った。その結果,鹿児島県加計呂麻島産の海洋シアノバクテリアMoorea bouilloniiから,非常に強力な心筋分化誘導活性を有する活性本体としてアプラトキシンC(ApxC;1)を見出した。本化合物1は心筋分化誘導活性が知られるサイクロスポリンA(CsA)やIWP4,XAV939,IWR1などのWnt阻害剤と比較して,約1000分の1の濃度において強い分化誘導活性を示すとともに,フィーダー細胞が存在しない条件下でも強い分化誘導活性を示した。

 本研究では,合成Apx類縁体ライブラリーを用いて構造-活性相関解析を行うとともに,作用メカニズムの解析を行った。また,ラット亜急性期心筋梗塞モデルへの治療効果の検討について行ったので,これらの経緯について報告する。

1.スクリーニング

 独自に開発したマウスES/iPS細胞を用いたin vitro心筋分化誘導法1を用いたアッセイによって(図2),海洋生物エキスサンプル800検体を対象に,心筋分化誘導活性スクリーニングを行った。すなわち,心筋特異的遺伝子であるαMHCのプロモーター制御下でGFPを発現するES細胞株(EMG7)を用いて,心血管系前駆細胞であるFlk-1陽性中胚葉細胞に導き,セルソーターによって純化したFlk-1陽性中胚葉細胞に対して,エキスサンプル存在下で6日間フィーダー細胞(OP9細胞)との共培養を行うと,GFPを発現した心筋細胞が分化誘導されてくる。ES細胞由来心筋細胞のGFPの蛍光強度,および心筋特異的収縮タンパク質であるcTnT陽性細胞の占有領域を測定することにより,各サンプルの心筋分化誘導活性を測定した。この結果,鹿児島県加計呂麻島産のシアノバクテリアから調製したエキス成分の脂溶性画分に強い心筋分化促進活性を見出した。

図2 心筋分化誘導活性試験

2.単離,同定

 活性が認められたシアノバクテリアサンプル(128 g,湿重量)をメタノールで抽出し,合一した抽出液を濃縮後,水とクロロホルムで二層分配して水溶性および脂溶性画分とし,それぞれをODSフラッシュクロマトグラフィーによって分画した。心筋分化誘導活性を示した画分を逆相HPLCによって分画し,得られた活性画分を合一して再度逆相HPLCによる精製を行い,活性画分1.2 mgを得た(収率 9.4 x 10-4%,湿重量換算)。

 得られた活性画分について,MSおよび各種NMRスペクトルを解析し,文献値と比較した結果,本画分に含まれる活性本体はLueschら2によって海洋シアノバクテリアから報告されたApxC(1)であると同定された。

 得られたApxCは,2.5-3.5 nMという低濃度で分化率約70%の心筋分化誘導活性を示した。この活性は,現在分化誘導試薬として使用されているサイクロスポリンA(CsA)の1000倍以上という強いものであった(CsAは2500 nMで約20%の分化誘導率3)。また,合成ApxAも同様に心筋分化誘導活性を有することがわかった。さらにApx類はフィーダー細胞(OP9細胞)なしでも,Flk-1陽性中胚葉細胞の高密度培養条件下で顕著な心筋分化誘導活性を示した。

図3 FACSを用いたApx C(1)の心筋分化誘導効率の解析

四角の枠内の細胞が分化した心筋細胞集団。

3.固相合成法による類縁体の合成と構造—活性相関

 つぎに,構造-活性相関を明らかにするとともに,より簡便に合成できるミメティクスの創製を目指し,Apx類縁体を合成した。我々はこれまでに液相法および固相法を活用したApxC (1),ApxA(2)(図1),およびそれらの類縁体の合成を報告している4。不安定なチアゾリン環の合成を最終段階に行うと収率が著しく悪くなるため,あらかじめチアゾリン環を含む合成ブロックPro–Dtrina(or Dtena)–moCysを調製してカップリング反応を行う必要があった。しかしながら,この合成ブロックは,加水分解を受けやすくα位のエピメリ化を誘発するチアゾリン環と,Michaelアクセプタになりうるα,β−不飽和アミドという不安定な部分構造を含むため,調製が容易ではなかった。そこで,これら2つの官能基をなくした代替構造として,AA1にβ—およびγ—アミノ酸,ならびにそのN-メチル体,さらにピペラジンカルボン酸を合成ブロックとして用いることにした(図4)。さらに,AA2~AA4に種々のアミノ酸,およびN-メチルアミノ酸を用いた類縁体を合成し,それら残基の活性発現における役割を調べた。報告しているApxAの合成に習い,図5に示す通り固相上で環化前駆体を合成し,固相から切り出した後,AA4–Pro間で液相法を用いたマクロラクタム化を行い,26種類のApxミメティクスを得た。

図5 固相合成法を活用したApxミメティクスの合成

 ApxC(1)およびApxAの類縁体,並びにApxミメティクスについて構造-活性相関を調べた。前述のとおりApxAが1と同等の活性を示すこと,Tyr(Me),MeAla,MeIleのアミノ酸側鎖(図1 四角枠部分)が活性に影響を及ぼすことを明らかにするとともに,nMレベルで活性を示すチアゾリン部位(図1 丸部分)の改変体を見出した。

4.作用メカニズム解析

 さらに,ApxA(2)をもとにFLAG-tagを付けた分子プローブを用いて,心筋前駆細胞であるFlk1陽性細胞から標的タンパク質の探索を行い,65のタンパク質複合体を同定した。これらのうち,標的候補のひとつとして浮かび上がったSGPL1(Sphingosine-1-phosphate lyase 1)に着目し,作用メカニズムの解析を行った。すなわち,大腸菌および無細胞系でそれぞれSGPL1組み換えタンパク質を作成し,表面プラズモン共鳴センサーグラムによりApxAとの相互作用を確認した。また,SGPL1のノックダウンにより,ApxAによる心筋分化誘導活性が低下することを確認した。さらに,SGPL1が分解する基質S1P(Sphingosine-1-phosphate)の添加により,SGPL1の阻害と同様にApxAによる心筋分化誘導活性の低下が起きることを確認した。

 一方,心筋分化誘導において重要なイベントのひとつであるWntシグナルの阻害について解析を行ったところ,ApxAの投与によりFlk-1陽性細胞のWntシグナルの阻害が確認された。また,既存のWnt阻害剤と比較したところ,ApxAは約1000倍低い濃度においてWntシグナル阻害効果及び心筋分化誘導活性を示した。さらにApxA投与によって,培養上清におけるWntシグナルのリガンド(Wnt3a)量が減少することを認めた。以上の知見より,ApxAはWntシグナル阻害やSGPL1活性化などの複数の経路に作用することによって,強い心筋分化誘導活性を発揮している可能性が示唆された。

5.In vivoにおける心機能回復作用

 亜急性期心筋梗塞モデルラットに浸透圧ポンプを用いて,1週間のApxA(全身性)投与実験を行った。投与開始から4週目の時点で,ApxA投与群ではコントロール群に比べ,線維化の抑制と心臓の収縮力の指標であるFS(Fractional Shortening)に改善を認めた。

 以上のように海洋シアノバクテリアから強力な心筋分化誘導活性を有する活性物質としてApx C(1)を見出し,全合成研究により得られたApxAとそれらの類縁体を用いて構造-活性相関および作用メカニズムの解析を行った。Apx類は,in vitro心筋分化系において,フィーダー細胞フリーの条件下で強力に心筋分化を促進するとともに,ラット亜急性期心筋梗塞モデルを用いたin vivoの系においても有意に心筋梗塞巣の減少を誘導した。これらの知見から,Apxは心臓再生戦略のアプローチ①および②の両方において,きわめて効果的に機能しうる有望なリード化合物であると期待できる。

[謝辞]

 シアノバクテリアの同定を行ってくださいました北海道大学大学院地球環境科学研究院の沖野龍文先生に感謝申し上げます。本研究は,科学研究費補助金 基盤研究(B)(No. 19310138,26282208),早稲田大学特定課題研究助成費(課題番号 2010B-193)による研究成果の一部であり,ここに深謝いたします。

[参考文献]

1. (a) Yamashita, J.; Itoh, H.; Hirashima, M.; Ogawa, M.; Nishikawa, S.; Yurugi, T.; Naito, M.; Nakao, K.; Nishikawa, S.I. Nature 2000, 408, 92-96. (b) Yamashita, J.K.; Takano, M.;Hiraoka-Kanie, M.; Shimazu, C.; Peishi, Y.; Yanagi, K.; Nakano, A.; Inoue, E.; Kita, F.; Nishikawa, S.I. FASEB J. 2005, 19, 1534-1536.

2. Luesch, H.; Yoshida, W.Y.; Moore, R.E.; Paul, V.J. Bioorg. Med. Chem. 2002, 10, 1973–1978.

3. Yan, P.; Nagasawa, A.; Uosaki, H.; Sugimoto, A.; Yamamizu, K.; Teranishi, M.; Matsuda, H.; Matsuoka, S.; Ikeda, T.; Komeda, M.; Sakata, R.; Yamashita, J.K. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2009, 379 , 115–120.

4. (a) Doi, T.; Numajiri, Y.; Takahashi, T.; Takagi, M.; Shin-ya, K. Chem. Asian J. 2011, 6, 180–188. (b) Doi, T. Chem. Pharm. Bull. 2014, 62, 735–743. (c) Masuda, Y.; Suzuki, J.; Onda, Y.; Fujino, Y.; Yoshida, M.; Doi, T. J. Org. Chem. 2014, 79, 8000–8009.

 
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